40話 復活の儀
封印の地。この洞窟の最深部は、地上からの地下水で満たされた巨大な地底湖が広がって所々に岩肌がむき出しになっており、さらにそれらを切り開いたような隆起群が長い年月をかけて形成されたような大空洞になっていた。
復活の儀はその地底湖中央にある大きくむき出しになった巨大な岩場にて行われる事になった。
そして、その規模・・・。
帝国重装歩兵団300名
帝国軽装歩兵団200名
帝国猟兵 100名
他にも南ランス王国より聖騎士団50名、武装商船団員50名、そして宮廷魔導士師団と魔法ギルドメンバーからなる混成魔導部隊の80名の全て配置に付いてもまだ余裕のある広さである。そして微弱ではあるも、自然に形成された結界が魔力を外へ漏れ出すのを防いでいる。幸か不幸か、ここが復活の儀に選ばれたのは良好だった。ここでなら何かあった場合でも最悪、被害は最小限に食い止められる。
「では・・・皆様、こちらは準備万端でございます」
向かった先にはマーチル・ホーン側が着々と準備を進めていた。
岩場の中央に置かれた『進化の技法』と呼ばれるアティーファクトは思っていたよりも小さく、遠目からではそれが一体何であるかすら確認出来ない程。そしてこれより、魔力の扱いに長けた者達によって『復活の儀』がいよいよ執り行われようとしていた。
「私の方はなんら問題はございません。そちらの方は無事に復活の儀に参加される方々は選出できましたかな?」
「ああ、問題無い。復活の儀には私とマグダレーナが出る」
帝国側の方はジゲン、そしてマグダレーナの双方が前に出る。ジゲン曰く、現時点で最高の魔力、人間で言う所の魔力操作能力に長けた者は自身と聖騎士団のリーダー、マグダレーナが最適であるとの結論であった。
―時は少し遡る
「復活の儀に参加する者は私と、聖騎士団のマグダレーナとする」
帝国における軍議において、最終的に復活の儀に参加する二人がジゲンの口より発表される。
「ジゲン様、それではもし何かあった場合の指揮に関しては・・・」
「そこはジェミニ、君に任せる。もし私に何かあった場合は君が指揮を取れ」
「よいか!もし何かあっても万全の体制を期して挑む手筈は整っている。帝国の臣として恥じぬ事無く、如何なる場合も全力を尽くせ!」
「「「ハッ!!!」」」
―時は戻り、マーチル・ホーンの思惑
(・・・やはり、手勢で埋めてきたか)
マーチル・ホーンとしても元より人類との締結が上手くいくなど思ってなかっただけに、そう言った事態も想定内であった。
(所詮、弱者というのは臆病で狡猾、そして何より不信の塊のようなもの。誠実さとかけ離れた愚鈍な生き物と先を見据えた関係など・・・所詮は不毛か)
「なるほど・・・そういえば貴方方人間は魔力の自然循環が出来ないというのは本当だったようですね。二人とも素晴らしい魔石をお持ちのようで」
ジゲン、そしてマグダレーナ。二人自身に魔力量は無いが、装備された杖や装身具に付与された魔石からはマーチル・ホーンと並ぶ程の魔力量がその存在感を示していた。
「足りますかな?」
「ええ、問題ございません」
そして・・・マーチル・ホーン、ジゲン、マグダレーナの三人が『進化の法』の周囲へ均等に立つ。
「それでは、これより『進化の法』解放による復活の儀を始めるものと致します!!!」
―同刻。モズナル領、シュレイク居城にて
「物見からの情報ではどうやら始まったようだ」
「ほう・・・そうですか。しかし、中に閉じ込められた者が本当に皇帝であるかとも知れずに・・・人間側の方も随分と焦っておられる」
遥か遠方、シュレイクにも皇帝復活の儀が始まったという報が届く。執務室に座るモズナルに対し、設けられた椅子に腰かけ茶を啜る謎の老人が一人。
「300年という長い年月。ヒトの思考が鈍るのには充分であろうよ」
「左様に。ですが、あの若造がもし頓挫された場合はどうなされるおつもりか?」
「テヌージー、わざわざそれを進言する為にこんな場所まで来たと言うなら、それは杞憂というものだ」
老人はその返事を返す間に、少し一息ついた。
「・・・『進化の法』とは言葉の通り、生物を神にまで昇り詰めようとする神の御業。ですが、あれは結局強引にヒト、魔物、そして魔族の力を取り込ませ、そのなれ果てはどこまでも破壊と殺戮を繰り返す自我の無い化け物に成り代わるのみ・・・」
「無論、マーチル・ホーンにはその事は伝えてある」
「ふむ・・・ですが、あまりに多くの血が流れるならば、それはそれで均衡が大きく崩れると言うもの。そうなればいずれは我らがまた共闘とするという手を使ってもでも干渉せねばなりますまいて」
「それもまた杞憂だ。『進化の法』あれは完全な失敗作。破壊尽くした後はその力もまた大きく失われる。その時にまた新たな封印を施せば、今度こそ皇帝は永久にその地を見る事さえ叶わず二度と日を見る事も無い」
「それが・・・人類の終焉ですか」
モズナルは最後の問には答えず、静かに目を瞑った。
―鹿とヘクター
帝都のすぐ近くにこんな広大な大空洞が存在していた事にも驚きだが、そこに集結した帝国の精鋭連合部隊約800名の布陣は圧巻すぎた。
そうした中、俺達ロドリー隊は何故かヘクターという元帝国傭兵団の隊長を加え、軽装歩兵団の末端に配置されていた。傭兵団の方はヘクターの退団と共に解散命令を受けていたのでさすがにこの場に間に合わなかったとか何とか。
「・・・・・・・」
岩に腰かけ、遠くに見える復活の儀を見守るヘクター。会議の時の勢いとは裏腹に、今日は静かに闘志を燃やしているような感じである。
そしていよいよマーチル・ホーンの合図と共に復活の儀が始まった。その合図と共に三者がそれぞれに魔力を『進化の法』へ放出し始める。最初こそ何の変化も無かった像だが、徐々に魔力の力を帯びて淡い光を放ち始めていた。
「・・・・陛下、どうか無事で」
ヘクターはこれから起こる身を案じていた。
皆、特に会話する事も無くただ遠くに見える儀式を見守り続ける。それにしてもこちらが多勢に対し、魔族側はマーチル・ホーンを始めとする数十名足らずしか居ないのには少し驚いた。どうやら連中は最初から皇帝が暴走した際に援護をするという考えは無いようだった。
「何考えているか相変わらずだけど、やっぱりロクな事はないようだね」
ドニヤの目は真っ直ぐにマーチル・ホーンへと向いてる。
「アイツは私がやるよ。どさくさに紛れて逃げるようなら尚更だ」
斧を回しながら気合十分と言った感じのドニヤ。
対する俺達は・・・。
―帝国王宮内 会議室
「実はお前達に頼みたい事がある」
ここに来る直前、ジゲンにより呼ばれて執務室へ行く。
そう切り出されて告げられた内容が・・・。
「ヘクターの監視?」
「そうだ、事の問題は皇帝陛下が解放された後に起こる可能性が高い。もし、あやつが命令に背いて危険な行動を取るなら・・・」
「それを全力で阻止しろ、と」
「そういう事だ」
「だがよ、ジゲンのおっさん。そんな奴わざわざ連れて行く必要あるか?軍隊ってのは規律が絶対なんだろ?」
ロドリーがそう言うとジゲンは少しニヤリとした、ような見えた。
「なに、いざという時は頼りになる男だ。止めるのも陛下が復活された一瞬で良い。新たな皇帝が選出されれば、あやつもすぐに忠義を尽くすだろう」
これがヘクターが俺たちに合流している理由である。
さすがに味方に大剣を振り回すような事は無いだろうが・・・。
「・・・くるぞ」
ヘクターがそう言った時だった。
復活の儀を行っていた中央の光が強まり、同時にみしみしと辺りの揺れが強くなっていくのを感じる。
「おいおい・・・崩れてこねぇか?」
「大丈夫でしょう、魔力反応による微弱な振動です」
「んー、いよいよ皇帝復活かぁ、女の人なんだっけ?美人なのかなぁ?」
ミリューが相変わらず緊張感ゼロで少し安堵する。ドニヤだけは魔族側を静かに睨んでいる。それとは対照的にヘクターは『進化の技法』一点に釘付けだ。
そして・・・先ほどから続いていた地揺れが止まる。
三者による魔力注力が終了したようだった。
注目されている『進化の技法』は眩い光を放ったままだったが、次の瞬間、薄暗かった洞窟が一気に真っ白に染まり、一瞬にして目が眩む。
そしてついに・・・。
『進化の技法』がパカッっと奇麗に割れ崩れ落ちる。遠くではっきり見えないが、そこには確かに人のような何者かが立っていた。その場に居る全員が注目している。
果たして皇帝陛下は無事か、それとも・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます