第5話 『とりあえずステータス確認しとけば?』
◁
長々とした演説が終了し、イベントは落ち着きを見せてくれた。
そして俺は物陰に隠れて視聴者たちと話を整理している。
『つまりこれからは自由にこの世界を探索していくわけです』
『ダンジョンがいくつかあるから、その中から解体されたシリスの体を見つけるって流れ』
『オープンワールドだからどこから行っても可』
どうやらこのゲームの目的であるシリスの体集めのために複数あるダンジョンを発見もしくは攻略していくらしい。 そんでもって攻略の際ソロのプレーヤー向けに傭兵の仲間をパーティーに誘えるだとか。
その誘えるパーティーメンバーが先ほど話していたサラーマさんやサナさんらしい。 他にも何人か登場人物がいるのだが、ダンジョンを攻略していくにつれて誘えるキャラクターが増えるという話だ。
ストーリー後半になったら先ほど演説していたハレンドスさんもパーティーに加えられるとか。 まあそれはだいぶ後の話になりそうだから今は保留。
「そんなことよりどうやってログアウトすればいいんすかね」
『だからスマートフォン開いてメインメニューを確認するんだよ』
『それができねえから困ってるんだろw』
『まるで将棋みたいだ!』
「スマートフォンだけにね、ってやかましいわ! これってゲームクリアしないと元の世界に戻れない感じなんですかね? 異世界転生してると考えれば死んでもリセットは不可って考えた方がいいかな?」
『だから転生じゃなくて転移』
『お前さっきからうるさいよ』
『とりあえずステータス確認しとけば?』
コメント欄を見ながら小さなため息をついてしまう。 面白半分で見てる視聴者が多いせいかみんなことの重大さをわかってくれていない。
仕方がなく先ほど促されていたステータス確認を試みる。
黒湖ナイル
職業:ソルジャー ・Lv.1
体力:50
魔力:10(+32)
攻撃力:10(+32)
防御力:10(+32)
素早さ:10(+32)
幸運:10(+32)
固有スキル
・信者の助言
・信者の声援
どうやらチュートリアルを途中退場したせいでレベルは一のままだったようだ。 それにしても初めてプレーするゲームだからか、意味がわからない表記が多い。
中でも、ステータスを見ていて一番気になった部分がある。
「ソルジャーって何?」
『え? そっち?』
『それは普通に初期職業でしょ』
『そんなことより固有スキル気になるから調べんかい』
確かに固有スキルも意味わからんスキルが名を連ねている。 しかしこれの詳細を見るのは嫌な予感しかしない。
とは言ったものの、謎のまま片つけてしまうのは後々痛い目に遭いそうなのでいやいや固有スキルの部分をタップする。
信者の助言……信者たちの声を聞くことができる。
信者の声援……信者たちの同接数に応じてステータスアップ
「何だこれ、俺はもしかして教祖の設定なのか?」
『勘違いすんな、教祖はオマエだ』
『(+32)の意味がようやくわかったw』
『念願のチート能力じゃん』
「ちなみにこのゲームってステータス二桁が普通なんですかね?」
ゲームによって様々だがステータスの平均値は三桁が普通だったり四桁が当たり前のゲームもあったりする。 よって初見ではこの数値が高いのか低いのかがわからない。
『このステだとレベル20相当じゃないか?』
『同接数に応じてるってことは、上昇値は0.01%か?』
『小数点切り下げかな?』
「攻略班の方々計算早いっすね。 今の同接数が3224だからステアップが+32ってことですか、なるほどこれはチート能力だ!」
詳しい計算方法が表記されていないからおそらくこれは視聴者たちの予測でしかないだろう。 俺のステータスは同接数が鍵になってくるようで、このゲームの攻略の鍵は視聴者が握っているというわけだ。
言わば視聴者の方々と俺は今、運命共同体な訳だ。
「でもこの配信っていつまで続けられるんですかね? かれこれ五時間くらいは配信してますけど、そっちは今何時なんですか?」
『二十三時』
『時差はちょうど十二時間だね』
『でも、このまま配信し続けてたらサイトから強制終了されるんじゃない?』
もしこのまま配信が続き、異世界転生した配信者がいるなんて噂が広まれば同接数は増えるだろうが配信が強制終了されかねない。 そうなったら俺のチートスキルは役に立たなくなり、このゲームの攻略もかなり難しくなってしまうだろう。
「強制終了されたら一貫の終わりですね。 とは言ってもこの状況はいつまでも続けられるとも限らないし……弱ったなー」
チート能力は視聴者の方々の気分次第という少々ピーキーな性能だということも困った問題だが、そもそも異世界転生した俺の生活が四六時中視聴者たちに監視され続けるというのはかなり抵抗がある。
ってなことを考えていたら、とんでもない問題点を思いついてしまった。
「待ってこれ……トイレとかどうすんの?」
『貴様のエクスカリバーになど興味はない』
『エクスカリバー言うなw』
『ち○んち○ん丸と言いなさい』
「いやいや、伏せ字下手くそか! 逆に生々しいわ!」
視聴者たちのコメントに思わず大声で反応してしまった。 せめて○ゅんちゅ○丸的な感じで伏せろよ!
『いやいや、コンプライアンスの問題がね』
『異世界にコンプラ問題を持ち込む猛者あらわる』
『むふふ、ナイルたん、もう諦めて全部さらけ出しましょ?』
頭が痛くなりそうな問題を前に、俺は物陰で一人うずくまってしまった。
トイレもやばいしお風呂もやばい、視聴者たちには配信画面がどう映っているのだろうか?
「ちなみに皆さん、配信画面ってどうなってます?」
『いつも通り一人称視点』
『目隠しすれば大事なもんを隠せるぞ』
『じゃあ心眼スキルでも取りに行けば解決すんじゃね?』
「心眼スキル? 心眼スキルって何ですか!」
暗闇の中に一条の光が刺したような、希望に満ちたコメントが視界の端を掠めた。 これに
と、そんな希望に満ちたコメントのせいで思ったよりも大声が出ていたらしい。 俺は背後から近づいてくる人影に全く気がつかなかったのだ。
「ナイルくん、こんなところで誰と話してるのかにゃ?」
「うぎゃあ! ってサナさんですか」
肩を跳ねさせながら振り返ると、小首を傾げながら訝しむような視線を向けてくるサナさんが視界に映った。
「サラーマの旦那が言ってた通りだにゃ。 一人でぶつぶつ騒いでるし、とっても怪しいにゃ」
「いやいや、これはその、何と言いますか……」
すがるような気持ちでコメント欄に視線を向ける。
『サナなら協力してくれんじゃね?』
『ジョブチェンクエストは一人じゃきついぞ』
『欲を言うならプリーストが欲しかったが仕方ない』
攻略班の皆さんは訳を話して仲間に取り入れろと御所望だった。 ジョブチェンクエストという気になるワードがあったが今はそれどころではない。
俺は周囲に目を配らせ、誰もいないことを確認してからサナさんに手招きする。
するとサナさんは嫌そうな顔をしながら俺に歩み寄ってきた。
「あのですね。 俺が一人で喋ってるのは固有スキルの問題でして……簡単に説明すると、このスキルを使えば未来視に近い芸当が可能なのですよ」
「あのさ、ナイルくん自分が何言ってるかわかってるかにゃ?」
「ご安心召されよ、俺は至って真剣でございます」
俺が真剣な表情でサナさんと正対する。 するとサナさん、ニンマリと怪しげな笑みを浮かべながらこう提案してきた。
「その未来視が本当なら、これからサナが取る行動も予測できてるのかにゃ?」
こちらを嘲笑うような笑みを向けてくるサナさんに対し、俺は額から玉の汗を滴らせる。
『まずいぞナイルたん』
『駆け引き下手くそか』
『嘘はあかんでしょw』
コメント欄もこの状況を見てダメ出しが飛んでいる。 俺も自分で言っておいてこれはやばいかもと思った。
固唾を飲んでサナさんの次の挙動を見守っていると、くるりと方向転換して突然走り出すサナさん。 一瞬、呆気に取られてしまう。
「サラーマさん大変だにゃー! ナイルくんは未来視ができるスキルを持ってるらしいにゃー! シリス様の体がどこに隠されてるかわかるかもしれないらしいにゃー!」
「ぎゃーーーーー! 嘘ですごめんなさい! だから大声出すのはやめて下さーーーい!」
この後、俺は駆けつけてきたサラーマさんを誤魔化すのに大変骨を折った。
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