緑青の道
馬にまたがり、西に進み続けること数日。
タツヤが道の標識を読んだ。「この先、ブロンズハート」と書かれている。
「もうすぐですね」
「ああ。ブロンズハートには知り合いがいる。まずはそこを訪ねよう」
標識に従い、タツヤとゲンゾウはすすんだ。
すると前方に、薄黒い青色に覆われた道がみえてきた。
「これは・・・・・・
タツヤは道の入口でその色の正体に気がついた。
銅の表面にあらわれる
街へと続く一本道の左右は銅像や鎧、突き刺された剣や矛が埋め尽くしている。
それらの鉄器が錆におおわれ、あたりは緑青の色へと化しているのであった。
ブロンズハートに訪れたことがあるゲンゾウに驚く様子はない。
「ああ、これは街の鍛冶たちが修業の過程で生み出したものだ。金銀や合金を扱う前に銅で練習をする。親方から出された課題を達成すると、一人前になった証としてここに製作物を加えるんだ」
タツヤはそれらを眺めながら、街へ近づいていく。
魔獣をかたどった像や、巨大な剣、農具の鍬などもある。
「これは・・・・・・」
一体の像のまえで彼らは馬をとめた。
その像は刀をかかげた武者の姿をしている。まとっている鎧はシキオリに伝わるものである。
「これから訪ねる者がつくったんだ」
そういって、ゲンゾウは馬の歩みをふたたび促した。
***
緑青の道を抜けて、街中に入ると、色の印象はがらりと変わった。金属にまとわりつく赤錆色があふれ、砂を固めてできた地面ですらも赤茶にそまっている。
そして、あちらこちらからは絶え間なく金属音が響いている。鎚で叩く音、激しく研磨する音……。至る所に炉があり、煙を吐き出している。街全体が工場といった趣である。
二人は馬を厩舎に預け、街の中を歩いた。
作業場と作業場の間には、道具屋や武具店が並んでおり、その店先の長いかごには、まるでパンでも売るかのように剣類が放り込まれている。
「色々な剣が売られている。ダガーにレイピア、ククリ。しかもどれも安価です」
タツヤは言った。
「店先のは安いが、どれも
「そうでしたか。しかし、さすかにシキオリの刀はないですね」
「手に入るぞ。もうすぐだ」
それは街外れの砂地に建っていた。
プレハブ小屋のようにもみえる。中からは煙が上がっており、人がいるのがわかる。
ゲンゾウがボロボロの戸をあけると、タツヤの目に炉から立ち上る炎がみえた。
職人たちが燃えさかる炎の中に、さらに炭を足している。
「ヤマウラのじいさんはいるか?」
ゲンゾウが声をかけると、汗をぬぐいながら、手ぬぐいを頭に巻いた老人があらわれた。痩せ細っているが、身体に通った軸の強さをタツヤは感じた。
「ん? ゲンゾーか! 久しいな、十年ぶりか?」
ヤマウラと言われた老人はゲンゾウの姿をみて言う。
「それ以上だよ。じいさん、この若者はタツヤだ」
ゲンゾウがタツヤの肩に手を置いた。
老人はタツヤの方を見る。タツヤは老人の片眼が手ぬぐいで眼帯のように隠されていることに気がついた。
「もしや、シリオリの者か!?」
ヤマウラはタツヤの顔を見て、驚いた声で言った。
「はい、旧シンシュウの生まれです」
「なんと! まさに同郷じゃ!」
ヤマウラはゴツゴツした手でタツヤの手をとった。
「それは驚きです。今はもう散り散りですが……」
「ああ、わしも離散した一人じゃからなぁ」
ヤマウラは遠い目をした。
「なぁ、じいさん、これ、どうにかなるか?」
ゲンゾウは魔弾砲の弾が突き刺さった槍先をみせた。ゲンゾウは何度も抜くことを試みたが、びくともしなかった。
「どれ、ここに置くんだ。みせてみろ」
ゲンゾウは穂先を弾ごと
ヤマウラは顔を近づけ、じっと見たかと思うと、金槌を一振りし、弾をたたく。すると、鋼鉄の弾は真っ二つに割れた。
「少し刃がこぼれておる。研げば問題ないだろう」
そういって、柄から外すと、砥石で穂先を研ぎはじめた。
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