第5話 雨降ってひよこ寄り添う🐥🐤🐣🍬

 大阪府に住まいを構える山田家。


 今日もここで摩訶不思議生物であるキャベツの妖精たちは、ひよこ生を謳歌していた。


 リビングの窓際、日当たりのいい場所。


 ではなく、今日は生憎の雨模様。


 だが、今日も彼らはいつもの黒ゴマ色ソファーの上で、とうもろこし色のモフモフふわふわボディーを寄せ合い座っていた。


 いつもと同じ位置。


 右から頭に1本の毛を生やす、長男で優しくてしっかり者の長男のぴよ太。

 2本の毛を生やす、次男で頭が良く要領のいいぴよ郎。

 3本の毛を生やす、三男の甘えん坊で泣き虫なぴよ助の順に。


「雨って、なんで降るぺよか?」


 ぴよ助は立ち上がると、閉じられた窓の前に向かい、そこからザーザーと雨が屋根や地面に降り注ぐ音や、ぽつぽつと窓に当たる音に耳を澄ましたりしていた。


 三男坊ぴよ助は、なんでも気になるお年頃なのだ。


「ぺ、ぺよ!」


 その言葉を聞いていたぴよ郎は、何かを思い出したかのように、2本の毛を揺らす。


 背中をくっつけていたぴよ太もつられて、ビクつき立ち上がる。


 そのモフモフふわふわボディーは逆立ち、テニスボールほどの大きさになっていた。


「な、なにぺよ!? またGが出たぺよか?」


 不安そうな顔で周囲をきょろきょろと見渡す。

 

 対して、ぴよ郎は冷静にツッコミを入れた。


「違うぺよよ。あの絵本のことぺよ!」


 ぴよ郎は、2階の山田夫妻の書斎で読んだお気に入りの本のことを思い出していた。


 その絵本のタイトルは【あめといのち】。


 内容は児童向けの漢字の読めないひよこたちにも、読めるひらがな表記の簡単な物で、生きるの意味を優しく説いているものだ。


 その話に興味を持ったぴよ助は、窓の近くから3本の毛を揺らしながら、黒ゴマソファーの上に移動した。


「そのお話、ぴよちゃんに聞かせてぺよ!」


 とうもろこし色のボディーから、ぴょこんと短い手を出してその場で跳ねている。


 自分のお気に入りの物語に興味を持ってくれたのが嬉しいようで、ぴよ郎もとうもろこし色のほっぺたを、サクランボ色に染めていた。


「ぺ、ぺよ! し、仕方ないぺよね、ぴよちゃんがお話を聞かせてあげるぺよ」


 そんな2匹のやり取りをテニスボールと化した長男ぴよ太は、1本の毛を揺らしながら幸せそうに見つめていた。


 「ぺよぺよ、兄弟の仲が良いことが一番ぺよね」


 そういうと、2匹に寄り添いぴよ郎のお話に耳を傾ける。


 こうして、3匹はいつも通り、右からぴよ太、ぴよ郎、ぴよ助の順に横並びとなった。


 全員がまだかまだかと、ぴよ郎の声に目を閉じて耳を澄ましている。


 その様子にぴよ郎は、上機嫌な様子だ。


サクランボ色だったほっぺたは、いちご色に変わっていた。


「コホンぺよ! では、お話のはじまりはじまりぺよー」


 むかーし、むかーし、あるところに、あめのくにとよばれたおうこくがありました。


 あめのくにの、おてんきは、いちねんのはんぶんがあめです。


 そこにあさからばんまで、はたらくはたらきもののひよこがいました。


 そのひよこは、どんなときもえがおをたやさず、はたらきつづけました。


 ですが、あるひ。


 ひよこはたいちょうをくずしてしまいました。


 げんいんは、はたらきすぎたことによる、つかれからでした。


 だけど、ひよこはやすみませんでした。


 それはおうちでまっている、かぞくのため。


 あめのひも、あらしのひも、からだぬれようとも、はたらきつづけたのです。


 そのけっか。


 ひよこは、いのちをうしなってしまいました。


 のこされたかぞくが、どれだけかなしもうとも、もうひよこはもどってきません。


 このことをおもくかんがえた、あめのくにのおおさまは、あめのひをおやすみとすることにしました。


 それから、ふしぎとあめのおうこくは、どのおうこくよりも、ゆたかでおおきくなっていきましたさ。


 おしまい。




 ☆☆☆




「ふぅ……いいお話ぺよよねー! ぴよちゃんが気に入っているのは、王様が国民の為にルールを変えちゃうってところぺよ! あと、雨の意味はお休みを取る為ぺよね」


 ぴよ郎はお気に入りの物語を、兄弟に読み聞かせれたことで、満足そうな顔している。


 そのお話に聞き入ってしまったぴよ太は、いつしかぴよ郎の目の前に移動し、正座をして聞いていた。


「ぐすっ……いいお話ぺよね……パパさん、ママさんいつもありがとうぺよ……」


 つぶらな目からは、涙がポロポロと流れている。


 ぴよ太は、このお話に山田夫妻を重ねていたのだ。


 雨の日も、嵐の日も、家族の為に働く2人を。


 そんな兄を見たひよ郎の目からも、ポロポロと涙が零れ落ちていた。


「ずびっ……ぴよ太が泣いちゃうと、ぴよちゃんも泣いちゃうぺよ……」


 ピンと立っていた2本の毛も倒れている。


 ぴよ郎の頭の中にも、同じように昼夜を問わず働いてくれる山田夫妻の姿が浮かんでいたのだ。


 そして、そのお金で絵本を買ってくれたことも思い出していた。


 2匹の「「ぺよー」」という泣き声が家の中に響く。


 そんな中、どこか聞き慣れた音が聞こえてくる。




 ――ぐぅ……すぴぴぃ~。




 ぴよ郎の正面にいたぴよ太は、その光景を目にした瞬間。


 零れ落ちていた涙を止めると、ほっぺを掻きながら呆れた表情を浮かべていた。


「ぐずっ、あはは……仕方ないぺよね……」


 ぴよ郎は、その反応と背中へと寄り掛かる暖かい感触に嫌な予感がして振り返った。


「ずびっ、ぺよ……もしかして、そんなことはないぺよよね――」


 すると、そこには、気持ちよさそうに寝息を立てる甘えた三男坊ぴよ助がいた。


「すぴぃぃ……あめさん……飛んで食べた……すぴぴぃ~」


 3本の毛は寝息の度に揺れる。

 ぴよ助は雨ではなく、空を飛んでいるあめを追いかける夢を見ていたのだ。


 お話を聞かせて欲しいといったのに、寝息を立てているぴよ助に、いつの間にかぴよ郎は泣き止み、ほっぺを膨らませて地団駄を踏んでいた。


「自分が聞きたい言ったのに、寝るとか良くないぺよー!」


 その様子を見ていたぴよ太は、近づき頭をなでなでしてあげた。


「ちゃんと今日もいいお話だったぺよよ! だから、ぴよ助も気持ちよく寝れたぺよ!」


 ぴよ太は、ぴよ郎がこの絵本を大事にしているを知っていた。ボロボロになるまで何度も読んでいたことも。


「ほら、ぺよ」


 ぴよ太が指差す。


 そこには、誰よりも幸せそうな寝顔を見せるぴよ助が、寝言を呟いていた。


「ぴよ郎……ありがと……ぺよ……あめさん美味し……ぺよ……すぴぴぃ~」


「し、仕方ないぺよね……」


 そんな可愛い弟の寝言にぴよ郎も、すっかり機嫌を良くし近づいて寄り添う。


「ね、眠いぺよ~」


 背中越しへと伝わるぬくもりに、くちばしを大きく開けてコクンコクンと頭を揺らし始める。


 そして、あっという間に眠りに落ちた。



 ――すぴぃ……すぅすぅ……。



「ぺよぺよ! やっぱり兄弟が仲いいことは、幸せぺよね」


 長男ぴよ太は寄り添う合う2匹を見つめて、ほっぺたをさくらんぼ色に染めている。


 そして、自分も2匹の傍へ行き眠りについた。



 ☆☆☆



 この後。


 3匹は、夢の中で協力して、空を飛ぶあめを追いかけましたとさ。


 ぺよぺよ

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