第25話 敵は環境、そして案内人

「なんだ? あの変な乗っ取り方は」


「さぁのぅ。元の人格を残したまま目的だけを追加しておる。周囲が違和感を感じない程度の変化じゃから、かなり頑張ったのではないかのぅ?」


 シュウトとエルノヴァ大魔王ラライラサキュバスが勇者達の様子を遠隔視で見ていると、予想通り元魔王が勇者達の後を付いて行った。

 しかしそのままの姿では見るからに怪しいため、変装か視覚妨害をすると思っていたら、なんと他の冒険者の精神を乗っ取っていた。

 しかも乗っ取り方が実に巧妙で、普段の行動とほぼ変わらない程度の変化で能力は爆増、仲間や家族が見ても気が付かないレベルだ。


「腐っても元魔王だからな、あのあたりのダンジョンなら楽に進めるだろう」


「でもハニー? いくら強くなっても元の体は大丈夫なの?」


「元魔王が入っている間は良いが、用が終わって出て行ったら壊れるだろうな」


「いいの?」


「なにがだ?」


「ううん、何でもないの」


 勇者は殺さないように注意をしているシュウトだが、他の冒険者が死んでも一向に気にしない様だ。

 むしろ変な冒険者に妻がいる事の方に驚いているくらいだ。

 今日の勇者達の戦闘は中々に面白いもので、溶岩から出て来たマグマゴーレムとの戦いは特に楽しんでいた。

 なにせマグマゴーレムはドロドロの体をしているので、前衛陣の武器が軒並み飲み込まれ破壊されてしまったため、後衛陣がとても頑張って倒していた。

 良い所を見せたい裕晃ひろあきは終始無言になり、偽装勇者は他の勇者に助けられて自信喪失中、岡部健介先生だけが武器が無くなってからも指示を出して役に立っていた。


 なので今回のパーティーでは自然と睦月むつき健介先生のツートップ体制で行く事になる。

 裕晃ひろあき常盤健二偽装勇者からしたら自分がリーダーだと思っていたら、自分達は大して役に立たず、なぜか学校にいる時と同じように先生のいう事を聞いている、しかも友人は多いが能力的には平均と思っていた睦月むつきが頭角を現している。


 裕晃ひろあきは当初予定していた計画は全く使えなくなり、一から今後の計画を練り直しているのだが……戦闘力でも指揮能力でも二人には勝てていない事実の前に、計画など立てられるはずもない。

 ちなみに当初の計画としては、ザナドゥ王国には勇者が必要なのだから、魔王討伐の直前に圧倒的有利な立場で国王と交渉をするつもりでいた。

 二つの世界で勇名をはせる事が出来る、と思っていた様だ。

 これは中等部の生徒会長も似た考えをしていたようだが、あちらはその他大勢として埋もれてしまっている。

 

 現在の如月睦月むつきのステータスはこうだ。

 如月睦月(聖女) LV68

 HP5441

 MP12822

 攻撃力 820

 防御力 1980

 知識  1932

 素早さ 1963

 器用さ 1582


 スキル

 魔力生成LV9

 神聖魔法LV8

 杖術じょうじゅつ  LV5

 気功術 LV7

 光魔法 LV8

 水魔法 LV7

 土魔法 LV5

 火魔法 LV5

 風魔法 LV5

 

 元々は僧侶だったが、周囲や自身が強くなるにつれて支援魔法が長時間継続するようになり、その間は何もする事が無くなった。

 なので攻撃魔法を覚えて攻撃力の向上に向かったのだ。

 ステータスの攻撃力は物理攻撃を表す物なので、魔法などは知識の影響を受ける。

 僧侶系魔法と攻撃魔法を使える事により、職種は僧侶からビショップへと変化していた。

 さらに装備もかなり良い物を使っており能力の底上げしている。


 翌日、そしてさらに翌日、一見順調にダンジョン攻略が進んでいるように見えるが、実はバロムの策により非常に厄介な方向に進んでいた。

 このダンジョンは五十階層あるのだが、他のダンジョン同様十階ごとにテレポーターが設置されており、今は二十二階を探索中だ。

 睦月むつき達はダンジョン情報で地図を確認しており、先へ進むにはいくつかあるルートの一つを進む事になる。

 ルートはその時のモンスターの出方や環境の状況により変わるので、その判断はある程度の慣れが必要となる。


「こちらがよろしいでしょう」


 悩んでいる所へバロムが道を示すので、ここまで来れた事もありバロムの指す道を素直に進んでいく。

 そして最もモンスターの数が多く、最も強力なモンスターがいる方へと進むのだ。


 この第一パーティーは能力が高いので多少の苦戦で倒せるが、やはり一番の敵は環境で間違いない。

 ここ二十二階は極寒のフロアで、気温はマイナス六十度。

 肌が一切見えない服装で進んでいるので誰が誰だかわからない。

 バロムは相変わらず環境に強いので服装は変わっていない。


「ふむふむ、このモンスターを倒すにはやはりこの手が一番の様ですね」


 勇者達の戦い方を観察し、それを嬉しそうにメモしている。

 だがメモしながら妙な笑みを浮かべているのがとても怪しい。いや元々怪しいが。

 

「さあさあ皆さん、次はこちらですよ」


 戦い終わり一休みすると直ぐにバロムが先へ行くため慌てて付いて行く。

 そして二十三階に降りると、ここは今までとは違い普通の洞窟に見えた。

 熱くなく、寒くなく、毒が蔓延しておらず、一本橋ルートでもなく周囲も明るい。

 一安心したように進み出し広間に入ると、あり得ないモンスター達が姿を現した。

 地響きが聞えると、また違う方向からも地響きが聞える。

 さらに別の方向から風切り音が聞こえ、もう一方向からは爆発音が聞こえる。


「こ、この四方から聞こえて来る音はなに?」


 綾香あやかが不安そうに体を縮こませながら周囲を見ると、最初の地響きの主が姿を現した。

 アイスコロサス。全身が氷でできた巨人で、全高十メートル、足は短いが手が長く、体型的にはゴリラに近い。

 マグマタートル。マグマの中に生息する亀で、全長六メートルあり近づくだけで熱ダメージを受ける。

 バーニングサンドエレメンタル。灼熱の砂を巻き上げる精霊。大きさは決まっていないが今は幅二メートル程、熱砂で洞窟の壁を削り溶かしながら移動している。

 ポイズンロック。毒を帯びた巨大な岩で、細かい亀裂から毒がしたたり落ち、それが壁や床に当たると一瞬で溶けるため爆発している。


「な、なんなんだアレは!!」


 健介先生が大声を上げると勇者は一斉に輪になり武器を構える。

 本来は一体、多くても二体しか現れないはずだが、あるルートを通る事で四体が一か所に集まってしまう。

 それこそがバロムの通って来たルートなのだ。


「おおっ! これは凄いですよ! やはり四体が現れる事はあるのですね!」


 バロムの歓喜を偶然の産物と思っている勇者達だが、間違いなく知っててやっているのだ。

 元々のバロムの性格ならこんな事はしないのだが、元魔王が取り付いた事でバロムの知識を悪用したのだ。

 

「さあ皆さん、皆さんがこのモンスターをどうやって倒すのか楽しみですねぇ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る