安楽死亡証明書

夕雨 夏杞

証拠品:破れたページ

「気分はどうですか」


『とても、落ち着いています』


「そうですか」


『やっと、解放される…

 苦しみから…

 思考というしがらみから』


「今ならまだ引き返せます」


『すべて私の責任です

 空っぽになってしまった私の』


「もしかしたらこれから…」


『わかっています

 でも、私が無理だと言ってしまえば

 それでおしまいなんです

 諦めない限り、

 奇跡が起こる確率は0にはならない

 しかし、本人が諦めたら0です


 あぁ…殺してやりたいくらい情けなくて

 苛立ちます

 自分がこんなにも醜い思考をしているの

 が、未だに信じられなくて許せません』


「…本当にいいのですね」


『はい、このような機会を与えて下さり

 心から感謝しています』


「最期に言い残すことはありますか」


『じゃあ、家族にありがとうを…いや、

 やっぱりやめておきます

 急だけれど、私は旅人になって

 世界中を飛び回ってるから心配しないでと

 もしものときは』


「信じないと思いますが…」


『それでもいいんです

 ほんとうに嫌な人間ですよね

 きっと生死をはっきりさせた方が、

 残された人もいつかは前に進める

 だからこれが、私の最後のわがままです』


「では、そのように致します」


『あの…』


「はい」


『本当にありがとうございました』


「…おやすみなさい、よいゆめを」


 ・

 ・

 ・


「被験者No.059、ルートB、終了」

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