一方その頃の公爵家
仕事のため、屋敷を開けていたクルステア公爵が帰還した。
ティアリーゼがミルディンへと向かう日程も決定した。
最近自分や家族を避けているティアリーゼだが、本人に伝えなければいけない。
娘とはまた扉越しでの会話だろうか、と公爵が心中で呟きながらエントランスを進んだその時。
血相を変えた家令がクルステア公爵に告げる。
「大変です、旦那様!何日も前からティアリーゼお嬢様は屋敷の敷地どこにも見当たらず、お部屋にこのような置き手紙が……!」
◇
屋敷に帰還した途端、信じられない事態がクルステア家で起こっていた。
公爵家長女である、ティアリーゼが王都から旅立ち、勝手にミルディンへと向かったというのだ。
狼狽しながらも、クルステア公爵はティアリーゼの様子に詳しいと思われる侍女、リタを執務室へと呼び出していた。
「ティアリーゼについて、何か気付いたことはなかったか?」
「申し訳ございません、わたくしには分かりかねます。普段は本館で、マリータお嬢様に付いておりますので」
「そうか……そういえば私がリーゼに会いに、別棟に足を運んだ際に思ったのだが、随分と使用人の数が少なかったように思えるが……。リタも本来はリーゼ付きの侍女だったはずだが……」
「ええっ、少ないでしょうか?普段……旦那様がいらっしゃらない時は、もっと少ないような気がするのですが……」
後半、ぶつぶつと独り言を続けるリタを訝しみながら、クルステア公爵は盛大にため息を吐く。
「……このような置き手紙のみを残して家を出るとは……今日中に捜索隊を出そうと思っているのだが」
本当にミルディンに行ったとも限らない。公爵は以前ティアリーゼが、自分に言い放った言葉を思い返す。
「ユリウス殿下が婚約を承諾なさらなければ、使用人として置いて頂けないかと願い出るつもりです」と、それが叶わなかったとしても、王都に戻る気はないと言い切った。
そしてそのまま、死んだ扱いにして欲しいとも──
「何故黙って出ていってしまったのだ……」
「見送られてからの出立だと、二度と屋敷に戻ってこないようにと、刺客を向けられるかもしれないと、お嬢様様は怯えておられたのかもしれません」
「……何故そう思う?」
「それは奥様がティアリーゼお嬢様のことを良く思われていない……」
その時、二人の会話を遮るようにコツコツと、硬い何かが窓を叩く音が響き渡る。
公爵が窓を開けると、ほんのり光を纏って見える不思議な青鳥がそこにいた。
その青鳥は手紙を咥えている。
不審に思いながらも公爵はおそるおそる手紙を受け取り、広げてみる。
『クルステア公爵令嬢 ティアリーゼ殿を迎えに上がり、無事に城までお連れした』
との内容が記されており、ランベール第一王子ユリウスの紋章印が押されていた。
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