第2話クリム

私の名はベノラ、名前は最近思い出した。

だが、それだけで他の記憶は思い出せないままだ。このままでは思い出せないままなので、外に探索に出ることにした。


外の世界はどんな姿を持つのか、興味を持っていざ外に出てみるとそこは、鬱蒼とした森だった。とても明かりが見えず、この森で本を読もうとすれば文字を読むことも困難だろう、そんな暗さだった。


「・・・・・・っ!!!」

だがそんな暗闇の景色を見たべノラは目に一層輝きを持たせた。まるで、本で読んだ景色が今目の前にあると。実際には見たことがない自然がこの眼の前に燦然と輝いて見えたのだ。

そんな好奇心の想うがままにべノラの足は前進をする。


夢中になって探索をしていると、足下に何かがぶつかった。目を凝らしよく見てみると、そこにいたのは不定形の生き物だった。それは触ってみるとプヨプヨしていて艶と弾力があり、そしてどこか硬さをもつ生き物だった。ずっと触っていると謎の不安感が押し寄せてきたが一瞬で消え失せた。今のは何だったのかは分からないがこの生き物が反応をしたんだということはわかる。それに何故かこの生き物を見ると親近感を覚える、一体何故だろうか?


「・・・不思議な生き物だな・・・」そう感想を述べているとその生き物は自分の手から離れてどこかに行ってしまう。


「待って!・・・」

離れていった方向へ追いかけていくとまた何かにぶつかった。今度は先程とは違い、大きく細長い生き物だ。触ると、滑らかで冷たい感触がある。先程とは違う生き物だ。そう思い上を見上げると、その生き物は大きく口を開けこちらに近づいてきた。

ベノラは一体何をやっているんだろうかと見ていると、向こうの茂みから先程の、不定形の生き物が現れた。大きな口を開けた生き物が不定形の生き物に気づくとギョっとした顔を見せるとすぐにその場を立ち去った。その不定形の生き物は私を見るとこちらに近づいてきて、

「キュッ?」っと大丈夫?と言わんばかりに声を発した。するとそこに、先程とは違い巨大な長い爪を持ち毛に覆われた生き物が現れてこちらを威嚇してきた。私は危ない!と思いその不定形の生き物を抱えてその場から逃げ出す。

それに驚く不定形の生き物と巨大な爪を持つ生き物。一心不乱に逃げ出すベノラ。それを見て時間差で追う巨大爪。

それから必死に逃げ出すがベノラは走り慣れていないのか、石につまずき転がり木にぶつかってしまう。

「・・・いたた・・・ごめん、大丈夫!?」

「・・・キュ~」

不定形の生き物を心配していると、巨大爪はもう目の前に近づいていた。周りを見ると木に覆われていて逃げ場がないようだ。

ベノラはどうしようかと思案していると、巨大爪は爪先から斬撃を飛ばしてきた。ベノラは不定形の生き物を抱えたまま上手く避けることに成功した。ただ、その斬撃を受けた木は大きな爪で引っかいた傷が残った。と思ったら、その木は斬撃が飛ばされた方向に斬られていた。

それを見てベノラはゾッとしていると巨大爪はこちらを見て動こうとしている。それを見て不定形の生き物は前に出ようとしているのが見えた。それを見てベノラは思った。


「・・・私がやるんだ、私がやらないといけないんだ・・・」そう言い、巨大爪に向かって飛び出した。



「何とか、何とかするんだ〜!!!」



腕を上げ、振り下ろすと先程の巨大爪が放った斬撃と同じものが放たれた。それを受けようとする巨大爪は受け止めきれず体を三枚におろされてしまう。

それを見てベノラは驚くが、不定形の生き物を再び抱えてその場から走ってどこかへ去る。

「・・・ハァッ、ハァッ、さっきはありがとう!・・・私はベノラ!よろしくね!」

「あなたの名前は・・・」

そういえば私はこの子の名前を知らない。いや、もしかしたら名前がないのかもしれない。だったら、名前を考えなきゃ。

「・・・うーん、走りながら考えるから何も浮かばないや」

「・・・キュッ?」

「そうだなぁ・・・・・・」

「キュキュッキュッ!」

「・・・・・・決めた!クリムだ!君の名前はクリムだよ!」

「キュッ!!」

「とりあえず、ここから出ないとねクリム!」

「キュッ!!!」


こうしてこの一人と一匹は出逢った。この邂逅こそが素晴らしきものになることを未だ誰も知らない。





一方、こちら『邪神の森』


三枚おろしになった巨大爪はベノラがその場を去った後に突如発火を起こし、焼け焦げたという。

そして、それを横目にニヤッと笑ってべノラが行った方向に去るものがいたという。

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