第24話 護衛騎士-氷塵のアリア
リーゼロッテがグレッグと死闘を繰り広げている頃、アリアはというと――。
「また姫様の悪い癖が出た、か……」
リーゼロッテがグレッグとの一騎討ちはじめたことについて嘆息していた。
彼女がまた、というように彼女。リーゼロッテが一騎討ちをはじめるのはいまに始まったことではない。
と、いうのも彼女。自身の王位継承権が低いことからか、どうにも王族という自覚が薄く、一人の騎士として行動することが多い。
それを憂慮した父王から騎士団長という地位を与えられたのだが、本人はその意図――はっきりといえば、少し落ち着いて回りを見ろ、という意図――に気付くことなく、己の手柄でのしあがった、と思っている。……まぁ、それも間違いではないのだが。
ともかく、そういうことから騎士団長という地位でも意味がなかったことから、お目付け役として派遣されたのが、いまは護衛騎士となっているアリアであった。
だが、そもそも地位で束縛できないのに、たった一人の人間で抑え付けられるわけもなく……。
なので、彼女ができることといえば姫騎士であるリーゼロッテの背中を守り、少しでも負傷する可能性を減らすこと。すなわち――。
「さぁ、貴様らの相手は私だ」
「おいおい、いくら姫騎士さまの護衛だからって、この数を相手にするつもりかよ?」
そうやってゲラゲラと笑う、人質を確保する傭兵団員たち。そう、グレッグの側近たちだった。もっとも、側近といえどその内情はたかが知れているが。
……ともかく、こいつらを残しておくとグレッグが危機に瀕したとき、一騎討ちに乱入しかねない。その危険性を排除するためアリアは動いたのだ。
「この数……? たかが4、5人がどうかしたのか?」
「てめぇ……」
不思議そうに首をかしげるアリアに、軽い挑発だと理解していても傭兵たちの機嫌は悪くなる。
もっとも、アリアは挑発などしたつもりはなく、本当に問題ない、と思っていたが。
「まぁ、良い。その程度の数で勝てると思うならかかってくるが良い」
「ならお望み通りにしてやるよ!」
アリアめがけ駆ける傭兵の一人。彼は剣を抜き放つと鞘を捨て、両手もちで大上段に構える。そのまま切り下ろすつもりなのだろう。しかし――。
「なん、だ……?!」
身体が、動かない……。驚き、身震いする。それに、なにか身体が悴んで……。
そこでやっと彼は自身の吐息が白いことに気付く。
「な、ん……?!」
「無様な――」
良く見ると細氷が周囲に降っていることに気付く。そして、それを見て彼はアリアの名前を、彼女の異名を思い出す。
「まさか、お前は氷塵の――」
それが彼の最後の言葉だった。
いつの間にか、近づいてきていたアリアの斬擊によって頸が飛ぶ。最後に見たのは血を吹き出し、倒れ伏す自身の肉体だった。
――氷塵のアリア。それがアリアの二つ名だった。
その名の通り彼女は水系統、氷属性の魔法を得意とし、ときに敵の足を氷結化させることで物理的に止め、ときに猛吹雪によって戦場を銀世界に変える。いわば氷版姫騎士とでもいわれそうな能力を持っていた。
そもそも、傭兵たちも疑問に思わなかったのだろうか。姫騎士が類いまれなる戦闘力を持つに関わらず姫騎士の
護衛対象よりも弱ければ話にならない、というある意味当然の帰結であり、それは逆説的にアリアが姫騎士-リーゼロッテより武が優れている、ということを意味することを。
そう、アリアはあくまでリーゼロッテを立てているだけであり、実際にアルデン公国最強を問われるならアリアに軍配があがる。
もっとも、リーゼロッテの才能自体は素晴らしく、アリアとてうかうかしてられないのは事実なのだが。
そして、彼ら傭兵たちは、その事実に気付かず人質から離れてしまっていた。
「く、くそっ――!」
一人が人質を有効活用しようとして――。
「が、ぁ――!」
足元から生えた氷柱に貫かれ、そのまま前衛的なオブジェと成り果てる。
「ふん、敵を前に背を見せるとは、死にたいのか?」
酷薄に笑うアリア。もはや、人質から離れた時点で彼らに勝機は――たとえ、人質を使ったとしてもなかった。なぜなら――。
「う、うそだろ! 夢なら覚め――」
身体ごと氷付けにされる傭兵。
「く、くそっ。こうなりゃやけ――」
勝てないと悟りつつも特攻を仕掛けようとした傭兵は、目を離した隙に眼前へ迫っていたアリアに両断される。
傭兵を両断した後、まるで彼女は滑るように移動を――否、事実滑りながら移動している。地面を凍らせ、それを例えるならスケートリングに見立て、彼女をスケートのように移動しているのだ。
リーゼロッテが風を使い高速移動するなら、彼女は氷を使い高速で動く。
どことなく動きが、戦い方が似ている両者。それは当然だ。なぜなら、リーゼロッテの師匠。それが氷塵のアリアなのだから。
それを知らなかったのが、傭兵たち最大の不運だった。そして、不運
「くそ、くそぉ――! ご、ぉ……」
どこからともなく飛来した氷針に貫かれる。彼らは確かに不運だった。しかし、その不運からは解放された。
……死んでしまえば運の良し悪しなど関係ないのだから。
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