その4の2
「占い師の予言のことですが、
ダンジョン利権を求めた帝国が、
エスターラに戦争をしかける。そうは考えられませんか?」
「どうだろうな。
オーンルカレが大型ダンジョンだってわかったのは
ダンジョンが出来てすぐの話だ。
当時の帝国は
特に揉め事を起こすこともなく
協調の姿勢を崩さなかった。
クリューズの方が軍事的には優位に立っていたにもかかわらずだ。
おかげでエスターラ王国の方も
クリューズからの冒険者や
冒険者学校への留学生を
積極的に受け入れている。
ダンジョンの出現からもう十年になる。
帝国の内情が不安定だなんて話も聞かない。
利権のためだけに戦争するってんなら、
今じゃないと思うんだがな……」
「必勝の盤面を整えるのに
十年の期間が必要だったとか?」
「違うと思うがな。さて。
こうやって喋ってるだけで何もかも分かるんなら、
スパイはいらないぞ。カイム」
「……はい」
二人を乗せた猫車が、学校の敷地内へと入っていった。
外周の塀を通り過ぎても、校舎まではまだそれなりの距離が有った。
「校庭まで猫車で入れるんですね」
「バカみたいに広いからな。
敷地内を定期ねこ車が走ってるって話だ。
編入初日に迷子になるんじゃないぞ」
「見取り図と方位磁石さえいただければ」
「磁石てオマエ。
普通の学生はそんなモン見ないんだよ」
「……そういうものですか」
「あのなあ……。
だいじょうぶかおまえ?」
「それを心配するなら
もう少し準備期間が有っても良かったんじゃないですか?」
「それを決めるのは俺じゃないしなぁ」
「そうですけど。
まあ、自分なりにテキストを読み込んで、
普通の学生の常識というものを勉強したつもりです。
やれるだけの事はやってみますよ」
カイムが小さな自信を見せたそのとき。
爆発音が、カイムたちの鼓膜を揺らした。
「っ……!? 学校内でテロ……!?」
「いや……。違うみたいだぞ」
ジムは落ち着いた様子でそう言った。
カイムはジムが顔を向けていた窓から外を覗いてみた。
すると広い校庭の一画に、人だかりができているのが見えた。
「勝負有りだね」
赤髪の少女が、地面に倒れた少年を見下ろしてそう言った。
その周囲の少年少女が、何やら騒ぎ立てていた。
「ロジャーがやられた! 告白ドゥエル失敗だ!」
「やっぱりな。ブロスナンじゃ無理だと思ってたぜ」
「言ってやるなよ。まあ俺も思ってたけど」
ジムは外の騒ぎから視線を外し、カイムを見てこう言った。
「どうやら……。
学生同士の決闘ごっこみたいだな」
「決闘……?
すいません。
俺が調べた学生の常識というものは
少し情報が古かったのかもしれません」
カイムが読んだ本には、決闘という単語は一度も出てはこなかった。
流行がうつろうのは早いものだ。
決闘こそが今の若者たちの最先端なのだろうか……?
「気にするな。
俺もどうやらオッサンになったみたいだ」
「なにせパパですからね」
「うるせー」
二人を乗せた猫車は、校舎の正面口の前で止まった。
猫車をおりた二人を、スーツ姿の男が出迎えた。
40歳くらいの、緑髪の男だった。
「オーンルカレ冒険者学校へようこそ。
ジム=ストレンジさんと
そのご子息ですね」
「ええ。その通りです」
「カイム=ストレンジです。
よろしくお願いします」
本当は、ジムの名字はストロングで、カイムはフィルビーだ。
だが親子に扮するということで、新しい名字を用意してあった。
それがストレンジだ。
カイムは何のためらいも無く、偽のファミリーネームを名乗ってみせた。
「はい。よろしくお願いします。
ぼくはこれからストレンジくんの担任になる
テリー=チッピングです。
2年生で転校ともなれば、
色々とたいへんな事も有るでしょう。
困った事が有れば
何でも相談してくださいね」
「ありがとうございます」
「それではまずは、
寮の方へ案内しましょう」
三人は猫車に乗り込んで移動した。
そして校舎の東にある三階建ての建物の前で、三人は車からおりた。
「ここが冒険科の男子寮です。
向こうに見えるのは魔導器科の男子寮ですね。
さらに向こうが鍛冶科、薬学科となっています。
女子寮はここから北の方に有りますが、
校則では
男子は女子寮には立ち入り禁止ということになっています。
覚えておいてくださいね」
「わかりました」
じきに校則を破ることになるとは思いもせず、カイムはそう答えた。
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