第82話 裏技
ダンジョンコアの部屋へルードを呼び出し、諸々の指示を与えて送り出したあと、あらためて俺はジャネットに話を聞くこととした。
「それでダンジョンについて教えてくれる、ということだったが――」
「えっ? あぁ、うん。そうよ、このあたくし、ジャネット・デイ・シュルツが教えて差し上げますわ」
ちょっと誇らしげに上体を反らす。それに呼応してご立派な、たわわに実った双丘がプルン、と揺れた。
……これは、わざとやってるのだろうか? それとも、天然なのだろうか?
とりあえず思うのは、ここにアレク皇女が居なくて良かった、ということだ。彼女がいたら興奮したネコよろしく、ふしゃあ! と、威嚇していたことだろう。それをリーゼロッテは内心爆笑しているか、それとも呆れているか。そんな光景がありありと想像できた。
それはともかく、彼女はダンジョンについて詳しいことに確かなのは間違いない。でなければ、ナオに食って掛かることも、言葉に納得することもなかっただろう。
しかし、そうなると先ほども感じた疑問。ジャネットはいったい何者なのだろうか? 過去にもダンジョンマスターの召喚に応じたのか、それとも……。
「俺にダンジョンのことを教えてくれる、と言うのはありがたい。だが……」
「あたくしが、なんでダンジョンに詳しいのか。と言うことでしょう?」
……質問に先回りするよう言葉を被せてくる。まぁ、この程度、想像くらいしてくるか。しかし、面白くない。
そんな俺の考えが読めたのか、ジャネットはくすり、と笑う。そして、豊満な胸の谷間に指を突っ込む――って、ちょい待て。
「現実に、そんなことをするやつなんて初めて――」
軽口を叩こうとして、押し黙る。光景がすごかった、とかそう言う訳じゃない。……男としては、間違いなく眼福だろうが。それよりも、彼女が胸元から取り出したものが問題だった。
彼女のしなやかな指に挟まれた球体。ほのかに青い水晶のようなもの。それに俺は、というよりナオも含めて見覚えがあった。
「ダンジョンコア、だと……?!」
そう、彼女が取り出したのはダンジョン。迷宮の核となるダンジョンコア。本来、ダンジョンの外へ持ち出すことのできないもの。それをこれ見よがしに出してみせた。
しかし、なぜ。なぜ、ダンジョンコアを持ち出せる?
「あははっ、やっぱり混乱してますわね。……ナオ、あなたなら答えられるでしょう?」
「えぇ、まぁ……。端的に言えば、休眠状態ですね。そのコアは」
「ご名答。さすがに解りますわよね」
ぱちぱちぱち、と正解に拍手する。そして、こちらに目線を向ける。
「これは一種の裏技、のようなものですわ。そして、あたくしがこれを持っている意味、解りますわよね?」
「あぁ、その程度なら。やはり、ジャネットもダンジョンマスターだったんだな」
「そういうこと。……半分休業してるようなものですが」
まぁ、そうだよな。コアが起動してない以上、ダンジョンマスターとは言えない、か。
しかし、今のジャネットの表情。いかにも忌々しい、と恥辱に歪んでいた。何らかの因縁があるのかもしれない。
そのことに気付いたのだろう。こほん、と咳払いでごまかすと、あらためて話しだした。
「ともかく、これであたくしが主さまの先達だということが理解できたでしょう?」
「それは、間違いないな」
ここまで来て認めない、などということはない。というより、あくまで疑問に思っただけでそんなこと、考えてもなかったのだが……。
「では、そうですわね……。なにから説明いたしましょうか」
うむむ、と悩んでいるジャネット。そも、そう言うのは先にこちらへ確認するものではないのだろうか?
あぁ、いや。しきりにこちらのことをチラッ、チラッ、と見ているな。早く質問しろ、と言わんばかりに……。
なんというか、この娘。ところところでお約束。というか、そんな行動をしてくるな。俺と同じようにあちらの記憶でもあるのだろうか?
ま、まぁ、良いか。それより、色々確認したいことはあるが……。基本的なこともそうだが、それ以上に確認したいことが2つある。それを聞いてみるか。
「じゃあ、1つ目だが、そのダンジョンコア。起動すれば、過去にジャネットが支配していたダンジョンが復活するのか?」
「……そ、そっちですの?」
俺の質問に意表を突かれたのか、目をぱちくり、と瞬かせている。しかし、すぐに気を取り直して答えてきた。
「その質問。答えはノー、ですわ。一応、生き残りもいる筈ですが、かのダンジョン。一度攻略されてますので、再起動、というのは厳しいですわ。もちろん、あちらに出向いてふたたびダンジョンを築けば、ある程度再利用するというのも可能ですが……」
……これは、なんというか、困った。疑問を解消するために質問した筈なのにまた疑問が生まれてしまった。そちらの質問を先にすべきか、それとも本来の質問を先にすべきか……。
ここは、本来の質問を優先するか……。
「では、もう1つ。そのダンジョンコアを使うことでこのダンジョンを強化する。などということは可能なのか」
2つ目の質問を受けたジャネットは、ニヤリと笑う。それはまるで想定していた、と言わんばかりで――。
「えぇ、できますわよ。もっとも、本来はあまり推奨されない方法ですけれども」
ふんす、と自身満々な様子で告げるのだった。
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