ここからお題篇
一通目 異世界からの手紙
青木部長
拝啓
時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。突然のお手紙にて驚かれたことと思いますが、なにとぞご容赦ください。
まずはこの度の無断欠勤と、返信が遅くなりましたこと、決算前の多忙な時期、なにより部長には大変なご迷惑をおかけしたこと、心より深くお詫び申し上げます。
私の携帯電話に部長よりおびただしい着信があったことはもちろん承知しておりました。それに対して返信できなかったことは故意ではなく、ひとえに私のおかれている環境のせいです。
信じられないかもしれませんが、私は今『異世界』というところに来ております。
その日の夜、十日以上続いた深夜残業で終電を逃した私は、徒歩にて帰途についておりました。その途中、車道の真ん中で震えている子猫を見つけたのです。私はかつて猫と暮らしていたこともあり、どうしても見て見ぬふりはできませんでした。そしてその子猫を助けようとしたところを、トラックにはねられたようなのです。
気づいたときには『異世界』にきておりました。そこは現代日本とはまるで違う、中世ヨーロッパのような世界です。
剣と魔法の織り成す世界に、最初こそ戸惑いましたが、私には趣味のゲーム知識がありました。今では仲間も増え、魔王討伐に欠かせないメンバーの一人として、せわしなくも充実した日々を送っております。
いつそちらの世界に戻れるのか分からないので、もうしばらくこちらの世界で頑張ってみようと思います。
部長には大変お世話になりましたが、私の現状をご理解いただければ幸いです。無事に暮らしておりますので、これ以上の心配も御連絡も無用と存じます。
またまことに勝手ながら、このまま会社にご迷惑をおかけするのも心苦しく、私のことは気にせず退職の手続きを進めてください。
最後になりますが、部長と会社のますますのご発展を祈念し、お別れの御挨拶とさせていただきます。
敬具
~ この手紙の返信はコメント欄に…… ~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます