第6話 緊張する超人
二人は走っていた。とにかく人目を避けての安全確保が優先だ、
「ハア、ハア、富士見野さん、腕、ヤバくない?」
息を切らせながら様子をうかがう晶子に
「大丈夫っす、自分は不死身ですから」
そう言いながらも彼の顔は汗びっしょりでダメージを受けた左腕も力なく肩からだらりとぶら下がっていた。このままではマズい。もしここで次の襲撃があろうものならひとたまりもないだろう、早いところなんとかしなくちゃ。晶子は自分を落ち着かせるため胸に手を当ててまずは深呼吸した。
一呼吸、二呼吸、やがて気分も落ち着いてくる。すると前にミエルが言っていた言葉が頭に浮かんできた。
「困ったときには周りの人たち、できれば大人たちに相談すること。きっと助けてくれるから」
晶子はトートバッグからスマートフォンを取り出すと登録してある番号を呼び出した。
「もしもし、
会話をしながら
「それじゃ、よろしくだし」
そう言って通話を終えると晶子は「富士見野さん、もう少しだけ我慢して」と言いながら彼の無事な右腕を取って先を急ぐのだった。
「電話でお話を聞いていましたが思っていた以上によろしくないですね」
「うん、これ折れてると思うよ、絶対」
頑として席に座らず床にへたり込む
「富士見野さん、どうかご自愛ください。せめてお水だけでも」
「自分は不死身っす!」
「
美月のその言葉に
「迎えってなんですか。自分は大丈夫ですから」
「大丈夫じゃないって。だから
「お待ちしておりました。富士見野さんは奥の部屋に」
「お手数をおかけして申し訳ありません」
ブラックスーツの青年が姿勢を正して頭を下げる。同時にもう二人の青年、続いて彼らの後から眼光鋭い男が現れた。事務所では事業部長を名乗っていた男だ。四人は
「お嬢さん、そこの
「そんな部長さん、頭を上げてください。それに富士見野さんはあたしを守ってくれました」
頭を上げた男は
「部長さん、もうやめてください、お願いです。それに早く富士見野さんを病院に行かないと……」
男は晶子を一瞥するともう一度握る手に力を込める。じっと目をそらさず男の目を見据える
「おい、連れていけ」
「か、
情けない顔で男に何か言おうとする
「ミイラ取りがミイラになってんじゃねぇ、バカ野郎が。とにかく車に乗ってろ」
肩を落とした
「お嬢さん、それにお店のみなさん、このたびはとんだご迷惑をおかけしました。このお詫びは後日あらためて。それとお嬢さん、これからはそこの二人があのバカに代わって護衛しますので、よろしくお願いします」
店の入口に立つブラックスーツの二人が晶子に向かって晴久がそうするように九〇度のお辞儀をする。
「二人ともそれなりに心得もありますのでご安心ください。それでは私はこれで失礼します。おい、お前たち、お嬢さんを頼んだぞ」
「はい」
「承知しました」
そう言って二人の青年を残して事業部長を名乗る男は店を後にした。
嵐が去った後のような中、
間もなくして店の外から月夜野の愛車、シトロエン2CVが発する空冷二気筒の乾いたエンジン音が聞こえてきた。店に戻って来た月夜野が三人に声をかける。
「さあ、ママのオフィスまでお送りします。みなさん、どうぞお乗りになってください」
左ハンドルの運転席には
「それでは参りましょう」
ダッシュボードから突き出たシフトレバーを月夜野は慣れた手つきで操作する。大人四人を乗せた小粋な車はローギアーのエギゾースト音を響かせながら新宿の裏道を走り去って行った。
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