狂気のユーチューバーⅡ !!!

立花 優

第1話 私の小説


 さて、私が、何気なく、ユーチューブを検索していたら、『私は、遂に、我が子を食べてしまいました!』との、とんでも無い題名の投稿画面に遭遇してしまった。



 その、動画を再生してみると、何と、初めは、映画のエンド・ロールのような、文字だけの画面が流れたのだが、その文面が、また、この私に、衝撃を与えたのだ。



「この私が、我が子を食べてしまったのは、他でも無い、「カクヨム」で、ある自称:小説家が書いて投稿した小説の『狂気のユーチューバーⅠ:一年後、僕は、愛犬を食べます』に触発されたからだ」、と言うのである。



 ポイント数、わずか30ポイント弱、PV数も300件あるかないかの全くの駄作である。



 しかし、当該、ユーチューブの画面では、例え、どんな腐った小説であるとは言え、本人が、このような過激な行為に出たのは、あくまで、私の小説が引き金であって、この投稿画面は、あくまで、この私の小説に触発されたものだ、と言うのだ。



 つまり、私の小説により、この驚愕の投稿画面に、至ったと言うのだ。



 そんな馬鹿な!



 あの駄作の小説には、『一年後、僕は、愛犬を食べます』とは書いてあるものの、本当は、自分の愛犬を食べる事を売りにして、実は心理学的な効果を狙っての、いわゆる「サブリミナル効果」と「催眠術」を利用しての、連続殺人事件を扱ったものであって、小説の中であっても、愛犬のチワワのチーちゃんは、食べられていなかった筈だ。



 いいがかりもいい加減にしろと、思っていたところ、突如、画面は、文字だけが流れれている画面から、実写の動画画面に切り替わった!!!



 おお、しかし、これは、完全に異常な場面だった。



 モザイクのかかった、明らかに、母親らしき女性が髪を振り乱して、止めに入ろうとしているのだが……。



 次に、母親の絶叫が部屋中に響く。




「あなた、もう、辞めてぇ!!!我が子を、手にかけるのは、ギャーアアアア……」



「う、うるせい!俺は、この画面を撮って、世界中にこの動画を上げるんや。そして、ユーチューブ配信で、億万長者になるんや!」



 で、その後の、夫婦らしき同士の激高したやり取りの動画。だが、その音声も、動画UPの際に、音声編訳器を通している事は、明白で、本物の声では無い事は明白だ。



 しかも、この男は、ホッケー・マスクをかぶっており、右手には、大きな包丁がピカリと光ったと思ったその瞬間、バスン!と、振り下ろされた。



 一瞬で、鮮血が飛び散った!



 多分、この場面を撮っているであろう、固定されたビデオ・カメラかスマホのレンズに、鮮血がしたたり落ちたのだ。



 何せ、一番、驚いたのは、この私だ。




「カクヨム」でも、ほとんどポイントも取れない、私の駄作の小説を見て、このような蛮行に至るとは、ホント、狂気の沙汰では無いか!



 だが、更に、狂気の場面は続く。



 何と、次の画面では、大きな鍋に、ぶった切られた肉片が、グツグツと煮ている動画では無いか?



「こいつは、本当の狂人だ!」と、私は思ったものの、ただただ、勝手にテレビの画面は流れて行く。駄作の小説の作者の、この私「立花 優」にはどうにも止めようが無いのだ。



 そう言えば、かって、アメリカを中心に、実際の殺人事件の現場を録画した、「ブラック・ポルノ」と言う物が流行ったと聞いた事がある。



 ハリウッド映画のケビン・コスナー出演の『8ミリ』は、確か、そう言う映画だった筈だ。



 また、もっと随分昔の話だが、ユーチューブかどうかだったかは分からないが、外国の、多分、南米だろうが、少年2人が、可愛い子犬に灯油らしきものをかけて、その内の少年の一人がライターで火を付ける動画を見た事があった。



 録画しているのは、少年らの父親だった記憶がある。子犬は、悲鳴を上げて、走り回ったあげく、焼死したのだ。



 しかし、これは、それ以上に、明らかに人間の幼児殺害の決定的動画では無いのか?



 明らかに、殺人事件だ。



 一体、この私は、ドゥすれば良いのか?



 頭が回らない。大体が、あんなPV数の少ない、でポイント数も少ない、くだらない駄作の小説に触発されて、これほど、残虐な行為に出れるものであろうか?



「狂人だ。まともな方法では、捕まえらないだろう……」と、私は、直感的にそう思ったのだが、この思いは、後に、違う意味でも、その通りになったのだ。



 まず、警察に届ける前に、再度、同じ画面を見てみた。どこかの家の部屋の一室らしいのだが、どうも、マンションやホテルのような場所では無いのは、間違いが無い。



 また、ぶつ切りにした肉を煮ている大きな鍋は、カセットボンベ式のコンロを、小さな横幅1メートル、縦60センチ程の大きさのテーブルの上においてある。この鍋はコンロに載る、ギリギリの大きさであったと思慮される。



 つまり、IHでも無く、ガス・コンロでも無い。



 まるで、今流行の、キャンプ場でのバーベキューや、調理場面を見ているようだが、それ故、システム・キッチン等も全く見当たらない。



 私は、パソコンやスマホには、詳しくないが、かって読んだ小説で『スマホを落としただけなのに』等等を読むと、例えば、部屋の間取りや、窓の外に移っている光景から、その場所を、グーグル・ストリートビュー等や、賃貸住宅検索サイトから、突き止める事が可能らしいのだが。



 しかし、この部屋は、間取りもハッキリせず、当然、窓などは一切映っていない。



 これでは、如何なる人間でも、何処での殺害かは、特定できないであろう。



 そして、最終の場面になった。



 まるで、牛肉や豚肉を茹でたような肉片を、ホッケー・マスクの男は、皿に乗せてほんの少し、ホッケー・マスクを持ち上げて、その肉片にタレを付けて食べたでは無いか?



「完全に狂っている!」と、私は、思ったと、同時に、その動画はそこで止まった。






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