狙撃

ザハルたちとタツヤはその場で5日間待ち続けた。

きれいな水もあり、家もある。

タツヤは鍛錬のほかは、ほとんどを寝て過ごした。


ようやく岩の隠れ家から、マシリが連れてきた分隊が合流し、進軍することになった。ザハル率いる戦士たちが先発し、兵糧を担うキャラバンが後発する。


一隊は"砂の都"に進んでいった。

そして、その中継地点にある第二オアシスへと差し掛かった。

このオアシスは第五オアシスよりも小さいが、"砂の都"に近いため、支城の役割を果たしているという。

オアシスを囲うように、城壁がつくられ、守りも堅い。ザハルが言うには塀のなかには、魔弾砲の砲台もあるらしい。


*****

「敵が多いな。警戒しているようだ」

ザハルが砂丘から、敵の様子を望んで言った。

彼とタツヤとマシリはオアシスの様子を偵察していた。

「地下道はここにつながっていたんですね」

マシリが言った。

「たぶんそうだ。襲撃にそなえているな。ん? タツヤ、あいつがみえるか?」

タツヤはザハルが指を差した方をみた。

「銃をもっていますね」

「おそらくは兵長だ」

その兵士は、盗賊のなかで、ひときわ格調のある姿をしている。

時折、塀の上に来ては、盗賊たちを監視しているようである。

「あいつをどうにかしないといけないな。次のタイミングに、弓で狙撃したいが……」

「この距離で届きますか?」

「厳しいな」

ザハルが持っているのは、短弓ショートボウである。

この弓では飛距離は五十メートルが限界であるとタツヤには思われた。

仮に当たったとしても殺傷する威力はないはずだ。


「また、砂嵐を待ちますか」

「いや、あと数日は吹かないだろう。こちらの飲み水が尽きるかもしれない。長弓ロングボウがあれば……」


そのとき、タツヤは自身の荷物に思い当たった。

幸いに、馬も連れてきている。

「少しお待ちください」

彼はそばのキャンプに駆け戻った。

「アジズ殿、それがしの馬は?」

「あっちです」

タツヤは馬に寄ると、鞍にくくりつけてある長細い袋をとった。

そして、ザハルのもとに戻ると、その袋をあけた。

「これは……銃? どこで?」

「ブロンズハートで買ったものです。それがしには使いこなせませんが、ザハル殿であればうまく利用できるかと」

「俺には魔力がない。撃てるのか?」

「火薬で発射するものです。ここをこうやって……」


タツヤはブロンズハートの店で教わったように、充填をやってみせた。

「あとはここで照準をあわせ、引き金を引くだけです」

「これでもう撃てるのか?」

「はい」


タツヤは銃をザハルに渡した。

ザハルはタツヤがやったように構えてみせる。

彼は片眼を瞑って、照準越しに盗賊たちに銃口をむける。


そのときである。

兵長がはしごをのぼって、塀の上へとあらわれた。

「タツヤ、このまま借りるぞ」

ザハルは銃口を兵長へとむけた。

一〇〇メートルはあろうかという距離である。

ごく小さな的を当てるのは容易いことではない。ましてやはじめて使う銃である。

打てば発砲音が響きわたり、こちらの位置も露わになる。

しかし、タツヤはザハルを止めなかった。止める暇がなかった。

ザバルがすでに引き金を引いていたからである。


銃からは硝煙が出た。

兵長には変わりがないようである。

発砲音に驚き、こちらの方に気がついたようである。

彼はこちらに銃をむけようとした。が、彼はそのまま塀から落下した。

そして、起き上がることはなかった。


周囲の盗賊たちはあわてた。塀の内側に逃げ出すもの、弓をとって応戦しようとするもの。数人が塀から降りて兵長に近づこうとするが、ザハルがすばやく銃に弾を込め、次々に狙撃する。たった一回で、銃の扱いをものにしたようである。


「マシリ、すぐにアジズたちを! このまま攻め入るぞ!」


統率を失った砦はアジズたちの猛攻と、ザハルの狙撃によって、落ちるのに時間はかからなかった。


(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る