第22話 お仕置き(死んだ方がまし?)

 カルラの提案に則り、メス勇者のパーティーはとあるダンジョンに入っていた。

 このダンジョンはパーティーで攻略中のダンジョンで、第十層まで攻略済みなので、今日は十一階層を攻略予定だ。

 だがそこでトラブルが発生する。

 九階で普段は居ないはずの巨大なブロブが天井から落ちてきたのだ。

 ブロブは物理攻撃が有効ではないスライム系のモンスターで、魔法攻撃しか通用しないタイプだ。

 そしてこのパーティーには魔法使いは一人、最初のダンジョンでブロブ退治に時間がかかりメス勇者に罵倒されて以降、スライム系が苦手になってしまった。


「な、何やってるのよ! 早く魔法で攻撃しなさいよ!!」


 頭からブロブに降りかかられ、頭だけを出して内部に取り込まれてしまったメス勇者。

 ブロブの体は酸で出来ており、鎧、服、皮膚がゆっくりと泡を出しながら溶かされていく。

 魔法使いは体が強張り攻撃できず、近接攻撃は何をやっても形が変わるだけで効果が無い。

 そして運が悪い事に、今日はメス勇者の提案により護衛を断っていたのだ。

 なぜ断ったのかはメス勇者自身もわからない。


「痛い! 熱い! 早くしなさいよこのグズ! だからアンタはダメなのよ!」

 

 近接攻撃をしている勇者の武器は刃がボロボロになり、人によっては溶けて折れたものもいる。

 僧侶の攻撃を試すが効果が無い。

 メス勇者の鎧を抑える金具が溶けて鎧が落ちると、中に着ていた肌着はすでに溶けてなくなっており、裸体が全員にさらされた。


「み、見るなぁ! 見るんじゃないわよあんた達! 忘れろ! 忘れろぉ!」


 必死に手で隠そうとするが体は思うように動かせず、ブロブは触手を伸ばして移動を開始する。

 連れ去られると思い他の勇者達は更に攻撃を強めるのだが効果は無く、魔法使いは怯えたまま、剣士は武器が無くなり、僧侶の魔法は無効化される。

 更に移動を続けるブロブだが、メス勇者の体はゴロリゴロリと転がると横を向き、勇者達に全身をくまなく見られてしまう。


「ひっく、ひっく、見るなぁ……やだよぉ……助けてよシュウトぉ……」


 あれだけ痛い目に遭わされてもシュウトの事が忘れられないようだが、勇者達はなすすべなくブロブを追いかけるしか出来なくなり、遂にブロブは細い穴の中に落ちていってしまい追跡は出来なくなってしまった。

 勇者達は急いで街に戻り護衛達に救援要請するのだが、救援が来る頃にはメス勇者は全く別の場所に連れて来られていた。


 『ブロブの巣』

 数百匹のブロブが洞窟内にうごめいており、苗床として連れてこられたメス勇者はひたすらモンスターを産むための道具として一生を生きていく事になる。

 シュウトとの思い出である性行為はブロブの触手によって汚され、栄養だけは口から送り込まれるため体はブクブク大きくなり、遂には自分の体を支えられなくなるまで太るとで逃げ出す事すら出来なくなってしまった。

 

 死んでしまった方が良かったかもしれない、死ねば別の場所で生き返ることが出来るのだから。

 しかし捕らえられてしまってはどうする事も出来ないのだ。

 これがエルフメイドが考えた「戻る事の出来ない死」計画だ。


 勇者の一人が捕らえられ行方不明になってしまった事はパーティーメンバー以外には伏せられていた。

 死ななくても捕らえられたら終わりという事実は、今の勇者達に混乱をもたらすからだが、それを喋らせないようにする手立ても考えていた。


「どうぞっす、これが新しいパーティーメンバーっすよ」


 シュウトの嫁の一人であり魔道具師のラグズから、一体の人形を紹介される。

 見た目はメス勇者そっくりの人型魔道具インテリジェンスドール、通称アイドル。

 能力的には元のメス勇者よりも上だが、今は制限をかける事でLVアップと同時に能力を解放していく予定だ。

 いや、いくら何でもそっくりな人形を渡されてもパーティーメンバーは納得しないと思うが、なんとあっさり受け入れられてしまう。


 見た目はそっくりだが性格に少し修正が加えられ、ただの性悪がツンデレに変更された事で、口では酷い事を言っても実は相手の為だったり、口では酷い事を言っても行動はとても優しかったりと、パーティー内どころか勇者の中でも人気爆増だ。

 どうやら以前の性格には全員が辟易へきえきしていた様で、今の性格なら大歓迎らしい。

 元々見た目は良いので、性格が修正されれば人気者になるのも当然だろう。

 ちなみに今の所子供は産めないが性行為は可能だ。


 勇者達が召喚されて一年が過ぎた頃、ようやく勇者達のお披露目会がひと月後に決定した。

 魔王軍は近隣の国を襲い、いくつもの街が廃虚と化しているため、それを救う勇者達の存在はいくつもの国から大歓迎を受けた。

 実力的にはAランク冒険者を凌駕しており、まだまだ伸びしろがあるのだから勇者としては申し分ないだろう。

 

 お披露目会当日、各国の防衛関係者がパーティーに参加するために続々とザナドゥ入りをし、街は活発に動き出す。

 お披露目会には代表として二十名の勇者が紹介されるのだが、半分以上の十一名がシュウトのお気に入りだ。

 

「今日は勇者のお披露目会に良く集まってくれた。ワシは年老いて戦いには参加できぬが、この若者達が魔王を倒してくれるだろう!」


 年老いた国王に変装したままなのだが、各国の偉い人には「召喚した勇者に威厳を見せるために変装している」と連絡を入れてある。

 まあ十代の若造が国王と言われても、初めて見る人間には舐められるというのも理解できるのだが、偉い人たちは「少し遊びが入っている」という事も理解していた。

 偉い人達の為に勇者達の紹介がされる。


 如月睦月むつき 聖女

 羽黒凜華りんか 賢者

 柳綾香あやか 聖女

 白石アヤネ 斥候

 葛西カスミ 斥候

 神崎マミ 勇者

 矢吹羽紗つばさ 勇者

 大藪おおやぶみくる 賢者

 中臣なかとみほたる クラフトマスター

 大河内紗枝さえ 賢者

 豊島風香ふうか 聖女


 ここまでがシュウトのお気に入りの十一名。

 勇者の中で最も能力が高く、ダンジョン攻略だけでなく奉仕活動もしていて、他国でも知名度のあるメンバーだ。

 上五人が高等部、中四人が中等部、下二人が教師だ。

 他の九名は大城戸裕晃ひろあき、帰還勇者三名の千色白夜ちいろびゃくや、常盤健二けんじ、神島勇気、教師の阿部健介が含まれる。


 そう、いつの間にかお気に入り十一名は偽装勇者の能力を超えており、正体を隠していた二人の擬装勇者も偽装の意味が無くなったため、都合の悪い部分だけ隠してステータス偽装をやめたのだ。

 なので実質はトップ十六名であり、残り四名は少々能力的には劣っている。

 それを考えたら裕晃ひろあきと教師の健介は随分と頑張っている様だ。


 お披露目会が終わりそれぞれが別館で過ごす中、お気に入り達は勇者部屋に集まっていた。

 てっきり乱交パーティーでもしているのかと思ったが、意外や意外、仲良くお食事会をしていた。


「もう凜華りんかちゃんはしゃぎすぎですよ」


「なに言ってんのよ、むっちゃんももっと楽しみなって」


「あ、あの風香ふうか先生、お酒、どうぞ」


「あらありがとう綾香あやかちゃん、綾香あやかちゃんも飲む?」


 アヤネとカスミはお互いにもたれかかり静かに飲んでいる。


「ねぇねぇマミマミ、これ美味しいよ~」


「どれかしら、あら本当、美味しいわね羽紗つばさ


「ほたるちゃんが持ってるのは何なの?」


「これはですね、みくるさんの可愛さをより一層際立たせる道具です!」


「シュウト様、グラスが空いてますで」


 紗枝さえがシュウトのグラスに酒を注ぎ、それを美味そうに飲み干す。

 お気に入り全員が揃うのは初めてだが、二~三人ずつなら一緒に部屋にいる事が何回かあり、それぞれがシュウトと交友がある事は知っている。

 ちなみに百合カップルのカスミとアヤネ以外は一人ずつしかヤっていないが、きっと全員関係を持っているんだろうと察している。

 睦月むつき以外は。


 シュウトは睦月むつきにはキスまでで止めており、睦月むつきは他の十名全員が肉体関係を持っているとは夢にも思っていない。

 キスをした分自分の方が有利かも? と思っているほどだ。

 それは正解で、十名が肉体関係を持っているにもかかわらず、十名から見た睦月むつきに対するシュウトの態度は明らかに違う。

 一番のお気に入りは睦月むつきか、それが十名の共通認識だった。


 そして楽しい一夜が終わった次の日、大魔王エルノヴァから緊急の連絡が入った。


「大変じゃお前様、魔王が誕生したのじゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る