男達の戦い

プロジェクトX再開を記念して

実話だから田口トモロヲ風に読んで欲しい。


十数年前のある日、役所から「相談がある」呼び出しがあった。

管理している公営住宅の修理の事だった。

「力を貸して欲しい」と彼は話し始めた。


それは今度公営住宅に入居する子供たちの話だった。

下は5歳から17歳までの4人兄弟だけで入居する。

その子供達が助け合って暮らしていく為の手伝いをしてくれと彼は言った。


彼は語った。

子ども達の父母は一年たらずの間に相次いで亡くなったらしい。

身内は4人同時に引き取るのは難しいと、子供達をバラバラに引き取る事になった。

それは仕方のない事かもしれない。

しかし仲の良い兄弟達は離れ離れになる事を拒否した。

彼らは困難を覚悟で自分達だけで生きていくと決めた。

17歳の長女が働きながら看護助手の勉強をし、幼い弟妹を育てる覚悟をしている。

みんなで助け合って生きていくと自分たちで決めた。

小学一年生の女の子でさえ5歳の末弟の世話をしている。


その健気な兄弟たちの為に出来るだけの事をしたいと彼は言うのだった。

その場にいた、駐在員、民生委員、私が力強く頷いたのは人として当然のこと。

私はすぐに下請けを集めた。

そして訳を話し協力を求めた。

彼らは奮い立った。

「子供達に手を貸すんだ」

彼らはその職によって出来るだけの協力を申し出た。

彼らはその時、俺たちになった。

俺たちはチームになったのだ。

「俺は壁を全部塗る」

「俺は床を張り替えるぞ」

「そうだ、在庫品の流し台と浴槽を持って来よう」

「照明器具は任せてくれ」

「畳は俺が張り替える」

それらは当然全て無償の奉仕。

健気な兄弟たちに力を貸すのだと言う気持ちが男達を動かしたのだった。

そして、子供達の住む所が出来た。

後は駐在員と民生委員が全力をあげて面倒を見ると言う。

俺たちの仕事は終わった。

俺たちは裏方だから顔も名前も出さない方が良い。


後に兄弟達は助け合って暮らしていると聞いて男達は安心した。

その男達の顔には満足げな笑みが浮かんでいた。


    (ヘッドライ~ト テールラ~イト)


数年後、子供達は長女の就職により引っ越していった。

その後は知らない。

幼かった末弟も成人になっているだろう。

きっと助け合って仲良く暮らしているのだろう。


強固な使命感をもったチームは修理の完了と共に自然消滅した。

時々、男たちは「あの子らはどうしているだろう」と思い返す。

そして又日々の仕事に戻っていく。

しかしその胸の中には、成し遂げた事の記憶が誇らしく残っている。


   (た~びは~まだ おわら~ない~~)


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