その16の2



「っ……!」



 カイムは氷の魔弾を連射した。



 アルベルトは強力なスキルを発動したにも関わらず、無鉄砲に向かってくることは無かった。



 脚による回避、剣による防御、スキルの炎による防御。



 それらの三つを駆使し、的確にカイムの攻撃を無力化した。



 決定打を与えられなくなったカイムに、アルベルトが迫った。



「もらった……!」



 この恐るべき男に勝ちたい。



 そんな願いとともに、アルベルトは長剣を振り下ろした。



 そのとき。



(ミミィ!)



 カイムは心の中で叫んだ。



 するとアルベルトの視界で、銀色の何かが煌いた。



「っ!?」



 その何かに、アルベルトは対処することができなかった。



 ぱりんと、アルベルトの指輪が砕けた。



 対するカイムは、懐から抜き出したナイフでアルベルトの剣を受けていた。



 それから少し遅れて、アルベルトの炎がカイムの指輪を砕いた。



 このままでは自分の炎がカイムの体を焼いてしまう。



 そのことに気付いたアルベルトは、即座に炎を収めた。



 二人を囲う障壁が消滅していった。



 相討ちに近い形だったが、カイムの勝利だと言えるだろう。



「一応は俺の勝ちですね。先輩」



「何をした……?」



「あの決闘を見ていたのなら御存知でしょう。


 俺はテイマーなんですよ。


 天職の力を使わせていただきました」



「そうか……。


 指輪の細工に使った力だな?


 切り札を持っていたのは


 俺だけでは無かったというわけか。


 完敗だ。カイム=ストレンジ」



 カイムは切り札を隠し持っている。



 アルベルトは当然にその事を知っているはずだった。



 だが、カイムは銃技だけでも超一流の戦士だ。



 カイムが持つ圧力が、アルベルトにカイムの天職を忘れさせた。



 本来であれば、隠された力を警戒して戦わなくてはならなかった。



 そのはずだったのに。



 警戒を怠ってしまった自身の未熟さを、アルベルトは噛み締めていた。



「約束どおり、


 俺のことは皆にはナイショでお願いしますね」



 先ほどの激闘など無かったかのように。



 カイムは軽い口調でお願いをした。



「わかっている。


 そう簡単に破られるほど、王家の誓いは軽くは無い。


 だが、おまえを信用したわけでも無い。


 おまえのことは個人的に見張らせてもらうとしよう」



「えっ……」



(それは困るな……。


 決闘の条件に、


 俺に近付くなってのも入れとけば良かった……)



「どうした?


 何かやましい事でもあるのか?」



(スパイなんだから疚しいに決まってるんだよなぁ……)



「イエ。メッソウモナイ」



「そうか。


 それと、一つ聞いても良いか?」



「どうぞ」



「どうしてそれほどの力を持っていながら、


 ジュリエットとはマジメに戦わなかったんだ?


 指輪に細工などしなくても


 おまえの実力なら


 勝利は難しく無かったと思うんだが……」



「あまり俺の実力を


 周囲に知られたく無かったんですよ」



「目立ちたく無いのなら、


 そもそも決闘などするべきでは無いと思うが……」



「こっちにも事情が有るんです」



 実際はカイムには、ジュリエットと決闘する必然性など無かった。



 ただただルイーズに肩入れしてしまっている。



 スパイとしての義務感よりも、ルイーズのことを優先させてしまった。



 それだけだった。



 ルイーズのことをほうっておけば、もっと器用にクラスに溶け込めたはずなのに。



 どうしてそんな事をしてしまったのかは、カイム自身にも良くわかってはいなかった。



「そうか。その事情とやらが


 エスターラに害を為すようなもので無いと良いが」



「少なくともテロリストとかでは無いんで


 安心しておいてください」


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