銀の所有者

***


タツヤとゲンゾウはヤマウラの工場に戻った。

ヤマウラは二人の話を聞き、言った。

「だったら、やじりをつくればいいんだな?」

「はい、ゲンゾー殿に弓を持たせます」

「ま、まて。拙者、弓は不得手だ」

「弓馬の道を鍛えるのが武士もののふというもの」

「だったら、タツヤが持てばいいだろう」

「それがしは・・・・・・刀さえあればいいと教わってきましたので」

「ダメじゃないか」


二人の会話を聞き、あきれたようにヤマウラが言う。

「ならば、弩弓か銃を買ってくるんだ。あれなら素人でも撃てるからな」

「本当か? 拙者は自信がないぞ。弩弓は装填に時間がかかるとも聞く。銃も高くて買えぬ」

 ゲンゾウもタツヤも弓は使いたくないらしい。

「ならば、銀で刀をつくってはいただきませんか? それなら、俺でもつかえます」

 タツヤはヤマウラに提案した。

「純銀っていうのは柔らかくて本来は武器には向かん」

「刀の刃だけ銀にするというのは?」

「シキオリの伝統的な刀だと無理だな。おぬしは刀以外の獲物も遣えるか?」

「剣であればなんとか」

「考えてみる。ところで・・・・・・」

「なんでしょう」

「その肝心の純銀はどこで手に入れるんだ?」

「へっ?」


銀は貴金属であり、高級装飾具の類いに使用されることがほとんどである。

指輪一つ分の銀ですら高値がつく。ましてや鉱山が閉鎖されている今、相場が高騰しているのだという。

タツヤは先の合戦で得たありったけの金を出した。だが、それは到底武器をつくれるほどの銀を入手できる金額ではなかった。

「もう少しあればカミソリぐらいはつくれそうなんだが」

「うーん・・・・・・。ゲンゾー、金はいくら残っている?」

ゲンゾウはふいにタツヤに訪ねられて、ドキリとした。

「え、あ、金か。これっぽっちしかないぞ」

ゲンゾウは懐から小銭入れを出し、手のひらにあけた。とても銀が買える金額ではなかった。


タツヤはどうにか純銀を手に入れる方法はないか考えた。……銀……銀。

ツケで買えるならば、それでもいい。

そうだ、吸血鬼問題を解決すれば、あの洞穴にある、とりどりの鉱物で支払うこともできるだろう。………ん?


「ゲンゾー殿、本当にお金はないのだろうな?」

「え? あ、ああ。ないぞ。お金はもう残ってない」

「そうか。お金はないか。……でも、銀を持っていますよね?」


ギクッ!!!とゲンゾウは反応した。

タツヤが問い詰める。

「洞穴で銀を拾っていましたよね。あの銀はどうしたんですか?」

「えーっと、あれはアルミニウムで……」


「小僧!!」とヤマウラが言った。

「へい!」と弟子の少年が即座に答える。

「こいつの宿へ行って荷を改めてくるんだ!!」

だが、小僧はすぐに駆けていかない。

「あのー、親方」

「なんだ」

あ、こら、まて、とゲンゾウが慌てる。

「僕、ゲンゾウさんから銀を換金してくるようにあずかっています」

『……………』


ゲンゾウの銀はヤマウラによって没収された。その後、ジョアンナが町長から預かった銀を少し持ってきたが、ゲンゾウは銀を返してもらえなかった。


***


二日が経ち、タツヤとゲンゾウはヤマウラの工場へ行った。

ヤマウラのつくる武器が仕上がるまでの間、工場の隅に座りながらゲンゾウが言った。

「拙者の銀を売れば、小銃が買えたんじゃないか。銀の弾丸をつくれば、魔人も倒せるだろう。おぬしもなかなか銃の腕前はあるようだったし・・・・・・」

タツヤは答えて言う。

「飛んでいる的を落とせる自身はありませんよ。それにあの魔人は戦い方に弱点がある。本当に純銀が通用するならば、そんなに怖いものではなさそうです」

「ふうん、そんなもんかね」


工場の奥から袋に入った武器をもって、ヤマウラがやってきた。

「できたぞ。これでどうだ」

タツヤは受け取り、袋を外した。

刺突剣レイピアですか」

そこには細長い剣があった。装飾はなく、柄と刀身だけのシンプルなものだが、全体が銀色に輝いている。

「これだけの銀があったのですか」

銀はごくわずかしかなかったはずだ。

「剣先だけが純銀でできている。あとは合金だ。剣先は鋭く研いであるが、両面には刃は入れていない」

「刺突のみで仕留めなければならないということですね」

「そうだ。できるか?」

タツヤは柄を握り、突きの動作をした。

「なんとかなりそうです」


***


タツヤは剣をもち、ゲンゾウと町長のもとへ向かった。

知らせをうけたジョアンナも同道した。

「銀は鏃にできたか」

「鏃にはしませんでした。これで吸血鬼に挑みます」

タツヤは刺突剣を町長にみせた。

「剣で挑むのか・・・・・・。やるかやられるかの戦いになりそうだが問題ないか?」

「問題ないです。明日の朝、再度、入坑します」

「わかった。こちらも援護隊を用意しよう。ジョアンナ、人選はおまえにまかせる」

「は、はい、私のかわりになるような人物を・・・・・・」

「何を言っている? おまえが援護隊の隊長だぞ?」

「え、ええ! ま、またあそこに行けと!?」

ジョアンナはたじろいだ。ふたたび危険を冒すことになるとは思っていなかったらしい。

「あの洞穴には様々な結晶があったのだろう。おわったら、あれの採掘権をおまえにやろう」

「・・・・・・い、行きます」


「拙者たちも鉱石をもらってよいのだな?」

ゲンゾウがすかさず確認した。

「ああ、ジョアンナとうまくわけてくれ」

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