ぞろ目の年

 数奇と言えば、数奇な人生であった。

 ぞろ目の年に、家族の誰かがかならず死んだ。


 11歳のとき、父親が過労死した。

 22歳のとき、弟がけんかの果てに殺された。

 33歳のとき、母親を病気で亡くした。

 44歳のとき、妻をアルコール中毒で失った。

 55歳のとき、健在だった祖母が老衰で死んだ。

 66歳のとき、一人息子が嫁と一緒に事故死した。

 77歳のとき、ゆいいつの身内となっていた孫娘が自殺した。



 家族がいなくなったので、88歳の年に死ぬのは自分だろう。

 そう思いながら生きながらえ、あっと言う間に、88歳の誕生日を迎えた。だれも祝ってくれない誕生日を。



 その誕生日の早朝、安アパートで寝ていた私を、隣部屋の若者が叩き起こした。

 その若者は、身寄りのない私を何かと気にかけてくれていた。

 私に有無を言わせぬまま、若者は私を背負い、駅へ向かった。


 道中で若者が事情を教えてくれた。

 前々から仲のわるかった隣国が、とうとう攻めて来たらしい。

 その侵攻のスピードは速く、私が88年、住み続けていた我が国の首都も、陥落は時間の問題とのことだった。


 政府の用意した国外行きの列車が待っている駅に私を送り届けると、青年は義勇兵となるべく、人ごみの中へ消えていった。



 それから数か月後、難民キャンプで、配給された食事に手をつけられずにいたところ、人々が泣きはじめた。

 我が国が降伏し、この世から消えてしまったとのことだった。

 祖国が死んでも生き残ってしまった老人には、もはや流す涙はなかった。

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