第44話ユリの花







「流石冒険者ギルド、馬の性能が段違い。倍くらいは移動が早くなったんじゃないか?」



 朝、王都へ帰って来たというのに、その日の夕方にはまた【ブラウの街】へ向けて街を出た俺は、道中現れる魔物達を上手い事避けながら馬を走らせ、目的地までちょうど半分程進んだ場所にある広場にて、走りっぱなしであった馬を休憩させるべく小休憩を取っていた。



「……あんまり疲れて無さそう?やっぱりオレンスさんの所の馬より若いのかな?」



 今回俺が乗馬している馬はオレンスの馬では無く、冒険者ギルドで所有する早馬を借りる事が出来た。


 もちろん借りただけなので怪我をさせたり死亡させたりでもすれば、多額の罰金を科されるが、今回は緊急性の高い【魔の森】の出現とあって冒険者ギルドも快く馬を貸し与えてくれた。


 受付の人曰く『【魔の森】を早期解決出来るのであれば馬の1頭や2頭貸すのなんてお安い御用です。寧ろ今回はコナー様にご迷惑をおかけする形なので、申し訳ないです』と逆に謝られてしまった。


 罰金に関しては、元々高価な馬を貸し出す際の必要な決まりなので免除とは行かないが、馬を死なせてしまうような事が無い限り、罰金などは取らないとも言ってくれたので、気は楽だ。





「これならそんなに休憩しなくても出発できそうかな?なら【アイテムボックス】の中の人は外に出さないでそのまま【ブラウの街】に向かっちゃってもいいかな」



 流石にオレンスの老馬だと1時間くらいは休憩と水を飲ませねば体力が持たなかっただろうが、ギルドから借り受けた若い早馬は水を飲めばすぐにも走り出そうな程元気一杯な様子。


 これなら帰りの時より、さらに早く【ブラウの街】に到着出来そうだと安堵のため息を漏らす。



「………【アイテムボックス】の中、大丈夫かな…?そろそろ2時間くらい経つし、落ち着いたかな?」



 王都を出発して大体2時間。

 恐らく王都を出発して最初の頃は【アイテムボックス】の中で女性陣達がルイと一緒に≪水場≫にてシャンプーの効果を試していたはず。


 別に直接裸を見る訳ではないのだが、前にメルメス達がお風呂を使用している時に見た≪メルメス:全裸≫の表記のインパクトが忘れられず、この2時間の間ずっとステータスを確認出来ないでいた。




「さ、流石にもうそろそろ皆シャンプー終わってるよね?…よ、よし……“ステータスオープン”!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 【名前】 コナー


 【年齢】 15歳


【スキル】 アイテムボックス:Lv9


 【SP】 12/26


★アイテムボックス★


【ルーム操作】


≪自室≫ 10×10

【フォルン♀:睡眠】【ルイ♀:疲労】【その他▼】


≪メルメス≫ 10×10

【その他▼】


≪シングル≫5×5

【冒険者♂】【冒険者♂】【その他▼】


≪シングル≫5×5

【冒険者♂】【冒険者♀:興奮】【その他▼】


≪シングル≫5×5

【冒険者♂】【冒険者♂】【その他▼】


≪シングル≫5×5

【冒険者♀:興奮】【冒険者♂:睡眠】【冒険者♀:興奮】【その他▼】


≪シングル≫5×5

【冒険者♂】【冒険者♂:睡眠】【冒険者♂:睡眠】【その他▼】


≪シングル≫5×5

【冒険者♂】【冒険者♂】【冒険者♂】【その他▼】


≪ダブル≫10×10

【冒険者♀】【冒険者♀:困惑】【冒険者♀:困惑】【その他▼】


≪ダブル≫10×10

【冒険者♂】【冒険者♂】【冒険者♂】【冒険者♂】【その他▼】


≪ダブル≫10×10

【メリラ♀:興奮】【リズ♀:興奮】【カルロス♂】【リャーナ♀:敬愛】【その他▼】


≪ダブル≫ 10×10

【メメ♀:睡眠】【その他▼】


≪トイレ≫5×5

【その他▼】


≪水場≫5×5

【ミント♀:全裸】【ヘーニア♀:全裸 興奮】【アイリス♀:全裸 興奮】【その他▼】


≪ゴミ箱≫10×10

【その他▼】



【装備】


≪頭≫     :無し


≪胴体≫    :普通のシャツ


≪腕≫     :無し


≪足≫     :普通のズボン


≪武器≫    :無し


≪アクセサリー≫:無し




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「んぐッ……ミント達がまだだった……って、そうか!ミントは男装してて、みんなと一緒に入れなかったから最後に入ってるのか!」



 ヘーニアとアイリスは恐らくミントの付き添いの為に遅く入ったのだろうか?…いや、遅くに入るミントに乗じて『それじゃ私達ももう一回』とか言って2回目のシャンプーをしてる可能性は高いか…。


 しかし、今現在ミント達3人が俺の【アイテムボックス】の中で裸になっている所を直接見た訳でないにしろ、見ちゃいけないものを見てしまった罪悪感を感じつつも男の性なのか妙に頬が熱く感じるのは本当に情けなく思う。



「……ってやっぱり、ルイも疲労って出てる!やっぱり一人に任せるには人が多すぎたかな。……ってフォルンの事も王都に帰すの忘れてた!なんかもう色々やらかしてるな俺」



 フォルンが≪自室≫にいるのは恐らくルイが気を利かせて移動させてくれたのだろう。

 フォルンが部屋一つを占領してたら他の冒険者達の部屋が足りなくなっていたのでルイの判断は非常に助かる。



「―――≪ゲート≫…ルイ、大丈夫か?」


『…ご主人?もう着いたの?』


「いや、まだ半分残ってて小休止を挟んでた所。ルイが疲れてるみたいだったから心配でね」


 少しだけルイの様子が心配になった俺は、小さい小窓程度の≪ゲート≫を≪自室≫に繋げ、ルイに声を掛ける。

 ≪自室≫の中の様子をチラリと覗くと、ルイに与えたベットにフォルンが寝かしつけられていて、ルイは背もたれの付いた椅子に寄りかかり、如何にも『疲れたー!』といった様子が見受けられる。


『大丈夫だよご主人!ちょっと皆にシャンプー教える為に両手がふやけちゃったけど、ご主人の為に働けて楽しいよ!』


「ルイ……ありがとう。まだまだ【ブラウの街】には着かないからルイはゆっくり休んでな?フォルンにベットを使わせてくれてるみたいだし、俺のベットで寝ちゃっていいからな」



『えッ!……で、でも…』



「まぁ俺のベットじゃ嫌かな?シーツとか枕はキレイなのがそっちの方にあったはずだからそれを使っても…」



『ぜ、全然いやじゃない!ありがとご主人!』



「お?そう?ならいいけど……それじゃゆっくり休んでて」



 汗臭さは無いとは思うが、それでも女の子なのだし男が使っているベットを使うのは嫌かなと気を遣おうと思ったら、大きな声でルイに遮られてしまい、そのまま思わず頷いてしまう。



 ……逆に気を使われてしまったかな…?まだ小さいのに本当に良く出来た子なもんだ。



 ルイの『ご主人も無理しないでよ!』という返事を受けつつ≪自室≫に開いた≪ゲート≫を閉じ、再びステータス画面へ目を向ける



「…さて、後何か気になる事は……なんか女性陣の殆どが【興奮】になってるけど、これってシャンプーがおかげで精神的に“興奮”してるって事だよね?これだけ満足してくれてるならガトラーのリピーターにもなってくれそうかも。……ん?この【困惑】って…」



 ≪ダブル≫の部屋の一つ、女性が3人の部屋で2人が何故か【興奮】や【睡眠】では無く、【困惑】。


 【龍の涙】のリャーナに付いてる【敬愛】に関しては“カルロス”に対しての物なのは何となく理解出来るが、【困惑】は初めて見る状態であり、何が起きているのか想像がつかない。



「…もしかして、部屋の中で何か困り事でも起きてるのかな?…ってこの部屋、さっきのソロの女性冒険者と姉妹の冒険者達が相乗りしてもらった部屋か」



 万が一こちらの不備で迷惑を掛けていたら申し訳ないので、念の為この部屋にも少し声を掛けておくことにする。



「≪ゲート≫…すいませーん!聞こえますか」



『『――わきゃッ!?…だ、誰ですか…?』』



「驚かせてすいません。【アイテムボックス】のコナーです。部屋で何か困り事とか無いかなと思って声を掛けさせてもらいました」



『あ、そうでしたか……と、特に困った事とかは…別に』



『う、うんうん!シャンプーもすごく気持ちが良かったし、部屋は全く揺れないからすごく快適!』



 あれ?【困惑】と言う割には特に悩んでいるような声には聞こえないし、寧ろシャンプーで若干興奮気味になっているのか姉妹冒険者達は饒舌にこちらを褒めたたえてくれる。



 ならなぜ【困惑】と言う状態が表示されたんだ?



「そうですか……もう一方は大丈夫そうですか?」



『あ、えと……そのぉ…』



『ユリさんは……大丈夫と言えば大丈夫……ですけど…』



 ん?一気に言葉に詰まったかのような喋りになってしまったな。もしかしてソロの女性冒険者…姉妹さん達曰く、その“ユリ”と言う方が【困惑】の原因か?



「…何か問題でもありましたか…?」



『問題……そうですね、ある意味問題です……だって――』




 だって…?





『―――ユリさん……めちゃくちゃんです!』








「はい?」





――――――――――

――――――――

――――――





 姉妹の冒険者達は姉が“ユウ”、妹が“ユイ”と言うらしく、非常に似た見た目で、性格は姉がしっかり者で妹が基本的にオドオドした性格の2人組の冒険者パーティーだ。



 そんな彼女達が【困惑】していたのは俺が想像していた通り、もう一人の同室者であるソロ女性冒険者の“ユリ”だった。



 その理由が…。



『やっばいんです!やばばばいんです!【アイテムボックス】の中に入る前から“綺麗な人だなぁ”とか“カッコいい系の女性だなぁ”って思ってたんです!でも!シャンプーの後は別格!!!なんですかあのサラサラヘアと柳眉を携えた上での細くも太くも無い綺麗な流し目フェイス!鼻筋すっとしすぎじゃないです?王子様ですかってんだ!』


『お、おおおおお姉ちゃん!ユリ様に聞こえちゃいます!!もっと声のボリューム落として!!』



 おぉう……恐らく、今ステータスを見れば【困惑】から【興奮】に変化しているんだろうなと想像が出来るほど姉のユウは暴走していた。なんだったら妹のユイも“ユリ様”呼びしてる時点で大分アレなのだとは思うが…。



 つまり、2人は先程まで、シャンプーによって美人度に拍車の掛かったソロ冒険者のユリに見惚れすぎて思考が追い付かず、頭が混乱状態の【困惑】と表記されていたという事らしい。


 ちなみに、今姉妹が話している内容は器用な事に俺と姉妹間の間にしか聞こえないぐらいの微妙なラインの小声で話しているので肝心のユリには話の内容は聞こえていない…と思う?



『………///』



 あ、普通に聞こえてたっぽい。

 ちらりと≪ゲート≫の中に自身の半身を入れた状態でユリが地べたに座っている方を見ると、視線と顔の向き的にはこちらに意識を向けていない様に見えるが、髪から覗く耳と首筋が目に見える程紅く染まってる。



『わかってる…わかってるわユイ…でも、私、自分の思いを抑えきれないのッ!あんな全方位キラキラモンスターと同じ部屋で過ごすとか何その天国!』


『そんなの私だって同じだよお姉ちゃん!この部屋の空気、す、すごいよ!良い匂いしかしないもん!私、この匂いを嗅ぐだけでご飯3杯は行けるもん!』




 姉妹2人も言い争いに夢中でユリが話を聞いてると分からずにユリ談合?に繰り広げる姿に、俺は苦笑いを浮かべ、未だ羞恥に震えているユリへ頭を下げてから、静かに≪ゲート≫を閉じる。



「……なんか、王都で最初に会った時はもっと普通の人達だと思ってたのになぁ……」



 悲し気にそう呟き、ちらりとステータス画面を覗き見る。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


≪ダブル≫10×10

【ユリ♀:羞恥】【ユウ♀:発情】【ユイ♀:発情】【その他▼】



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「……スーー……」




 ……見なかったことにしよう。




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