最後のモンスター達と伝説のトリ
にゃべ♪
第1話 追い詰められたモンスター達
モンスター達は追い詰められていた。文明を発達させた人間達がモンスター用の武器を開発し、モンスター狩りを始めたからだ。昔は人間を脅かしてきた伝説の怪物達が、今では人間によってどんどん追い詰められていく。
モンスターが安心して生息出来るエリアは、今モンスター達が潜んで暮らしている北の鳳凰エリアただひとつだけになってしまっていた。
その一角では狼男とミイラ男とゾンビが焚き火を囲んで話をしている。
「ここまでかよ……」
「明日の事なんかどうでもいい」
「もう今日は寝てしまおうぜ……」
どんな屈強なモンスターも、今の人間にかかればただの暇潰しの遊び程度の存在だ。数が集まったところで、かつての栄光を懐かしむか、後ろ向きの話しか話題にはならなかった。
それでも人間の魔の手から逃れて最後に残されたこのエリアに集まったモンスター達は、言わば選りすぐりの精鋭達には違いない。
中にはしっかり前を向いて、これからもずっと生き残ろうとする強い意志を持つ者もまだ僅かに存在していた。そんな勇気あるモンスターの1人が、ドラキュラの少年だ。
彼は、やる気のない大人モンスターに向かって不満を訴える。
「みんな何情けない事言ってんだよ! 人間なんて俺達でぶっ潰そうぜ!」
「お前馬鹿か」
熱血青春バカに狼男がツッコミを入れる。当然、熱血少年は歯をむき出しにして食ってかかった。
「牙の抜けた爺狼に言われたくないね!」
「お前、丸耳黒ネズミや電撃黄色ネズミがどうなったか知ってんのか?」
「捕まった後の事なんか知らねーよ!」
「アイツら、捕まった後は人間の見世物になって、人に媚びて生きてんだぜ?」
ドラキュラは捕まった仲間達の末路を聞いて背筋を凍らせる。人に狩られるまでは仕方がない。それは勝負の世界だから。
けれど、負けた後に晒し者にされる未来が待っているだなんて。モンスターの誇りを捨てて人に媚びて生きるだなんて――。彼は狩られた仲間達の事を思い、絶望で膝から崩れ落ちた。
「それで世渡りの上手いやつはテレビの人気者になったりしてな。もうモンスターだった頃の面影なんて全然ないんだぜ」
「止めてくれ!」
「電撃だ! とか命令されてな。いいように使われてるんだぞ?」
「止めてくれって言ってんだろ!」
狼男の現実指摘攻撃は、まだ理想に燃える若いドラキュラには刺激が強すぎたようだ。ショックを受けた彼はうずくまりながら、ある閃きに顔を上げる。
「そうだ、長老なら! 長老ならきっと人間に逆襲出来る方法を知ってるはず!」
「バーカ、そんなのがあったらこうなってしまう前にとっくにやってるだろーが」
「でも何かは知ってるかも知れない」
「お~し、そう言うなら聞いてみようじゃないか」
こうして売り言葉に買い言葉となり、モンスター一行は長老の元へと向かった。この長老、長く生きているだけあって知識だけは無駄に豊かにある。
見た目は体中がもじゃもじゃでどこまでが顔だか体だか分からない緑の塊だけど。長生きと言うだけで長老にされただけのお飾りな存在だけど。
「ほう、なるほどのう」
「長老、人間に勝てる方法を教えてください!」
「ある訳ねーつってんだろ」
「黙ってろよ!」
ドラキュラが話を聞こうとするとすぐに狼男が横槍を入れるため、中々話が前に進まない。2人が何度も無意味な攻防を繰り広げていると、長老はゴホンと大きく咳払いをする。
それで、2人は必然的にこの長生きモンスターに顔を向けた。
「フクロウじゃ! フクロウが儂らを未来に導いてくれる!」
「何だよそれ、最後の切り札ってか?」
「そうじゃ、まだ負けてはおらんぞい」
「伝説のフクロウ……」
長老の話を聞いたドラキュラは興奮していた。今まで衰退するしかなかった運命が、ここで開ける気がしてきたからだ。
こうして、ドラキュラをリーダーとするフクロウ捜索隊が結成される。話に乗ったのは、まだ未来に希望を持つ若いモンスターばかり。愚痴が口癖の大人モンスター達は、お伽話に未来は託せないと全員が参加をキャンセルした。
捜索隊は、長老に詳しく話を聞いて鳳凰エリアをくまなく探していく。この場所のどこかに、戦況をひっくり返せるほどの力を持つフクロウがいるらしいのだ。
長老の話と周囲への聞き込み調査、そして詳しい現地調査により、その伝説の正体は割とあっさり判明した。
「これが……伝説のフクロウ?」
そのフクロウを前にして、ドラキュラはまたしても絶望する。見つからなかったのならまだ希望も持てただろう。けれど、存在してしまった。その伝説の元ネタを知ってしまったのだ。
現実には夢のような話なんて転がってはいない。夢を見た話が大きく膨らんだだけだったのだ。
「ただの石像じゃないか……」
そう、そこにあったのはただの石像。よく出来たフクロウの姿を模した石の塊。それが、いつしか世界を救う救世主のような役割を持たされていたのだ。
真実を知ってしまった他の若きモンスター達も大いに失望してしまう。やっと見つけた希望の火が、目の前でいきなり消えてしまったのだ。
悪い事は続くもので、エリア内が絶望に打ちひしがれているそのタイミングで人間達、そう、モンスターのハンター達が突然この楽園に殴り込みをかけてきた。事前に全く準備の出来ていなかった仲間達は、次々と呆気なく人間達に狩られていく。
この騒動で何とか生き延びたのは、まだ何とか逃げる気力が残っていたドラキュラただ1人だけだった。
無数のコウモリになって飛んで逃げたものの、彼は人間の持つ対モンスター用武器によってあっさりと地面に落ちてしまう。武器の影響で再度飛ぶ事を封じられたドラキュラは、無我夢中で走って逃げていった。
その頃にはエリアは全て包囲されてしまい、逃げ場はどこにもなくなっていた。彼が最後に辿り着いたのは、さっき絶望したばかりのフクロウの石像の前。
「鬼ごっこは終わりかい? もっと遊ぼうぜ?」
ドラキュラには、人間こそが最も邪悪で無慈悲な鬼に見えていた。彼の持つ各種攻撃は、人間の持つ武器や防具によって完全に無効化されてしまう。
やけくそになったドラキュラはフクロウの石像をむんずと両手で掴むと、それを目の前のハンター達に向けて思いっきり投げつけた。
「こなくそーっ!」
対モンスター用の装備をしていた人間達は、この攻撃を全員何とか回避する。そうして、地面にぶつかった石像は謎の大爆発を起こした。
「た、退避ーっ!」
その爆発の威力はかなりのもので、人間達にも大きな被害が発生していた。爆心地から半径100メートルは被害圏内だろう。この予想外の攻撃には、流石の人間達もかなり動揺してしまう。
ドラキュラは慌てふためく人間達を目にして、大きく口を開けて豪快に笑い飛ばした。
「ぎゃははは! いい気味だぜ全くよお」
「くそ、爆弾とは卑怯だぞ!」
「はぁ? 今まで散々一方的にいたぶってきやがって、卑怯なのはどっちだよ!」
「なんだと? その言葉、聞き捨てならん!」
いくら爆発の威力が大きくても、有効範囲外にいた者までがダメージを受ける訳じゃない。ハンター達は、残りのメンバーをかき集めてドラキュラに向かって一斉に襲ってきた。
対するドラキュラは度重なる戦闘でかなり消耗している。誰もがドラキュラの負けだと思ったその時だった。
「何やってるホーッ!」
石像だったフクロウが、爆発によって生身の体に戻ったのだ。その姿は全長30センチくらいで丸っこい、まるでぬいぐるみみたいな感じ。とても長老が言うような切り札にはなりそうもない外見をしていた。
復活したフクロウは手始めに目の前のハンター共を一掃する。その口から吐き出された超音波的なやつで、現場にいた人間達を全員一時的な昏睡状態にしてしまったのだ。
バタバタと倒れていく人間達を見たドラキュラは、その場で飛び上がって喜ぶ。
「やった! 人間達を倒した!」
「いや、眠らせただけホ」
「何でだよ! お前何言ってんだ!」
「俺様の名前はトリだホ! よく覚えておけホ! 大体、ここで争っても結果は見えているホ」
フクロウはトリと言う名前らしい。彼は石像だった間もずっと街の様子を観察していたようだ。それで、この状況を回避出来る方法も何か知っているらしい。
だからこそ、無駄な殺生をしようとはしなかったようだ。このぬるい態度がドラキュラをムカつかせる。
「じゃあどうしろって言うんだよ。もう俺達しかモンスターは残ってないんだぞ!」
「そんな事はないホ! 世界は広いホ」
「は……? 何言って……」
ドラキュラが言葉を全部言い終わる前に、トリは当然巨大化する。見る見る内に全長30メートルくらいにまで大きくなった彼は、その可愛いくちばしでドラキュラをひょいとつまむと、そのまま自分の背中に乗せた。
「まさか、このエリアを離れるのか?」
「そうだホ。この世界にはきっとモンスターが平和に暮らせる場所があるはずだホ!」
「ま、お前がそう言うなら黙って乗ってってやるよ」
「空の旅を楽しむホーッ!」
こうして、トリは背中にドラキュラを乗せて安住の地を求めて旅立った。彼らの行く末に本当に理想の場所があるのか、それは誰にも分からない。
けれど、2人はこれからも楽しく旅を続ける事だろう。空の旅は快適で、この世界のどこかには本当に理想郷があるって、そう信じられる気もした。
もしかしたら、いつか2人は本当にそんな未来にも辿り着けるのかも――。
風はどこまでも世界を巡り、自由な未来へと続いていく。
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