第3話:リム、プリシラを見つける
「リ、リム、お、お兄た~ん!う、うわ~ん!」
プリシラは、大好きで慕っているリムが目の前に現れ、声をかけられると、ふらふらと立ち上がり、そこに立ち止まったまま、首をもたげて、目をぎゅっと閉じて、舌足らずの口調で泣きわめいた。
リムは、腰を落としてプリシラと目の高さを合わせて両手を差し伸べ、優しくほほ笑んだ。
「シーラ、こんなところにいたのか。ちゃんと手を繋いでやらなくてごめんな?今、兄ちゃんが家に連れて帰るから安心しな」
プリシラは、温かく頼もしいリムの声と言葉を聞き、笑みを見ると、リムが差し出した手に自分の両手を伸ばした。
リムは、そのプリシラの手を一度取ってから、プリシラの腰に手を回して抱きしめた。
するとプリシラは、リムの肩に手をかけ、その手の上に頭を乗せて安心したのか、先程よりも大声を上げて泣いたので、リムのシャツの片方の肩周りと、背負っていたリュックサックの背負い紐は、プリシラの涙で、すぐ濡れてしまった。
「仕方ないなあ・・・・・・」リムは、そのままゆっくりとプリシラを抱き上げた。
年長の、年下のプリシラには少々毒舌なロックからは、“子ブタ”とよく馬鹿にされるほど、プリシラの体型は、よく張り、抱っこすると、ずしりと重かった。しかしリムは、その重みを感じるのがいつも喜びであった。
プリシラはリムに抱き上げられた途端、
「ひーん・・・・・・!」と、リムの顔も見ずに悲痛な泣き声を上げた。
リムはすぐ帰ろうとせず、自分がプリシラぐらいの時、悲しくて泣いた時などに、両親がしてくれたように、体を揺らしたり、プリシラの背中を軽く叩いてあやし、優しく声をかけながら、プリシラの乱れた髪の毛を直すように頭を撫でた。
「よしよし。怖かった?兄ちゃんが悪かったよ、ごめんな?」
プリシラは、それを聞くと、ひくひくと泣きながら涙を一生懸命拭い、顔を上げて、リムの顔を本人だと確かめるように見つめた。リムはその目にほほえみを返した。
「こあかった・・・・・・!いだい・・・・・・!」
プリシラは、リムの顔を見て、舌足らずな口調で返事をし、また訴えかけてきた。
「痛いっ?どこっ?」
リムは急に心配し、目を見開いてプリシラの顔を見てから、プリシラを降ろし、身体をひととおり見てみた。
「ここっ」
プリシラは泣きつつも、しっかりとした声でスネを指さした。
「え?ここ?」
「痛いっ」
「分かったよ」
リムは優しく答えてプリシラの患部を確認した。プリシラはスネを擦りむき、赤く血がにじんでいた。
「こんくらいなら、そこの水道の水で洗って、母さんに手当てしてもらうか」
リムもまだ幼稚園に通う幼い男の子だったが、特に慌てることなく、冷静に、プリシラを怖がらせないように表情を緩ませて明るく言った。
リムの母親、ミリィ・シンは、ブレジア大学付属病院で精神科医として働いていたので、リムは、母がいつも、自分達が怪我をした時に処置している所を見ていたし、自分でも簡単な処置は出来たので、プリシラがケガをしても冷静に対処し、母のやり方を見よう見真似でプリシラにそれを施そうとした。こういう事は以前にも何度かあったので、リムは慣れていた。
公園内に水道を見つけたリムは、そこにプリシラを連れて行き、水道の真下にプリシラの靴と靴下を脱がせて足を伸ばさせ、
水がケガした所に当たるようにプリシラを座らせた。
「シーラ、汚いの洗うから、水かけるけど、ちょっと我慢してな?後でまたボクの母さんにちゃんと手当てしてもらおう」
「痛くない・・・・・・?」
プリシラは、唇に人差し指を当てて上目遣いで不安そうに尋ねる。
「水なら痛くないよ。もしかして、ほんのちょっと痛いかもしれないけどすぐだよ。汚いもんを洗わないと、もっと痛くなるから」リムはプリシラを納得させるために優しく諭した。
しかしプリシラは悲痛な声を上げ、傍らにいるリムの服を、その方の手でぎゅっと掴んだ。
「大・丈・夫!」
リムは、プリシラに一言ずつ強く愛情を持って、そう言い聞かせた。
プリシラは幼心にも、事の次第を悟って受け止めようとして、しっかりしようと頑張って真面目な顔を作ろうとして、腕で涙も拭った。
リムは、そのプリシラの顔つき、仕草を見てか、
「じゃあ、ちょっと冷たいけど、すぐだからな?」
と言って蛇口に手をやった。
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