第1.3部 束の間の休息
帰る
人が滅多に立ち入らない大森林"ノコラズノ森"。
一度迷えば抜け出す事も困難なそんな場所の一角に物好きにも家を建て住んでいる人間が二人。
かつて"厄災の龍"と呼ばれていた強大な敵を下し、世界を救った勇者である"ラック"。
そんな彼と共に住むのはその弟子である"ローライ"。
そんな二人が突然訪れた私を歓迎し家へと招き入れてくれた。
私にはここへ来た目的がある、それは以前の一件の決着が結果としてどうなったのかを彼等は最後まで見届けていないという事で、日を改め報告しにやってきたのだ。
私は席に着くや否や、ローライは私からその話を聞き出そうと気が気出ないのかソワソワとした表情で机に置かれたカップにお茶を入れるも、用意されたカップは4つに更に量もバラバラという余裕の無さに
私も苦笑いでそのお茶を頂いた。
「そ・・・それでカペラお前・・・」
ドキマギと硬い姿勢で椅子に座る彼に隣に続いて座るラックは笑いながらいう。
「カペラが俺達の前に顔だすって事は無事だって事。だろ?」
「うん、式典には最後まで出なかったんだけど所長の話が確かなら予定通りの内容だったよ」
突然大きな音を立て叩かれる机。私とラックは驚いていると、叩かれた音のなる方を向くと凄い剣幕で目を見開くローライが椅子から立ち上がっていた。
「おま・・・お前!!式典最後まで出ろよ!!なんかそいつに変な事言われたらどうすんだよ!!」
「だ・・・大丈夫だよ・・・それにもしそんな場所で何か言われても反論した所で私の言葉なんて耳を傾けて貰えないし」
「まあそんな場所だ。お偉い様がこぞって魔獣であるカペラを蔑んで終わりだ。それにほら、こいつも元気に顔出してくれてんだ、結果オーライってやつだよ」
「し・・・師匠まで・・・」
「心配してくれたんだよね?ありがとねローライ」
私達は必死にローライを宥めると、少し落ち着きを取り戻したのか椅子に座り直し俯いたままお茶を一口口に含ませ黙る。
「それよりそんな事わざわざ言いにここまで来たのか?あのお嬢様はどうした?」
「うん、あれからしばらくは休みも貰ってるし、その間にでも報告はしたかったし、ていうかお嬢様ってリフレシアの事?」
「なんか強気だからな。それにあの子から凄い力感じるんだよな〜」
「え?」
突然のラックの言葉に驚いた。まさかローライが話したのかと顔を見ると何かを察したのか彼は黙ったまま首を横に振るい"言っていない"と態度で示す。
"リフレシア"は人の姿でいるもののその正体は
彼、私達が下した"厄災の龍"を束ね、実質的な権力者として君臨していた"支配の龍"の娘であり、
その事実を彼には隠している。
「それって封印の力じゃないの?」
「いや〜、なんかそういうんじゃないんだよ。雰囲気というか勘というか、なんかやけに風格があるんだよな」
「勘・・・」
彼の直感は、彼の持つ"探索"の能力以上に力を発揮し、実際に当たることも多く、そのレベルは正にズルでもしているのかと思う程に良く当たる。
同じ旅をした時には頼りにされる程ではあったにせよ、隠し事に際しては脅威的である。
正直隠す理由は特に無く、彼にその事を告白した所で何ともしないという信頼はある。隠す心苦しさはあるもののその事を伝えると彼に心配をさせてしまう可能性がある以上、言いたくない。
私は上手く誤魔化す為にナインズが何故交渉をすんなりと譲歩したのか私なりの考えを今一度整理し彼に話す事にした。
「あのね、私が提唱した事が全部上手い具合にまかり通った理由がそこにあるのかもって思ったの」
「どういう事?」
言っていいのか、それは確かな情報として街の事を彼に話す事になる。悪い言い方をすれば今度こそ巻き込む事になってしまう。言い淀んだ私に彼は優しく言う。
「前にも言ったけどさ、話しにくいなら話さなくても良いんだぞ」
「うん・・・ありがとう」
彼の優しさに私は胸を痛める。本当は心配してくれている事、頼って欲しいことを知っているのにどうしてもそれだけは出来ない。
今の平穏から彼を遠ざけたく無い。何より彼にはローライという立派ではあるがまだ幼い子供だっている。
「それで?そのリフレシアちゃんは一人にして大丈夫なのか?」
「う〜ん・・・一応留守番頼んだんだけどダメ・・・かもしれない」
「いや・・・おいもう夕方だし今から帰っても遅いぞ」
「家におもちゃいっぱいあるし暇はしないと思うんだけど」
「そういう問題じゃ無いだろ・・・ていうかお前まだ旅先でそんなもんばっか買ってんのか?」
「面白いんだよ、最近のボードゲーム。また今度持ってこようか?」
「いいよ、俺弱いしそういうの」
「そっか・・・最近家に収まる量超えちゃって所長に預けてるんだよね」
「お前俺たちの家を倉庫かなんかと思ってんのか?」
「お・・・俺は良いと思うよ、師匠」とさっきまで黙っていたローライは目を輝かせながらその話に食いついた。
「ほら、ローライだってこう言ってますし」
「良くねえって、ていうかお前そんな話で済むなら手紙でいいだろ!」
さっきまでの歓迎し家に入れてくれた時とは思えない程に彼は素っ気無い。相当ボードゲーム類が嫌いなのだろう、この手の話になると絶対に彼は遊んでくれなければゲームの類の話をしたがらない。
何故なら彼はそれらについては絶望的にセンスが無く、見知らぬ幼い子供が初見のボードゲームですらやり慣れている彼が負けてしまう程で勝てた所を見た事が無い。
「顔出せっていうから来たのに・・・」
「あれから数週間しか経ってないだろ。・・・とまあ言ったに違いはないか、もう時間も時間だ。泊まっていくんだろ?」
彼はため息混じりに重い腰をあげ食事の用意をしようと立ち上がり、それに続く様に私達も立ち上がる。
上手く話題を切り替えられた彼はきっと胸の内では少しホッとしているだろうと思うと面白かったが、隣に立つローライは空気を読み少し残念そうにしていた。
「うん、折角だからそうしようかな」
「じゃあそうだな、カペラは森でなんか積んできてくれ。ローライは暗くなる前に薪割り頼む」
彼の指示によって私達はそれぞれ外へと出る。家を出てすぐ近くに御伽話の様な絵に描いた切り株の上に剣が刺され近くにはまだ切られていない木材が多く積み上げられており、彼は刺された剣を手慣れた様子で持ち上げ振り下ろし木を両断する。
どこかで見覚えのあるその剣、それは彼が愛用していた伝説にも劣らぬ名刀"
かつて”厄災の龍”を打ち払い、その力によって”
いつからだろう、野晒しにされていたのだろうか剣は見るも無惨にボロボロに錆びていて、彼が戦う姿を見ていた時までには使い古された形跡はあれど、しっかりと手入れはされ刀身はとても綺麗にはされていた。
もう彼には戦う意志は無いのだという決意なのか、はたまた前線から外れた彼の管理能力の欠落なのか・・・
どちらにせよあまり目にしたくなかった光景には違いない。かつて世界を平和へと導いた剣はただ木を切り割るだけの鉄の塊へと化し使われているのだから。
彼を慕う人は少なくはない、その一人である彼ローライにもこの事をなんとしても隠し通し墓まで持っていこう・・・。決意を固く抱きながら、木が割られていく音が鳴り響く中、美味しい森の恵みを頂きに森の奥へと一匹静かに入っていくのでした。
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