第15話 人の天敵
取り敢えず、ゴブリンどもは性転換した男の兵士相手にもそういった行為が問題ない、確認した俺は映像を切断した。
そしてこの後、結果が出るのは約一ヶ月後の話になるが……。
「まさか、それを待つわけにもな……」
あの兵士の話が真実とするならば、ここら一帯はかなりデリケートな部分であるのは間違いない。そんな場所、いくら兵士たちの士気が低いとはいえ、調査隊が行方不明になったと理解したら、流石に公国なり帝国なりが重い腰をあげるだろう。
つまり、最低でもその前にある程度防衛体制を整えるべきだが……。
「そうなると、現状のDPでは心もとないな」
今回の戦果はDP16000ポイントと、先ほどの兵士。もっとも、兵士が苗床になるかは未知数なため、最悪の場合
……別に約束についても問題ない。確かに一度、命は助けているのだから契約違反、という訳でもないしな。詭弁でしかないだろうが。
そんなことよりも、だ……。
「このDPなら、ある程度のダンジョン拡張は出来る。後は、戦力拡充をして――」
――開拓村、あそこを滅ぼすことが出来れば、さらなるDPを確保できるだろう。それに、あの村の住人は50人前後。それだけいれば
それよりも問題は……。
「今回の機能、結構消費が重いんだよなぁ……」
そう、今回の性転換機能。何気に一人使用するだけで1000ものDPを消費した。
あの、ボスモンスターとして配置したストーンゴーレムと同じコストだ。しかも、ダンジョンを1フロア拡張する場合も、同じコストがかかる。
そう考えると、とんでもなくコストが重い、ということが理解できるだろう。
まぁ、やってることは副作用のでない人体改造だからなぁ。そう考えると、それなりにコストが重くなるのも納得ではあるが……。
「マスター、ただいま戻りやした」
「ん……? おぉ、ご苦労。ルード」
そんなことを考えているうちに、兵士を巣へ運んできたルードがこちらに帰ってきた。
そうだな、こいつの考えも聞いてみるか。
「ルード、貴様ならこれからどう動く?」
「これからどう動く、でやすか……? マスターがそう問われるということは、打って出るつもりなんだと思いやすが……」
……ふん、流石にこう聞けばその程度は予測できるか。まぁ、面白くはある。ならば、もう一つ、聞いてみるか。
「くく、ならルード。貴様は、人間の天敵はなんだと思う?」
「……また、ずいぶんと質問の方向性が変わりやしたね。…………そうですなぁ、やはり普通に考えるなら、あっしらモンスターじゃねぇですかね?」
……ふむ、なるほど。ルード自身もモンスターだし、そういう結論に至るか。しかし……。
「なるほど、ルードはそう思ったのか」
「おや? マスターの言い方からすると、考えが違うご様子。是非ともお考えを聞かせてもらっても?」
「あぁ、いいとも――」
確かにルードが言う通り、モンスターが人間の驚異であることに違いない。しかし、天敵かと問われたら俺はそう思わない。
ならぱ、熊などの野生動物? 否、モンスターが天敵でない時点で、下位互換でしかない野生動物がなろうはずもない。
なら天候、台風などの自然災害? こもまたあり得ないだろう。何せ人間、人類は住居や灌漑整備を行うことによって、それらの驚異を軽減。ないしはね除けてきた。
ならば、いったいなんなのか?
……俺が考える人間の天敵。それは
なぜ俺がその結論に至ったか。それはひとえに人と動物の違い、とでも言うべきものだ。
その違いとはなにか?
それは命を奪うことに対する価値観の違い。
動物たちは基本、己が食べるために殺生する。が、人に関しては別だ。
確かに人も食べるために殺すことはある。しかし、それ以上に別の理由、己の快楽であったり、理念のためだったり……。
一番分かりやすい例で言えば戦争だ。
戦争自体も外交的手段のひとつであるが、それでも多くの命が
それも同族であるはずの人間の命が、だ。
そう、そこが人と動物の一番の違い。即ち、不必要な同族殺しを行う、という違いだ。
だからこそ、俺は人の天敵は人だと断じた。
動物でも、天候でもない。もっとも人を殺しているのは人自身なのだから。
そして人は他者を殺す時、道具を、智を以て殺す。
だからこそ、人という種族はモンスターという強者からも生き残ることが出来た。いわゆる弱者の戦い方、というやつだ。
ならば、モンスターが。ルードたちがその戦い方を習得することが出来たなら?
それは人に対する絶対的な手札を手に入れるのに等しい。
だからこそ、俺はルードにこの話題を振ったのだ。やつがそれに気付けば、よしんば気付かなかったとしても――。
そして、俺の考えを聞いたルードもまた壮絶な笑みを浮かべる。
それも道理だ。確かに、ゴブリンはモンスターである。
しかし、同時にモンスターの中では弱者なのだ。
ならば、俺と同じ結論に至らない訳がない。しかも、通常のゴブリンと違い、確かな知性があるのだから。
「ルード、俺が言いたいことは判るな?」
「もちろんでさぁ! あっしらで組織するんでしょう?
嬉々として語るルード。やつの答えに、俺もまた口角がつり上がるのを感じるのだった。
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