流れ星のおちる場所
茄子乃芯
前話
更地になったその土地に二人の男が訪れた。青年と白髪まじりの中年男である。青年は軍手をした手で隅に積まれた小さながらくたの山を漁り始めた。中年男は背の低いブロック塀に片足をのせてその様子を見ていた。
「ありました」
青年が言った。中年男は火をつけた煙草を持ったまま青年に近づいた。
「こりゃひどいな」
中年男は煙を吐き出しながら言った。青年は慣れたように煙を追いやるとがらくたの中からいくつかの石をひっぱりだした。それらは拳ほどのものから顔より大きいものもあった。
「これで全部か」
中年男が青年に聞いた。青年はがらくたを軽くかき分けながら
「おそらく」
と答えた。中年男は後頭部をがしがしと乱暴に掻いて眉を下げた。
「てっきりもう散ったと思ったんだがなあ……」
青年は石を黙々と積み上げた。大きさの順番を変えて何度も積み直した。中年男が短くなった煙草を靴の裏でもみ消すころ、青年はやっと石から離れた。
「できましたね」
積み上げられた石のてっぺんがぼんやりと光を帯びる。それはほんのかすかなもので、煙草の火のほうがずっと明るいくらいだった。
「足谷の娘さん、荒れるだろうな」
「月子さんのところとは限らないでしょう」
「いや、世代的に間違いないだろう。一応、裏どりはするけどよ」
中年男は新しい煙草に火をつけて「神奈川かあ……遠いなあ」とぼやいた。
「交渉と手続きはこっちでやる。細かいところは任せた」
「不動産のほうはどうします?」
「こっちのだれかに買わせる」
青年は『売地』の看板とその上に広がる星空を見る。田舎の空は暗いのに明るくて広い。
石の光は弱弱しい。だれがこれを『星』と呼びだしだのだろうか。それを調べるのが己の仕事なのだけれど。
「両親にも話を通しておきます」
「大丈夫か?」
「よほど破天荒な子でなければ大丈夫でしょう」
青年は光る石をそっと撫でた。すると光はすっと消えてしまった。中年男は二本目の煙草を踏みつけた足で石を軽く小突いた。
石はまたがらくたの一部となった。
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