第55話 便利屋(二)

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 呂布は政庁に入ると諸将を集めて何進からの要請があった事とその内容を伝えた。


「呂布、司隷で事が起きた時はどうする?」


「郭嘉が段取りを組んでいるから心配ない」


 董卓と劉表が不穏な動きを見せている事は幷州全体に知らされており、一部の将兵には動員命令が出されて準備が始められていた。高順は留守役ばかり任されていたので今回は自分の出番だと言わんばかりの表情を見せていた。


「老将軍(高順)は留守役をお願いするつもりでしたが焔陣営に動いてもらいましょう」


「普段から準備は出来ているからいつでも動ける」


 焔陣営は晋陽の守備隊としても動いているので常に飛び出せる状態になっている。郭嘉は高順と焔陣営の状態を考慮して動いてもらう事を決めた。


「華雄殿と趙雲殿は私と共に留守居をお願いします」


「承知した」


「心得ました」


 華雄と趙雲は納得した様子で頷いた。


「伯父上(郭図)・張遼殿・張郃殿は老将軍と共に洛陽に向かって頂きます」


「心得た」


「承知しました」


「お任せ下さい」


 高順と行動を共にする三人も納得した様子で頷いた。普段は呂布と行動を共にしている郭図だが、今回は遠征軍に軍師役が居ない事から高順らに従って動く事になった。呂布と陳到は出発前に郭嘉と郭図を交えて話し合いを行った。その結果、周辺諸侯を刺激しないように分散して現地へ向かう事になり、集団毎に道を変えて徐州に入り琅邪郡で集結する事になった。


*****


 呂布は一番最後に晋陽を出発したので琅邪郡に入ったのも必然的に一番最後になった。集結場所において先発していた陳到に出迎えられた。


「呂布殿、お待ちしておりました」


「遅くなって済まなかった。冀州に寄り道して顔を出していた」


「どうでしたか?」


「魏攸は上手くやっている。鮮于輔と田疇も仕事がやりやすいと言っていたぞ」


 冀州を支配下に組み込んでから一度も視察していなかったので寄り道する形で訪問して状況を確認した。冀州は統治機構を幷州に合わせた事で以前に比べて明確化されたので仕事的に動きやすくなっていた。


「曹嵩への接触は?」


「済ませております。数日で準備も終わります」


「護衛の規模は?」


「賊程度なら我々の手勢で十分補えますが」


「正規軍の将兵が来れば厳しい、だな?」


「はい」


 呂布が率いる騎馬隊は焔陣営と互角に戦える精鋭が揃っている(焔陣営出身者も少なくない)。敵が正規兵であっても自軍の倍程度なら難なく蹴散らせる力を持っているが対策するに越した事は無いと思われた。


「陶謙が手出しする事なく、青州の孔融と兗州の劉岱が静かにしてくれたら言う事なしだな」


「その通りです」


 曹嵩は朝廷で高官を務めていた事から名士として知られており琅邪郡の役人とも交流があった。役人から周辺に噂が流れる可能性が高く、その噂を聞いて邪な感情を持つ者が出ないとも限らなかった。


*****


 準備を終えた曹嵩一行と共に琅邪郡を出発した呂布は洛陽を目指して西へ向かった。旅程も順調であと半日もあれば青州との州境を越えるというところで後方から追いかけて来る一団の姿が見えた。


「陳到、先に行け」


「承知しました」


 呂布は陳到に指示して曹嵩一行を先に行かせると追いかけて来た一団に立ちはだかった。


「お前達は曹嵩様の一行か?」


「その通りですが」


「儂は徐州の張闓。陶謙様の指示で護衛させてもらう」


 半日もあれば州境を越える所で護衛すると言われても半ば無駄な話である。呂布は何か裏があると考えた。近くにいた配下に目配せするとその者は用を足すふりをしてその場を離れた。


「主人曹嵩様にお伺いを立てるのでお待ち頂きたい」


「わざわざ出向いたのに待たせるのか?」


「某の一存では決めかねますので」


「黙って儂の指示に従え!」


「それは無理な話だ。馬脚を現したな賊共め」


「こいつらから血祭りに挙げてやれ!」


 張闓は剣を抜くと呂布たちに近付いた。


「殺して構わん」


「…」


 呂布の言葉を聞いた配下たちは無言で頷くと張闓率いる兵士に襲い掛かった。


「な、何故だ!?」


 手勢が次々と血を流しながら倒れる様を見て張闓は唖然とした。張闓率いる兵士は徐州内部ではそれなりに強かったが、修羅場を潜り抜けた経験が豊富である幷州の兵士から見れば経験不足にしか映らなかった。


「退却して増援を…」


 一人逃げようとした張闓だったが、後ろを振り返ると陳到率いる一隊が退路を塞いでいた。


「どちらに行かれるつもりだ?」


「退かねば斬るぞ!」


「お前に斬られる筋合いはない。と言うよりお前に斬られる程やわでは無い」 


 張闓が剣を振りかざして陳到を脅そうとしたが、陳到は相手にしていない感を見せた。


「死ねっ!」


 張闓は陳到に斬り掛かったが、避けられると背後から袈裟斬りにされた。


「陳到、助かったぞ」


「この男が周囲に目を向けなかったのが幸いしました」


「幷州軍なら新兵と同等だな」


「間違いありません」


 呂布は陳到を労うと張闓の死体を見下ろした。顔は恐怖に怯えた表情をしており、悲惨な様相を呈していた。


「この男、徐州の正規兵でありながら賊紛いの行為もしていたのでは?」


「恐らくな。徐州関係者に知られたら我々が非難される可能性が高い。何進と曹操に伝えて後を任せた方が良いと思う」


「その方が無難でしょう。死体はどうしますか?」


「放置しておけ。賊の仕業になれば何進や曹操の手間も省ける」


 張闓率いる一隊は呂布たちによって全滅させられた。死体はそのまま放置されて数日後に通りがかった商人に発見された。徐州軍によって調査されたが誰の仕業か分からなかったので賊の仕業として片付けられた。

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