第17話 アルデン公国公女 リーゼロッテ・アルデン

 女性が二人、洞窟の奥――二人はここがダンジョンだと気付いていない――へ進んでいた。

 金髪の女性、アルデン公国の公女リーゼロッテが自身の護衛騎士。水色の髪をした女性騎士、アリアへ話しかける。


「しかし、彼らはいったい何者だったのか。わかる、アリア?」

「いえ、姫様。私にも……」


 リーゼロッテの問いかけにわからない、と答えたアリア。

 事実、彼女たちを襲った悪漢は粗末な鎧にぼろぼろな装備と、どこかの傭兵崩れを連想させた。しかし――。


「それにしては規模が……」


 襲撃を受けたときのことを思い出すアリア。あのときは、こんな辺境に100名規模の襲撃があるなど夢にも思わなかった。

 しかも、二人は不幸にもほぼ着の身着のままの状態で放浪していたのだから。


「王国に雇われた傭兵、ということかしら……?」


 そもそも、彼女らがこのような状況になった元凶。それはアルデン公国の首都がランドティア王国の部隊から奇襲を受け陥落したことにある。

 リーゼロッテは王国がどのように公国内部へ兵力を浸透させたのかわからない。しかし、現実としてアルデン公国は奇襲を察知することができず、かろうじて脱出できたのがリーゼロッテと護衛騎士にして副官ともいえるアリアの二人だけであった。

 そして本来彼女、リーゼロッテは本来ルシオン帝国第4王子、アレクの婚約者兼として帝国へ嫁ぐ筈であった。

 その婚約者である第4王子アレクが突如幽閉される、ということがなければ。その理由はいまだわかっていない。が、リーゼロッテは理由の一端に自身の存在があるのでは、と考えていた。


 そもそも、アルデン公国の公女であるリーゼロッテ・アルデンは良い意味でも悪い意味でも有名だった。


 それは彼女の二つ名が姫騎士と呼ばれる所以。即ち、彼女は生まれる場所を間違えた、と言われるほどに武勇に優れた騎士として大成していた。

 事実、帝国の援軍として参じたとき、彼女は一騎当千の活躍を見せ、敵軍の一翼を壊滅せしめた実力を持つ。

 もちろん、それは護衛騎士のアリアや、彼女が擁した騎士団の力もある。だが、それでも彼女の実力は周辺諸国を震え上がらせた。

 それもそうだ。騎士団などと銘打っているが、実質な兵力でいえば50人程度で局地戦とはいえ二十倍の兵力、1000人を防ぎきったのだ。

 さらにいえば、その後その1000人を押し返し、壊滅に追い込んだ。といえばどれ程規格外かわかるというものだ。

 それだけの戦果をあげていたのだから、これでもし彼女が男で、さらにいえば公国に連なるものでなければ鬼神などと言われ、最悪排除されていたことは想像に難くない。


 そしてそんな姫騎士が王位継承権が低い王子の嫁としてくるのだ。アレクより継承権が高い王子たちからすれば気が気ではないだろう。

 もしも、かの公女が軍部と手を組みアレクを継承者として祭り上げたならどうなるか。有り得ないことではあるが、それでも万が一を考えてしまうのも無理はない。

 その結果がアレクの幽閉に繋がったのではないか、と予想している。


 そして王国もまた、リーゼロッテ擁する公国に正攻法では被害が大きくなる、と考えたからこその奇襲を選択したのだと予測していた。

 むろん、その方法についてはわからない。もしかしたら代官や領主たちが買収されていた可能性もあるし、少数で気付かれないように浸透していた可能性も否定できない。

 まぁ、いまはそんなことを考えている場合ではない。事実として奇襲で首都は陥落。公王、即ちリーゼロッテの父や王子たちは捕縛、最悪処刑されているかもしれない。

 そのときはリーゼロッテが公王の血を引き継ぐ唯一の生き残りとなってしまうのだから。

 そして、その場合はもはや公国の再興は諦めるしかないとも思っている。しかし、だからといっておめおめと生き恥を晒しているわけにもいかない。

 そのために彼女は帝国との国境へ向かっていたのだ。

 最悪の場合は帝国へ臣下の礼を取り、帝国の力を借り、公国の領土を取り戻すために。むろん、取り戻したとしてもそのときは帝国の一領土をという形になるのを承知の上で、だ。


 その途中で彼女ら二人は100人からなる傭兵らしき集団と遭遇。なんとか洞窟――ダンジョンへと逃げ延びたのだ。

 しかし、このままでは見つかるのは時間の問題。一応、遭遇時に10人程度は切り伏せてきた、が止めはさせていなかったのが今となっては悔やまれる。


「ともかく、アリア。いまは奥に進もう。うまくすればどこか別の場所へ繋がってるかも知れない」

「承知しました、姫様」


 そう言って二人は奥へと進む。





 のちに彼女はこの洞窟での出会いを運命の出会いだった、と仲間たちに語ることとなる。リーゼロッテとダンジョンマスター、二人の傑物の出会いこそが大陸の歴史を動かすことになった、と。

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