第53話 飛将軍(三)

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ご意見・ご感想を頂ければ幸いです(誤字・脱字の指摘もお願い致します)。


*第48話の内容を一部変更しております(荀彧と荀攸を何進配下にしました)。再読して頂ければ幸いです。


=====


 長城に攻め寄せた夷狄を完膚なきまでに叩いた呂布は雁門に戻ると出迎えた魏越と魏続に対して戦果を伝えると共に夷狄本拠地への攻勢を指示した。


「女子供には手を出すな。出した者は軍規に照らして処罰しろ。例外は認めん」


「承知した。こちらに友好的な部族に引き渡す形で構わないか?」


「そうしてくれ」


「魏越殿、部族長への事情説明を怠らないようにお願いします」


「承知した」


 呂布と郭図から今後の注意点を指示された魏越は承諾して直ぐに行動を起こした。魏続には五原から率いてきた手勢と共に長城を超えて夷狄本拠地への攻撃を命じた。


「慎重な性格のお前なら上手くやれると思うが油断は禁物だぞ」


「心得ています。壊滅に近い状態の夷狄に遅れを取るような真似は致しません」


 魏続は幷州軍内部ではごく一般的な将軍と目されているが周囲に化け物級が揃っているのが原因で州外に出れば腕の立つ部類に入る。主力を失った夷狄では抵抗する事が困難であるのは誰が見ても明らかだった。


「私も後詰めを率いて長城に向かう。呂布殿はどうされる?」


「祝宴には間に合わんが急いで晋陽に戻る」


「分かった」


 挨拶を済ませた呂布は北へ向かう魏越より一足早く雁門を離れて南へ向かった。


*****


 呂布率いる騎馬隊は雁門を出発すると往路と同じように凄まじい速さで進軍して一日半で晋陽に戻ってきた。趙雲と貂蝉の祝言が終わった直後で城内は賑やかだったが祝宴は既にお開きになっており政庁や兵舎は普段と変わらず静かな状況だった。呂布は政庁に入ると退庁しようとしていた出納担当官を捕まえて指示を出した。その後兵舎に顔を出すと一息付いていた張郃と陳到を呼び出した。


「二人ともご苦労だった。疲れているところ済まんが頼みを聞いてくれ」


「何でしょうか?」


「騎馬隊の連中にこれを配ってくれるか?」


「これは…。承知しました」


「使い道は自由で明後日早朝まで召集はないと伝えてくれ」


 呂布は州牧権限で使用可能な金銭を引っ張り出して出兵した騎馬隊全員に報奨金として配ると共に臨時の休暇も与えた。呂布直卒の騎馬隊は他の部隊と異なり休暇があってないような状況で毎日兵舎に詰めている。呂布直属である事が名誉だという兵士ばかりなので不平不満を抱く者は居ないが呂布自身は祝宴に参加出来なかった事を申し訳なく思っており報奨金という形で報いる事にした。


*****


 自邸に戻ると出迎えた使用人から来客があり奥方様は対応に当たられていますと報告を受けた。とりあえず衣服を改めて客間に顔を出すと丁原・高順・薛欄の三人が麗綺の相手をしていた。


大将丁原!」


「呂布、思ったより早く戻ってきたな」


「夷狄の主力部隊を潰した上で後始末を魏越と魏続に任せました」


 呂布は三人に加えて厨房から戻ってきた麗氏に今回の夷狄討伐の詳細を説明した。


「呂布殿は武帝時代に活躍した李広そのものですな」


「飛将軍か。お前に相応しい称号だと思う」


「爺さん、からかうのは止めてくれ」


「高順は冗談を言うような男ではないぞ」


 三人から飛将軍を名乗っても何ら問題はないと言われた。前世でも飛将軍とその武勇を称賛されていたが無様な最期を遂げた事もあって飛将軍と言われる事に嫌悪感を持った。


「今日は趙雲と貂蝉が主役。某の事は横に置いて二人の門出を祝うべきでしょう」


「確かにその通りだ」


「お前が名乗らなくても周囲が言い出すと思うがな」


「その時になれば改めて考えてみます」


 呂布は飛将軍を名乗る事を良しとせず話題を変える事で話を終わらせた。


*****


 丁原は交流が続いている何進に対して私信という形で今回の一件を伝えた。この事は当然のように皇帝劉弁の耳にも入った。丁原は飛将軍という称号には一切触れていなかったが、劉弁と何進も呂布は李広の再来だと称賛した事から劉弁の提案で飛将軍の称号を贈る事になった。


「丞相より預かった品です」


「大将と丞相にしてやられたな」


「将軍はこれを受け取る筈だと御上も」


「いよいよ話が大きくなってきたな…」


 挨拶を終えて洛陽から戻ってきた趙雲と貂蝉は劉弁と何進の私的な使者を命じられた事を呂布に伝えて書簡と預かり物を呂布に手渡した。


「旦那様、御上にちょっかいを出す痴れ者を牽制する意味でも名乗られるべきでは?」


「牽制か…」


「飛将軍李広は行動が素早く、勇敢な将であると称されていました。旦那様に相応しい称号だと思います」


 麗氏の口調は普段と変わらないものだったが、その目は御上から授けられた称号を名乗らないとは言わせないという鋭いものだった。呂布は周囲の目を気にしつつ預かり物を見てみると『飛将軍呂布』という旗印だった。ここまでされたら否が応でもこの称号を名乗り御上の期待に応えるしかないと諦めの心境になった。

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