その3の2
(エミリオ=バドリオ……。
あいつが……あの男が……あんなことを言わなけりゃ……)
まさかこんな事になるとは。
長官室を出たカイムは、不機嫌さを隠さない足取りでエレベーターに乗った。
そして1階のボタンを押した。
「あっ、居た居た。カイム」
1階に出ると、40台の小柄な男性が声をかけてきた。
秘密情報部のねこ係、エリオット=ミッチャムだ。
「ミッチャムさん」
「ちょっとねこハウスまで来てくれる?」
「…………? 良いですけど」
エリオットに従い、カイムは本部の建物を出た。
そこから少し南に歩くと、日当たりの良さそうな建物が見えた。
秘密情報部所属の猫たちが暮らす場所、ひみつねこハウスだ。
カイムたちはねこハウスに入った。
すると物の少ない広々とした建物の中に、猫たちが待機しているのが見えた。
エリオットは建物内の隅の方へと歩いていった。
そしてとある猫の前で立ち止まった。
「この子のことなんだけど……」
黒いサーベル猫。
エミリオ=バドリオが乗っていた猫だった。
猫は目を閉じたまま、ぴくりとも動かなかった。
ただ眠っているだけ……そう言うには気の休まらない表情をしていた。
「ぜんぜんご飯を食べないんだ。
このままだと飢え死にしちゃうよ」
「良く有ることらしいですね。
飼い主を失った猫には」
「あのねえ、他人事じゃないんだよ?
この猫は、きみたちが捕まえてきた猫だろう?
猫が飢え死にするところなんて見たくない。
責任をとってなんとかしてよ」
「俺たちがって……。
猫を撃ったのはストロングさんですよ。
あの人がなんとかするのが筋でしょう」
「しょうがないだろ?
偶然きみとばったり出くわしたんだから……」
「まったくしょうがなくは無いですね。
それで、なんとかと言われましても。
いったいどうすれば……」
「とにかく何とかしてご飯を食べさせてよ」
(その方法を聞いてるんですがね……)
「もしダメでも文句を言わないでくださいよ」
カイムはそう言うと、建物内に有るねこキッチンへと向かった。
そしてねこ冷蔵庫を開けると、中に有る食材を確認した。
(……何にするか)
カイムは料理ができる男子だ。
得意と言っても良い。
だが見知らぬニャンコのために、凝った料理をする気にはなれなかった。
カイムは冷蔵庫を閉じると、隣に有る戸棚を開いた。
そして中にあるねこお菓子を眺めた。
(ニャンコ印優良レバー食、ニャロリーメイト。
こいつで良いか)
カイムは紙箱を掴むと、レバーのように細長い固形栄養食を取り出した。
そしてそれを雑に皿にのせた。
このねこフードは、ラジオCMで猫に人気だとうたわれている。
これなら文句はないはずだ。
カイムはそんなふうに考えながら、皿を片手に黒猫の方へ戻って行った。
「ほら、食えよ」
カイムは皿を猫の前に置いた。
カイムの言葉を聞いているのかいないのか。
猫はぴくりとも動かなかった。
「……無理やり口にねじこんでやろうか」
「ええっ!? 乱暴はダメだよ!?」
「暴力ではありません。にゃん命救助のためのショック療法です」
「言葉を変えただけだよねそれ!?」
「食えにゃんこ」
カイムはニャロリーメイトを持ち、猫に手を伸ばした。
すると……。
猫は目を開けて、すんすんと匂いをかいできた。
「そうだ。食い物だぞ。
腹減ってるよな? 食え」
「みゃあ」
「わっ!?」
猫は突然に元気そうになり、カイムにのしかかってきた。
サーベル猫の巨体がカイムを床に押し倒した。
猫は舌を出し、カイムの顔をぺろぺろと舐めてきた。
「ちょっと……!
俺は食べ物じゃないぞ……!?
これ! この手にもってるやつな!」
「みゃあ、みゃあ」
「どういう意味だよ!?
人のマフラーを引っ張るんじゃねえよ!?」
「みゃ」
猫はカイムのマフラーから前足を離すと、カイムの耳に口を近づけた。
そして彼の耳をはむはむとアマガミした。
カイムと猫の様子を見て、エリオットは微笑んでいた。
「カイムは猫あしらいがうまいみたいだね。
良かったけど、
本職としてはちょっと複雑な気分かな」
「見てないで助けてくださいよ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます