第19話 元魔王、大魔王に仕える

 引き続き魔王城の中を見に行くシュウト達。

 城内は天井や廊下がとても大きく作られており、大きめのモンスターがすれ違えるほどに大きい。

 そんな中に見覚えのある者が居た。


「……おいエルノヴァ大魔王、アレは一体どういう了見だ」


 シュウトが指さす先には十メートル近い人型で、頭から二本の角が生え、黒い衣装をまとった魔法使い風の男が外で魔法を使っていた。


「おお、アレは魔族というらしいぞ? 魔の森で翼を持った魔族を副官にして街を作っておったのでな、勧誘したのじゃ」


「もう、エルノヴァ大魔王様ったら、ハニーが言ってるのはそういう事じゃなくって、どうしてがいるのかって事なの!」


 この世界にも過去魔王がいた。

 しかし勇者に討ち取られ、この世から消滅したはずの存在だ。

 だが当時副官だった黒いコウモリの翼を持つ女魔族だけ生き延び、何とか魔王を復活させようとしていたのだ。

 その際に運悪くシュウトが向かっていたダークエルフの村を襲ったのだが、色々あってシュウトが魔王を復活させたのだ。

 しかしその後は哀れなもので、副官共々ザナドゥ王国で訓練相手として毎日殺されまくり、最後は復活させようとしても魂が消耗しており生き返る事はなかった。


 それがどうしてここに居るのだろうか。


「魔王じゃと? ……あんなに弱かったかのぅ」


 エルノヴァも魔王に数回はあった事があるが、どうやらどうでもいい存在として記憶の彼方へ消えてしまったようだ。

 なので本当に気が付いていないのだ。


「そういえば副官も女魔族じゃったような……すまぬ、思い出せんのじゃ」


 シュウトはもっと良く元魔王を見ると、どうやら本当に魔王の様だった。

 そして副官の女魔族の居場所を調べてよく見ると、やはりあの女魔族だった。


「二十年か三十年か忘れたが、その程度の期間で魂が復活するものなのか?」


 疑問もあるだろうが、シュウトはニヤリと口の端を吊り上げて外にジャンプすると、元魔王の目の前に着地する。

 他にもモンスターが居るのだが、やはり一番驚いたのは元魔王だ。


「……!! き、貴様はまさか!」


「久しぶりじゃないか。どうだ、元気にしていたか?」


「ふん、貴様に心配される必要はない。今は大魔王様のもとで自分を鍛え直している所だ。少し待っていろ、いずれ貴様を倒して見せよう!」


 不遜な態度でシュウトを見下ろすが、その言葉にブチギレしたのがエルノヴァ大魔王ラライラサキュバスだった。

 シュウトの元に飛んでいき元魔王を折檻しようとするが、それをシュウトが止める。


「いいだろう、俺を倒せるようになったら俺の国をやろう。覚えているだろう? あそこにいる兵士をお前が自由にできるんだ」


 その兵達に殺されまくったので忘れるはずがない。

 しかも最後にはパーティーではなくタイマンで負けていたのだから。


「忘れるはずもない、そうか、やはりお前を倒す事が一番の近道の様だ。だがまだだ、まだその時ではない。その時までその座を預けておいてやろう」


 ニヤニヤと楽しそうなシュウトとは裏腹に、エルノヴァ大魔王ラライラサキュバスは今にも元魔王を殺してしまいそうなほどに怒っている。

 だが自分に酔っているのか元魔王は大魔王の元に行き膝を付いてこう言った。 


「おお大魔王様! 見ていてください、この男を倒した暁には国をあなたに捧げましょう!」


 どうやらシュウトとの関係は言っていないらしく、大魔王の部下か友人とでも思っているのだろう。

 それを聞いて流石のエルノヴァ大魔王ラライラサキュバスも呆れる前にハテナが乱立している。

 まぁ自分との戦力差がわからない時点で相手にならないのだが。


「う、うむ? ま、まぁ頑張るがよかろう?」


 中々理解が追いついていない様だが、元魔王は高笑いをして魔法の訓練に戻るとシュウトを見てニヤリと笑い、的らしい大木に向けて魔法を放つ。


全てを燃やし尽くす極火炎バーンデッド・ファーバ!」


 まるでハリケーンの様な火炎の渦が発生し、大木は一瞬で焼き尽くされてしまい粉となって周囲に飛んでいくのだが、それを渦が風で巻き取り上空へと舞い上がる。

 全てを燃やし尽くす極火炎バーンデッド・ファーバは炎系の魔法で言えば最上位魔法の一つだ。

 とはいえ上に二つほどあるのでシュウト達にしたらそれ程でもない。

 それを知らない元魔王は更に高笑いでその場を去っていく。

 しばしの沈黙の後でラライラサキュバスが口を開く。


「まさかと思うけど、あれはハニーへの威嚇だったの?」


「本人は威嚇のつもりなんだろう」


「全く威嚇になっておらんがのぅ」


 何とも言えない空気が流れるが、シュウトの楽しみが一つ増えたので良しとしよう。

 そしてこの世界では数が少ないと思われていた精霊が複数大魔王軍に参加していることがわかり、シュウトは嬉しくなってちょっかいをかけている。

 精霊は出会った種族の姿を真似ており、決まった姿を持っていない。

 なのでエルノヴァ大魔王に出会った後なので女の姿をしており、シュウトは少しテンションが上がっている。


「勇者を帰した後で精霊探しをするのもいいな」


 その日はご満悦で城に帰り、夜はエルノヴァ大魔王ラライラサキュバスを中心に乱パが開かれた。


 さて塔を攻略している勇者達だが、第二陣三陣どころか第十陣まで合流してきた。

 だが第一陣から第五陣までの五パーティーが塔の二十階を攻略できずにいる。

 塔の二十階には三メートル越えのオーガが三匹おり、今の勇者達ではかなりの強敵だ。

 一度は五パーティー合同で討伐したいと勇者達から申し出があったが、それでは数に任せた戦闘になってしまうので却下される。

 なので何とか一パーティーだけで攻略させるためにご褒美を用意する事にした。


「一つのパーティーだけで攻略できたなら、簡単なお願いなら聞いてあげられます」


 第一パーティーの護衛を務めるレオポルドからの提案だが、これはシュウトからも言われていた事であり、やる気を出させるためのエサだ。

 するとどうだろう、五パーティーの面々は目を輝かせ始めた。


「レオポルドさんとのデートでも良いんですか!?」


 まだシュウトに抱かれていない生徒だろう、目の前の王子様にデートは可能かと本人に聞いている。

 もちろん答えはYESであり、その申し出があるだろうことは予想していた。

 デートや装備、個室が欲しいなどが多かったが、中でもひと際目を輝かせている者が一人居る、ステータスを偽装している勇者だ。

 偽装勇者は本来はとても強いためオーガごときは一ひねりだろう。

 目を輝かせているという事は願い事があるのだろうが、この擬装勇者、なんと自分たちの世話をしているメイドにガチ恋している。

 メイドとのデートがお望みだろうか。


 その翌日には偽装勇者があっさりとオーガ三匹を倒し、一体なにごとかと他のメンバー達が騒ぐ中、偽装勇者がレオポルドに願いを伝える。


「リリアンさんを僕の世界に連れて帰りたい」


 だった。

 随分と飛躍した願いのため却下されるのだが、それなら次はというと「リリアンさんと結婚したい」だった。

 どうもこの偽装勇者は暴走している様だが、なんとか一日デートで手を打った。

 そして遂に偽装勇者の能力がおかしいという話が広がり、改めてステータス鑑定をする事になる。

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