第7話 修学旅行会議

 

「おはよう! 由美」


 翌日いつものところで由美と出会った。それで少し楽しくなつて、いつもよりもはるかに高いテンションで、由美に話しかけた。


「ねえ、昨日の件なんだけど」

「うん」

「もうわかんなくなっちゃった」

「え?」


 どういうこと?


「私さあ。最初は楽しかったの。でも、飽きが来てきてて、なんか彩香もテンション高くて。ちょっと……」


 由美の意外な言葉を聞いた。今までノリノリだったのだが、実はそこまでは乗り気ではなかったらしい。と言うことは頼れるのは亜美だけになってしまったようだ。まあ、頼れる相手が一人減ったのは痛いが、そもそもその会話を避けていたのは私だから他人を責められない。それに私としてもできればこの事件はノータッチで行きたいのだ。


「愛華……ごめん」

「ううん。由美は悪くないよ」

「うん……」


 やばい、気まずい。完全に熱が冷めてしまった由美と、今解決に力を入れている私。どうすればいいのだろうか……


「ねえ、由美。じゃあ別の話しよ!」

「それならいいよ! あ、ごめん。なんか上から見たいになっちゃって」

「別にいいよ。ゲームどうな感じ? 上手くなった?」

「いや、それがさあ。なかなかやる時間なくて。だって、前までゲームのイベントがあって周回しなきゃならなかったの」

「え? 上手くできた?」

「うん。もちろん、全部手に入れたよ。大変だった」

「それはお疲れ様」

「それでさあ、それで手に入れたチケットでガチャ回したわけ」

「どうだった?」

「だめだった」

「それは残念だね……」


 私の求める情報は何も入ってこない。ただ、この何気ない会話。これが私の心を癒してくれる。本当は事件なんて触れたくない、無視していたい。でも、私の正義感がそれを許してくれない。ああ、そうだ。私は……


「由美とのこの時間が続けばいいのに……」

「え? 何? 急にどうしたの?」


 つい口に出てたようだ。しまったかも。


「いや、さ楽しいなって」

「それは良かった!!」


 そして、学校に着いた。


「ねえ、彩香も話に加わっってくれるんだよね! これで三人じゃん!」


 その瞬間私の隣にいた由美が苦い表情をしたことを見逃さなかった私は息をのんで、声を出した。


「ねえ、そのことだけど……由美はもう加わらないって」

「え?」


 やっぱり彩香にも伝えてなかったのかと、思った。たぶん私は二人に対して怒ったことがない、それどころか、私は学校で怒った記憶もない。

 要するに私は温厚なイメージがあるのだろう。だから私には簡単に言えて彩香には怖くてなかなか言えなかったのだろう。実際隣では由美が恐れおののいている。まあ、いざとなれば私が助けるつもりだが。


「由美は、事件の謎を解きたいと思わないの?」

「なんか飽きちゃって」

「由美、全く。まあ仕方ない。二人になるけど活動していこう」

「うん!」


 と、由美を除いた私たち二人で、隊が結成された。


「なあ、追加情報とかはあるのか?」

「ごめん。ない」

「そっか。あーあ、私の方も手掛かりないわ。あ、でも一つ愛華と同じこと書いてる人はいたけど」

「え? どれ?」

「それがこのサニーダさん」


 そして亜美が見せてきた。だが、その文章見覚えがある。それは……


「私が投稿したやつじゃん!!!」


 まさに私のだ。


「え? でも愛華のアカウントこれじゃないじゃん」

「急いで作ったんだよ。そう言う系のやつを」

「へー」


 そんなことを話していると、先生が「ホームルーム始めるぞ」と言ってきたので慌てて自分の席に戻った。


「えー君たちはもう知っていると思うが、福原先生が例の事件によって亡くなられた。そこで君たちは不安に思っていることがあるだろう。それは修学旅行をやるかどうかだ。だが、学校としての判断は……」


 代理の先生、服部先生が言葉を溜めている。そのせいでハラハラする。普通に考えれば教師が一人亡くなっている状況で修学旅行などやらないだろう。


「やることになりましたーーーーーーー!!!!!!」


 それを一気に開放した。すると学生から「うおおおおおお!! やったー!!!」と言った声や「良かったー」と言う声、「まあこれで無くなったら最悪だもんね」とか、「でも、福原先生亡くなったんだよね……」といった様々な声がした。


 ちなみに私自身としてはもちろんうれしい。やはり高校生活一度きりの修学旅行、中止になったら不完全燃焼で受験に入るだろう。それはやっぱり嫌なのだ。


「そして、今度の木曜のホームルーム。その日に詳細を決めていくからなあ」

「はーい!」


 と、そんな感じで朝のホームルームが終わった。


「ねえ、修学旅行楽しみだよね!!」


 終わった瞬間に由美が私の机に来た。思えば由美はずっと修学旅行を楽しみにしてたからこの反応は当たり前のものだなと感じた。


「沖縄だよね、海とか楽しみだなあ」

「海と言えば、バナナボート乗れるらしいよ」

「バナナボート? 何それ」

「え? 知らないの? ウォーターバイクで引っ張ってもらうんだよ。バナナの形をしたボートを」

「……それ、怖くない?」


 何かよくわからないけど、怖そうなにおいがプンプンとする。普通にできれば乗りたくない。私はジェットコースターにも乗れない人間なのだ。


「でも、海では泳ぎたいな」

「うん。水の掛け合いっこしたい!」

「それカップルでやるやつだから」

「カップルじゃなくてもいいじゃない。友達同士でもさ」


 そんな話をしていると、彩香も近づいてきた。


「私も楽しみだよ」


 そしてそんな事事を言った。


「綾香も? どんなところが楽しみなの?」

「うーん。そうだねえ。……………海かな」

「溜めた割には普通だね」

「別にいいじゃない! 他にもあるよ。鍾乳洞とか、船とかさあ」

「確かにそうだね」

「はいはーいお土産とか何買う?」


 由美が超テンションで言う。


「もうお土産の話? 早くない?」

「早いに越したことはないよ! ね、彩香!」

「もちろん。考えた末に時間なくて変なやつ買うのが嫌だしな」

「なんか急に現実的なこと言わないでよ……それにしても夢がない……」

「夢が無くて悪かったわね!」


 彩香が私の背中を叩きながらそう言った。修学旅行、修学旅行か、楽しみだなあ。


「あ、そうだ。それまで死なないでね」


 あの事件によって。


「なんで死亡フラグみたいなこと言うのよー。それじゃあ私達の中の誰か死んじゃうじゃん!」


 由美がもう否定してくる。


「ご、ごめん」

「愛華、素直だね」

「だってそんなんやだし」


 もしそんなことなったら私も死んじゃうくらいさみしくなるし。


「だからさ、誰一人かけずに楽しもうね」

「うん」

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