第59話 2人の恋する乙女 出会う
「でゅふふ……カイル様〜〜はい! あ〜〜ん!」
「あのぉ……シャルルちゃん? 食べずらいからいいよ。それに恥ずかしい」
「そんなそんな〜〜遠慮しなくていいですよ! カイル様♪」
「いや……遠慮とかじゃないんだけど……」
カイルは、たまたま通りかかったシャルル、キャロルを食事の席に誘った。
すると……
これにすかさず飛びかかったのはシャルルだ。
獣人の敏感な感覚を掻い潜り、瞬間移動かと間違う速度でカイルの隣の席に腰を落とすと……カイルの手を握って輝く瞳で彼を見つめた。
実に幸せそうな姿だ。これが恋する乙女なのだろう。
そして……彼女の同行者、キャロルだが……
「あぁ……甘々だにゃ〜〜」
困惑していた。
一応、席に着席して(シャルルの隣)、2人の……いや、暴走少女の幸せムードを傍観している。
「キャロルちゃん? どうしたの? ここの料理美味しくなかった?」
すると、カイルはキャロルの困惑を拾って、猫娘の彼女を心配する。
「——ッ!? いやいや! そんなことない。美味しいにゃ! このお肉なんて……ッ!? っゲホゲホ!!」
「キャロルちゃん!? だ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫にゃ……気にせず、シャルルちんの「あ〜ん」を享受してあげて……これは男の務めにゃよ」
「……ん!? うん……」
別にキャロルは出される料理や甘々シャルルに困惑してるわけではない。
仲間として——姉貴分として——シャルルの幸せを願っていて、彼女が笑ってくれている方が嬉しいに決まっている。
だけど……
そんな妹分が、思い切った選択をして別れを経験した。だから、姉として一杯頭を撫でて慰めてあげていた。
つもりが……
カイルと一瞬すぎる再会を果たしてしまった。僅か1日後の再会に……
ああ……散々慰めた今日1日の苦労はなんだったんだ?
と……
キャロルは落ち込んでしまったんだ。
しかし……
(まぁ……シャルルちんが幸せそうだから……いっかにゃ?)
この時——明日からがんばろう……と、彼女は心に決めた。本人に頑張ってもらいたいのだが、この時自分(キャロル)は一体なんで頑張っているのか疑問だ。
「はい! カイル様。このお肉も美味しいですよ! はい、あ〜〜ん!」
「……え?」
そんなことを思われているとは露知らずなシャルルは、姉(シャルル)をそっちのけで幸せの食事へと戻っていく。
ただ、食べているのはカイルだけ。サンドイッチを食べたばかりで彼のお腹はパンパンだ。これにカイルも困惑気味である。
と……その食事の最中だ。
突如——
——ガヤガヤ!?
——ザワザワ!?
「「「……ッ?」」」
周囲がざわつき出す。それはもう、幸せムード全開のシャルルですら気づいてしまうほどだった。
同じ卓を共有していた3人は、『ざわめき』の正体に意識を向けた。
その時だ——
「——あら! カイル様〜〜奇遇ですね♪」
「——え?! セレナちゃ……いや、聖女様……?!」
「「……え?!」」
突然、現れたのは聖女であるセレナだった。遠くからだんだんと近づいてくる『ざわめき』が、やがてこの場に登場した時……カイルは目を丸くして驚いた。
まさか……聖女が、大衆の食事所に姿を現すとは思わなかったからだ。
今は祭り時——開会の宣言を担当したセレナは皆の目に止まっていたようで、ここ食事所の大衆をザワザワさせるのも仕方なかった。
「聖女様? ……な、なんでここに?」
「ぁあーーー!! 聖女様って他人行儀で嫌です!! ちゃんと、いつもみたいに『セレナちゃん』って言ってください!」
「……え!? いや……ここじゃぁ……ちょっと……」
カイルは気を使って聖女様と彼女を呼んだ。それも仕方がない。ただの旅商人が聖女様と仲むずまじい様を見せるのもどうかと思ったのだ。
しかし……
セレナはそんなことは気にしない。むしろ、聖女として見られる方が嫌だった。
「どうも、カイル様——ごきげんよう」
「え? エクレさん!」
「聖女様のわがままです。すいませんが、付き合ってあげてください」
セレナの背後には騎士のエクレが控えていた。ただ、彼女は渋い顔でカイルに謝罪を入れる。どうやらセレナがこの場にいるのは彼女のわがままのようだ。
だが……
「宿にいるとですよ。奇妙なオーラがヒシヒシ伝わってくるんです! あの女——わざと魔力を漏らしているみたいなんですよ! 聖女である私への嫌がらせですよね? これ?! ぷんぷん!!」
「あぁ……それは彼女に代わって謝ります。すいません」
どうもそこには、切実な思いがある。カイルは一瞬でセレナの怒りを理解して謝罪を口にした。
その時だ——
「むむむ〜〜?! 誰ですか! この女〜〜?」
「——ッ!? シャルルちゃん!?」
「「「——ッ!?」」」
シャルルがカイルの腕を抱きしめると、ジト目で聖女であるセレナを睨んでみせた。
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