全員バカなミステリー
@masata1970
犯人はお前だ!!
「被害者は鈴木亨、殴打に滅多刺しですね……おそらく出血多量。死亡1時間といったところですな」
簡単な検視をした警部、杉津川コロン三郎が探偵である江戸田一・シャーグレ・ポアープル彦五郎にそう告げた。
「クソッ!誰が俺の親友で俺を勝手に連帯保証人に仕立て上げ妻を暴行してそれを裏サイトで売りさばき大稼ぎした鈴木亨を殺したんだ!」
血まみれの服で血まみれのナイフを握りしめ、杉隼人は慟哭した。
「どうして不倫をして性病を私に移し子供を埋めない体にした挙げ句、実は10年前に私の一家を破産に追い込んだ私の夫を殺したの!一体誰が!」
血まみれの斧を握りしめ、被害者の妻である鈴木マイは号泣した。
「なんてことだ、どっちが犯人なんだ……」
被害者に呼ばれてたまたまやってきた毛利ワトはひたすら困惑していた。
「落ち着いて、まだ犯人が誰かわかっていません……自殺の線もあります」
「え、いやちょっと待ってください……頭を砕かれて刺されてますよね?」
「困りますなぁ毛利さん……頭を砕かれて刺されてるだけで殺人と決めつけるには……」
ポアープル彦五郎の鋭い眼差しと物言いに思わず閉口する。確かにトリックではよくある話だ。
「それに見てください、ほら、額に穴がある……S&W M360、SAKURAですな」
「なんと!!それが私が押収した麻薬を裏ルートで売りさばいてたところ感づかれ口封じで被害者を撃ったからわざと見落としたもの!よく気がついたね、江戸田一くん!」
「あぁ、私程度ではこの辺が精一杯ですね、もう少し検視ができれば……」
何やら問題発言を聞いた気がするが関わっては負けだろうと無言を貫くことにしたワト。どっちがじゃないコイツだったんだ。
「まぁ、まだ事件だと決まったわけではありせんが……とりあえずアリバイを聞きましょう。私は来たばかりなので容疑者ではない、そうですね警部」
「ああもちろんだ」
「それだと私も……」
「困りますなぁ毛利さん、事前に来て事件を起こしたかもしれないじゃないですか」
「え、じゃあ探偵さんもそうなのでは……」
一瞬の沈黙、するとポアープル彦五郎は笑い始めた。
「これは一本取られましたな、いやたしかにそうだ。探偵が犯人ではないと言うのは小説の中だけですからな」
「いや、探偵が犯人の小説も……」
「毛利さん!警察にこれまで協力してきた江戸田一さんが犯人なわけないじゃないですか!あんまりな言動だと警察も抗議しますぞ」
「いや警察に協力してきたかは一市民からはわからないのですが……」
正論を暴論に近い感じで返されこの殺人犯が!と思ったものの拳銃を持ってる犯人には太刀打ちできず引き下がるワト。
「では探偵の私から、1時間前は家でしたね。電話があってこちらに来たのですよ、実は鈴木家を調査してましてね……警部も言っておきますかアリバイを」
「ああ、そうだな……私は事件と嘘をつき署を抜け出して鈴木氏を殺害、その後に何食わぬ顔で通報を盗聴してしれっとここにやってきた」
「なるほど、警部は完璧なアリバイがあると」
深く考え込むポワープル彦五郎、その吐瀉物色の脳細胞が活動を始めた、辞めた。
「では杉さん、あなたは?」
「ああ、俺は3時間前に屋敷について、パーンと銃声がするまでコイツが妻を撮影した裏ビデオを処分していた。そのあと寝ていたコイツを滅多刺しにして昼食を取った、奥さんも一緒だったよな?」
「ええ、一緒に昼食を取りました」
「では奥さん、アリバイを」
「私は前日から斧を磨いて、杉さんが来てからは殺害の機会を伺い昼食時にトイレに行くふりをして夫のアタマを滅多打ちにした後お風呂に入って帰ってきました」
「なるほど、杉さんトイレに奥さんがいった時間は覚えてますか?」
「30分くらいです、台所から部屋までは5分とかかりません」
「うーむ犯行は無理だな」
「アリバイが証明できてよかったわ」
ワトはもう突っ込まなかった。血まみれのナイフと斧を持っている人物を糾弾するのは流石に命がけすぎるのだ。
「では、名推理を披露したワトさん、あなたは?」
「1時間少し前に電話がかかってきてこちらに向かっていました、着いたらもう警察も探偵もいたので……駅までは電車だったので確認していただければ……ここは駅から5分ですね」
「時刻表トリックかもしれませんからなぁ……」
「ここまでローカル線一本ですよ」
「だからトリックなんですよ」
そんなトリックあったならとうの昔に殺してるだろと思ったワトは監視カメラの確認を頼んだ後沈黙を貫いた。
「ふーむ私を含めてアリバイは完璧ですね……やはり自殺か」
「うーん警察としても自殺の線が濃くなってきたとしかいえんな」
「そんなどうして自殺を……」
「なにか悩んでいたのかしら……」
「……」
流石にアホらしくなってきたワトはもう誰でもいいやと思いポワープル彦五郎に対して尋ねた。
「あの……あちらの2人がナイフと斧を持ってますけど……」
「毛利さん、今どき血まみれのナイフと斧を持ってるだけで怪しまれては困るのですよ。挨拶するだけで不審者扱いしてくる自治体みたいなことを言わんでください」
血まみれのナイフと斧を持ってて気にしない自治体のほうがおかしいだろと思ったもののニッコリと笑ったポワープル彦五郎は小さな声でありがとうとつぶやいた。
「わかりましたよ、犯人が……こちらにいる毛利さんのお陰でね……犯人はお前だ!鈴木マイ!」
「え、ええ、やだわ探偵さん私には立派なアリバイがあるじゃありませんか!」
「そう、現時点ではです。しかし検視が起きて正確な時間がわかれば……昼食時にはもう死んでいることがわかるでしょう」
「なに!昼食時には死んでいたのか!」
お前昼食前に滅多刺しにしたって言ってただろう、何とぼけてるんだと思ったが警部の方も驚いてる。お前もコイツより先にアタマ撃ってただろうと思ったがもうどうでもいいワトは黙っていた。
「思い出してください、昼食時なら死亡推定時刻は30分以内になるはずです」
「たしかに、私は通報を盗聴して13時05分についた。事件発覚は13時04分」
「わ、私がお風呂からでたのは13時です」
「つまり12時30分には死んでいないとおかしいのです、それ以前に死んでいたことになります」
警察が一番最初に殺してるんだからそりゃそうだろうと思ったワト、キメ顔でポワープル彦五郎は推理を続ける。
「証拠はその斧です」
「この血まみれの斧がなんだって言うのよ!みんな持ってるわよ!この程度のもの!」
「そうだそうだ、俺だって血まみれのナイフを持っているぞ!」
「まだ気づきませんか?刃こぼれですよ、真ん中に数ミリ、ミリもないかもしれませんね、その刃こぼれ、ほら被害者に刺さってる小さなこのかけら……私の目測に寄ると……一致しますよね」
ちらりと自分の斧を見たマイはそれに気づき斧を捨ててしゃがみこんだ。
「どうして、こんなことを……」
それ俺が来て検視終わった後の第一声で言ってなかったか?と思ったものの同じことを聞かされ涙ぐむ探偵警部親友と呆然としてるワト。お前人の心無いのかと言わんばかりに視線で刺されるが、だってその話2回目だぞとスルー。
「悲しい事件でした……」
「あの、滅多刺しと銃創は……?」
「そのことなんだが……私が来た際になんとなく銃を発泡してしまいそれがたまたま頭にあたってしまったんだ。黙っていてすまない」
「俺も警察が来るまで暇だからコイツの体を刺して暇つぶしをしていたんだ」
「いや、困りましたな2人共、今後は気をつけてくださいよ!下手すれば捕まってしまいますからね」
どちらも捕まえろよと思ったワトはまぁ俺は関係ないんだしいいかと思い飲み込んだ。杉はこの後鈴木のパソコンから裏ビデオの販売を停止してコンピュータウィルスをばらまいたのちに屋敷を放火するから残ると言った。何故か探偵と刑事は気にせずお気をつけてと言った。この国治安終わってる?
「それにしても警部、この毛利さん……素晴らしい観察眼ですよ。私ですら忘れていた滅多刺しと銃創、それにありきたりな血まみれのナイフや斧に目を向けて助言を頂いたんです」
「ほう、そんなに?」
「ええ、毛利さんもしよろしければウチの探偵事務所で働きませんか?月収は50万くらいです。事件は事欠かないんで成功報酬もありますよ」
「働きます!」
今の仕事をあっさり捨てる決意をして毛利ワトはこのポンコツ探偵のもとで働くことにした。何故かこの程度の推理力で活躍してるようだし安泰だね。
「そうと決まれば新入社員祝と事件解決祝だ!飲みに行きましょう警部!」
「そうだ、仕事は引き継ぎに任せて飲みに行くか!」
「ええ、魚の旨い店がいいですね!」
こうして毛利ワトは本来鈴木を殺すために背負ったチェンソーを屋敷のゴミ箱に捨ててポンコツ探偵と汚職殺人刑事と飲みに行った。
これから始まる探偵生活の苦労を毛利ワトはまだ知らない。
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