第38話【ブラウの街】観光






 【ブラウの街】は王都から半日程度離れた林業関係に秀でた街である。


 人口は1万人とかなり少人数の街ではあるが、近くに王都があるので人の出入りは多い方だという。

 オレンスの様なガトラーと兼業では無く、歴とした行商人が月に何度も訪れるので、世間的には王都の飛び地的に見られる事もしばしば。


 立地は森と山に囲まれた場所にあり、きちんと街への行き方を知らねば行く道を山と森に阻まれる事になるので、オレンスにはちゃんと道を覚えろと注意された。




「……なんかエルフとか住んでそう…」



「…?エルフってなにご主人」



「あ、いや…ただの独り言」



 とまぁそんな訳で、王都から馬車で約6時間…ついに俺達は【ブラウの街】へ到着した。

 周りは木々が生い茂っており、如何にも魔物やらが出てきそうな雰囲気を感じるが、オレンスが言うにはこの森に魔物は殆ど生息していない…らしい。



 なんでもここ周辺に水辺や川が殆ど無いらしく、魔物含め他の動物達も殆ど住み着いていないらしい。


 普通であれば、これだけ大きな森なのだから川の一つや二つあるはずと思うのだが、聞けばこの森は植林によって出来上がった森らしく、自然で出来たものではないのだとか。



 なので、この森に生息しているのは飲み水や餌となる動物を必要としない植物系の魔物…トレントやマイコニドが小規模で生息する程度だという。



「―――坊主!そろそろ検閲だ。あいつ等を外に出しておいてくれ」



「わかりました」



 オレンスの呼び掛けで目線を前に向ければ、もうすぐ【ブラウの街】の門に到着する所だったので、オレンスが馬車を停めたタイミングで【アイテムボックス】からエルダ達3人を外に呼び、検閲を終えるのを待つのだった。







――――――――――

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――――――






「コナーちゃん…色々と話したい事はあるけど、まずはお仕事を終わらせてからじゃないとダメだから……急いで仕事を終わらせて来るわね!」



「我々も手早く仕事を済ませてきますか。ニルドレンさん、ほら行きますよ」



「あぁ」



 3人はそれぞれ本来の仕事を終わらせるべく、自分の目的地へ向かって行く。



「坊主、おめぇはどうする?荷物を馬車に出してもらったから自由行動してもらって構わねぇが、この間見たく俺の見学でもするか?」



 馬車には俺の【アイテムボックス】にしまっておいたオレンスの行商用の商品が出されており、オレンスはその品を売りに行くらしく、俺についてくるか?と疑問を投げかけてくる。



「いえ、今回は遠慮しておきます。俺も街の観光をしたいですし、ルイも……」



『ふぉぉぉぉ!?木が家になってる?!すげぇ……』



「…ね?」



 木の街だからか、ログハウスやら木の上に建てられたツリーハウス。

 巨木の中をくり抜き、その中に家を作ったような建物に目を輝かせるルイに観光を優先したくなるのはしょうがない。


 そんな俺の気持ちを理解したのか、軽く肩を竦めながら『あいよ、またあとでな』と去っていくオレンスに手を振って見送る。



「さてと……ちょっとばかし見て回ろうか。――ルイ!行くよー!」



「はーい!」






◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 【ブラウの街】は比較的木造の家が多く、居住性よりもデザインや遊び心を優先したようなログハウスやツリーハウスが立ち並ぶ街並み。



 イメージを例えるなら正しく“エルフの里”と呼んでも可笑しくはない程、木々がメインの街と言えるだろう。



「おぉぉ!でっかーい…」



「…あんな高い木の上に家を建てて怖くないのかな…下から見上げただけでちょっと怖いんだけど…」



 【ブラウの街】の中心地に向かって歩いてきた俺とルイの目に、全長50メートル程はありそうな巨大な樹の上にドンッ!とデカい屋敷の様な物が建っているのが見え、それに関心の声を上げるルイとあまりの高さに恐怖心が溢れる俺。


 他のツリーハウスも全然高い位置に建っているとは思うが、それでも大体10~20メートル程の樹なので、このデカい樹は特別な気がする。




「―――あら?コナーちゃんにルイちゃん。こんな所で会うなんて奇遇ね」



「あれ?エルダさん?」



 バカデカいツリーハウスを見上げていると、先程別れたエルダが近くに来ていたらしく、俺達を見つけて声を掛けてきた。



「コナーちゃん達は観光かしら?」



「えぇ。楽しく観光させてもらってます」



「ならよかった。……この大樹が気になる?」



 エルダは俺達が見ていたツリーハウスの方に目を向け、微笑ましそうにそう質問を投げかけてくる。



「この大樹は元々【ブラウの街】を治める領主の住む屋敷としてツリーハウスに仕立てた物のよ」



「だった?過去形ですか?」



「えぇ…ほら見て?あの屋敷までどうやって上ると思う?」



「え…?」



 普通ツリーハウスなどは外付けの階段やら梯子やらが付いている場合が多いが、目の前の大樹にはそれらしき物は見当たらない。

 ならば樹の中身がくり抜かれていて、上に繋がっているのかと入り口を探すがこちらもそれらしき影は見つからない。



「本来ツリーハウスを建てる際は、高く成長し樹を選ぶものなのよ」


「それは…」



 言われてみれば確かに、樹だって成長するのだから何も考えずにツリーハウスを作って数十年後には登れない程成長してしまう…何て事もあるのかも?


 前世の日本ではツリーハウスはメジャーでは無かったので、あまり知識にはないが、小さい頃やっていたドキュメンタリー番組で海外の少数民族がツリーハウスを建てる際の注意で【強度が弱い樹・高すぎるか低すぎる樹・成長の遅い樹】が駄目だと話していた。



 高すぎれば上り下りが苦になり、低すぎればそもそもツリーハウスにする意味が無い。

 強度は言わずもがな。


 成長の遅い樹が何故ダメだったのかは……駄目だ、昔の記憶過ぎて内容を思い出せないな。




「昔の領主は頭が弱かったみたいでね?『高ければ高い程良いじゃないか』って職人の制止を振り切ってあの屋敷の建築を強引に進めちゃってね?数世代はそのまま領主一族が住んでたんだけど何代か前の領主が『もうこんな高い屋敷無理!』って引っ越しちゃったのよ」



「……その領主って結構バカ?」



「あはは……ルイ?他の人がいる所で貴族の悪口は言わないようにね?」



 俺も喉まで出掛かったけど、何とか口にしない様にしたんだから。



「ではあの屋敷は…」



「もう100年以上放置されたオブジェみたいなものね。ここからは普通の屋敷に見えるけれど、実際に近くで見たらもうボロボロのハリボテ状態のはずよ」



 そうなのか……俺は目をジィィっと凝らして見てみると、確かに窓ガラスは殆ど割れているようだし、屋敷全体が微妙に歪んでいるように見える。



「今やあの大樹は観光客への観光名所扱いなのよ」



「確かに見ごたえはありますね。現に俺もルイも見入ってましたし」



「うふふ…確かに2人とも道のど真ん中で見上げてて可愛かったわね」



 うッ……言われて気が付いたが、周りには観光客である俺達の様子が微笑ましかったのか、こちらを温かい視線で見つめる方々がチラホラと…。



「…気を付けます…」



「あら良いじゃない、悪い事してる訳じゃないのだし……ってごめんなさい。まだ仕事の途中だったの忘れてたわ!2人とも楽しんで行きなさいね?」



「はーい!」「お気をつけてエルダさん」



 エルダはにこやかな笑顔を浮かべながら手を振り、急ぎ足でその場を離れる。


 …急いでる所を色々観光案内してもらって申し訳なかったな。



「ご主人、あの木の上っていけないのかな…?」



「え?あぁ…もう100年以上人の出入りが無いって言ってたし、登る方法が無いんじゃないかな?登れるなら登ってこの街の事上から展望したかったけど」



 きっと、あの大樹の上から見渡す街の風景は絶景だったろうなぁと想像しながら、再びルイと観光へと歩き出すのだった。









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