第2話

 仕事を終えて春の陽気を感じ取れる夕暮れ時、翔は実家を離れ二人暮らしをしている安アパートに帰るために駅を目指して歩いているとジャケットの内ポケットの携帯が震えて着信を教えてくる。

 画面を確認すると神の一人で翔を慕っている神鳴かなりからだった。


「どうしたんだ?」


 普段はメッセージでのやり取りで通話は稀なことで理由を尋ねると神鳴が息を切らして叫ぶ。


『そっち敵来てる!?』


 翔は神鳴の尋常ではない様子に周囲をゆっくり見渡して異常の無いことを伝える。


「大丈夫だ、何があった?」


 神鳴は走っているのか途切れ途切れに答える。


『急に結界みたいなのが…張られて、はぁはぁ…玉藻が殺られて今魔石抱えて…』


 翔の実家に居候していた仲間の魔物である玉藻前たまものまえが襲撃を受けて死亡し一時的に魔石と呼ばれる封印されたような状態になったと教えられる。


「今どこだ!?すぐに行く!」


 仲間のピンチを聞き場所を尋ねるが神鳴の小さな悲鳴と携帯が落ちる音がして数秒後、野太い声が聞こえてくる。


『誰と会話していたのか…まだ繋がっているか?』


「繋がっているぞ、誰だ!?神鳴はどうした!」


 翔の言葉に通話先の男は鼻で笑い要件だけ伝えてくる。


『神の関係者だろう?お友達が大事なら一人で今から送る場所に来い何人でもいいぞ?』


 通話が切れて少しするとメッセージに律儀に相手の現在地の地図が送られてくる。


「…神の関係者って言ったな…竜司さんの言ってた連中か?移動の内に連絡入れとくか」


 移動しながら黒鴉に通話をするも繋がらず仕方なくメッセージの転送と内容を伝える。

 そして自宅で待つ黒姫に連絡を入れる。


「悪い用事で帰るの遅くなる」


 翔の言葉に深く理由は聞かずに黒姫は何も聞かずに答える。


『…気を付けてくださいね』


「ああ、すまん、ありがとう」


 何も聞かなかった事に翔は感謝して通話を切り携帯をポケットに戻して指定された場所に急ぎ向かう。


 実家近くの夜の公園、翔が息を整えながら敵の姿を確認する。

 オレンジのつなぎ服の顔に刺青の入った男が何か四角い箱をお手玉しながら待っていた。


「神鳴はどこだ」


 男は無言でベンチに横たわる神鳴を指差す。

 翔は無言で刀を亜空間から呼び出して手に取る。


「へぇ、それが神の力?」


 呼び出された刀を男は興味深そうに見つめ聞いてくる。


「そうだ、あんたは何者だ?」


 翔の質問には答えずに男は手に持つ箱を突き出し叫ぶ。


「コード“キ”展開、お前はもう逃げれないぜ?」


 周囲が光ると同時に翔と男の二人だけで何もない白くで四角い箱の中のような空間に飛ばされ思考を巡らせながら翔は刀を構える。


(…これは結界か、コード“キ”?いや、今は戦うことに集中だ!)


 警戒する翔を男が笑いながらペラペラと銃を片手に説明を始める。


「すぐに終わらせてもいいんだが説明してやるよ、おっと動くなよ?…俺はオルゾフ、お前らみたいなしょうもない世界の新しい支配者さ」


 オルゾフと名乗った男に翔は機嫌を悪くさせないように何が出来るか確認しながら尋ねる。


「つまり…上位世界の住人か…?」


 男はニヤリとほくそ笑み銃を向けながら肯定する。


「ああ、そうだ!神の力を正しく使えるのは我々だけさ、関係者でも大人しく従うなら許してやらないことも…」


 翔は嘘の言葉に攻撃を予見して刀の精霊の赤鬼の焰鬼えんきと雪女の氷雨ひさめを呼び出し氷の壁を銃撃に合わせ出現させる。


「…あ?」


 予想外な翔の動きに驚くオルゾフに一瞬の隙が生まれ焰鬼が襲い掛かり一撃で壁までの数十メートル吹き飛ばし銃を手放させる。


「ひ、ひぃ!話がちげぇじゃねぇか!クソっ!」


 頑丈なのか鬼の一撃でも死なずにのたうち回りながら悪態をつく。

 仲間を傷つけられ静かに怒る翔はオルゾフが立ち上がるより前に刃を向ける。


「悪いが敵なら死んでもらう」


 無慈悲な翔の言葉にオルゾフは命乞いを始める。


「待て、待って!お、俺が口添えして上にもう手を出させないように…」


 精霊の情報を知らない男は下っ端だと気付き翔は冷酷に睨む。


「嘘だな…ダチの仇取らせて貰う」


 刃を汚すまでもないと焰鬼に指示を出してトドメを刺させる。

 結界はすぐに解かれ元の公園に戻され翔は気疲れからか深くため息をつく。

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