第7話 研究施設の長い夜
翌日、モンスターの事は保護官の方が詳しいと言う事で、リホの手引きによって一行はとあるモンスター研究施設に侵入する。彼女いわく、この施設には多くのモンスターが捕えられていて、日々何らかの研究に利用されているとの事。
この事実を知ったドラキュラは憤慨、すぐに施設のモンスター開放に向けて動くのだった。
真夜中、無人の研究施設で大爆発が発生する。それによって施設の分厚い壁が破壊された。煙が漏れ出す中を走り抜けていく2つの影。
それはドラキュラとリホだった。何かの失敗をやらかしてこの事態になったようだ。
「ヤバいな」
「ごめんね」
急いで逃げるリホは石になったフクロウを小脇に抱えている。彼女のもう片一方の手をドラキュラはしっかりと握り、必死で何かから逃げていた。
話は数時間前に遡る。研究施設に辿り着いた一行は、夜になってセキュリティが完全に全自動システムに切り替わったのを確認。予定通り、捕らわれモンスターの解放作戦を実行に移した。リホのハッキングでシステムを掌握。施設内の地図情報も事前に入手済みだ。
そのデータに従って、ドラキュラ達は手際よく捕らわれモンスターを開放していく。
「みんな、逃げるんだ! 早く!」
「トリ君、頼むね」
「任せてくれホ!」
リホが該当箇所へと誘導し、ドラキュラが檻を破壊、開放したモンスター達をトリが天空の楽園へと運搬。見事な連携プレイで計画は順調に進んでいった。
それは何度目かのモンスター開放のプロセスが終了した後の事、施設内を歩いていたリホはデータにない通路を発見する。好奇心が
その先にあったのは無数のモンスターの化石群。どうやら、その部屋は過去に滅びた古代モンスターを研究している場所のようだ。
「へぇ、すごいなぁ……」
リホはこの部屋を好奇心の赴くままに観察し始める。珍しいものがあったらちょっと拝借したり、展示されているガラスケースに手をついてじっくり眺めたり――。
トリが戻って来るまでの空き時間に少しだけ寄り道をしようと、そんな軽い気持ちだった。
「おーい、あんまり変な場所には行かない方が……」
姿が見えない事を心配したドラキュラが、彼女を呼びに同じ部屋に入る。その時、リホはこの部屋で一際大きい化石を触ろうとしていた。
「お、おい。それ……」
「あ、ドラキュラ。これね、過去のモンスターの化石。大きいよねえ。昔はこんなのが世界中を歩き回ってたんだよ」
「よ、余計な事すんなよ。悪い予感がする」
「心配性だなあ、もうただの石だって」
化石を見て怯えるドラキュラにいたずらごころが芽生えたリホは、一番大きな化石をベタベタと触りだした。研究途中だったからか、この化石はその場で触れるようになっていたのだ。
ベタベタと満足するほど触りまくった後、彼のいる方に振り返ったリホはドヤ顔でサムズアップ。この時、ドラキュラは彼女の背後で目を赤く光らす古代の遺物に目が釘付けになった。
「お、おい……。後ろ、後ろおっ!」
「えっ?」
リホが触ったからなのか、それとも別の要因が原因なのか。化石だと思われていたそのモンスターが、突然息を吹き返したのだ。
彼の声に振り返ったリホは、この信じられない光景に絶叫する。
「キャーッ!」
「我、永き眠りから覚めん」
巨大化石モンスターの表面の石の部分が、日焼け時の薄皮のようにペリペリと剥がれていく。モンスターは化石だったのではなく、石化していただけだったのだ。
完全に元の姿に戻ったそれを一言で言うなら、ゲームの世界でよく見る魔王の姿。全長は10メートルを余裕で超えていて、脅威以外の何物でもない。
その外見に違わず、目覚めた大型モンスターは突然物騒な言葉を口にする。
「この世界、我の欲する世界にあらず。故に滅ぼさん!」
外見ばかりでなく、言動すら魔王そのもの。石化の呪縛から解かれたこの魔王はまず手始めにと、自分が安置されていた部屋を壊し始めた。口から吐くエネルギー波と両手から発する魔法によって部屋は一瞬で破壊されていく。
この騒ぎに施設のセキュリティ装置も可動するものの、基準が現行のモンスターの能力に調整されていたため、魔王の相手に全くならなかった。
「このバケモノめっ!」
ドラキュラは魔王相手に攻撃を仕掛けるものの、同じく歯が立たない。それどころか、魔王のデコピンで軽くふっ飛ばされる始末。
「ドラキュラッ!」
「大丈夫だ。けど、ヤベえぞアイツ……」
ふっ飛ばされた彼は、額から血を流しながら何とか自力で起き上がる。想定外の大惨事が発生してしまい、リホは困惑した。
「どうしよう……。ねぇ、どうしたら……」
「落ち着け! あんな奴、トリ帰ってくるまでの天下だ!」
「そ、そっか。そだね」
「だから今は……逃げるぞっ!」
ドラキュラはリホの手を取って駆け出した。魔王は別にドラキュラ達に興味を持っていた訳ではないので、逃げ出す2人を追いかけようともせず、施設の破壊を続行する。一体のモンスターのせいで辺りはあっと言う間に火の海と化した。
必死で走った2人が施設の外に出た時、ちょうどタイミング良くフクロウは戻ってくる。
「ただいまホー! 何かあったホ?」
「モンスター開放は後だ。それより……」
ドラキュラが状況説明しようと喋りかけた時、トリは暴れている魔王の存在を感知した。
「……アイツ、ヤベえホ!」
「トリ君、分かるの?」
「アレは、俺様達と共に生まれた失敗作だホ……。何でここにいるんだホ?」
どうやら、魔王と伝説のフクロウには何らかの因縁があるらしい。こちらが気付いたと言う事は向こうも気付いたと言う事で、魔王が壁を破壊してやってきた。
「ム、そこにいたか我が宿敵!」
姿を現した魔王を目にして、トリは勢い良く飛び出す。そうしてそのまま超高速で突っ込んでいった。
「もう一度石にしてやるホ!」
「次はお前が石になる番だ!」
この伝説のモンスター石化対決は――魔王の勝利に終わる。フクロウは巨大化する直前で石にされ、全長30センチの可愛らしいオブジェと化した。
「ふん、他愛もない!」
魔王は自分の勝利を確信して高笑い。石になったトリをリホはすぐに回収する。
「トリくーん!」
「貴様、そいつの関係者か? ならば、我の敵なり!」
「に、逃げろーっ!」
こうしてトリを封じられた2人は魔王に敵認定され、施設内を逃げ回っていたのだった――。
強大な力を持つ魔王にとって、目の前を逃げ惑う小さなふたつの存在など目の前を目障りに飛ぶ小さな虫のようなもの。
なので、遊びのように2人を追いかけているに過ぎなかった。
「ついに我の天下なり! 愉快愉快!」
魔王はわざと攻撃を外して、逃げ惑うドラキュラ達をからかっている。トリを石化された2人に、この強大な存在に対抗する手段は何もない。ただ必死に逃げるばかりだった。
「うあっ!」
必死で逃げていたリホは道の段差に足を取られ、思いっきりコケてしまう。それは追いかける魔王にとってチャンスだった。
「お前も石にしてやる」
「うわあああ!」
魔王の石化魔法が足をくじいた彼女に迫る。突然の恐怖にリホは動く事が出来なかった。
「馬鹿っ!」
保護官のピンチにドラキュラが動いた。
「いやああああ!」
1人になってしまったリホは絶叫した。魔王はゆっくりと彼女に近付く。最後の1人を物理的に潰すつもりなのか、魔王の手が近付いてきた。焦った彼女は少しでも抵抗しようと、何か投げられるものがないか必死で床を触る。その時、突き飛ばされたはずみでポケットから飛び出した何かの欠片が手に触れた。
リホは無意識の内に小脇に抱えていたトリにそれを当てる。何気ないその行為によって、石化したフクロウから強い光が放たれた。
「キャッまぶしっ!」
「な、何ィ?」
光が収まった時、そこに奇跡が発現する。さっき石化してしまった伝説のモンスターが、彼女の行為によって解除されたのだ。
「復活ホォーッ!」
「な、何……だと?」
強烈な光を突然浴びた魔王は、その刺激で一瞬動きが固まってしまう。その隙を突いてトリが石化魔法を唱えた。
「石になるホー!」
「しまったァァァ!」
石化スピード勝負の再戦は、今度こそフクロウの勝利となった。過去に石化した時はそれ以上の事はしなかったものの、また復活すれば面倒だと言う事で、トリは速攻で石化した魔王を粉々に破壊する。
全てが終わった後、フクロウは満面の笑顔で振り返った。
「これで大丈夫ホ」
「う、うん……」
その後、残りの捕らわれモンスターを開放して作業は滞りなく終了。魔王騒ぎで施設の関係者が駆けつけたのは、最後のフクロウ便が飛び立った後だった。
「う、うーん……」
「あ、起きた? かばってくれて有難うね」
目を覚ましたドラキュラをリホが覗き込む。さっきまで石化状態だった彼は、思わず自分の両手を動かしてそれを見つめた。
「あれ? 俺……助かったのか?」
「ちょっとごちゃごちゃしてたから、全てが終わってからになっちゃったけど……」
「全て?」
「そう、見て!」
彼女に言われて見渡すと、ドラキュラの目に映ったのは天空の楽園に助けたモンスター達が思い思いに楽しんでいる姿。そう、ついに夢が叶ったのだ。
まだまだ虐げれているモンスターはたくさんいるはず。そんな悲しいモンスターを少しでも多くこの楽園へ導こうと、彼は決意を新たにするのだった。
感無量状態の彼を見て、リホは優しい笑顔を向ける。
「お目覚めの感想は?」
「ああ、最高の目覚めだぜ」
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