魔法

 ミルディン地方へ入る頃には、外は一面の雪景色となっていた。

 現在ティアリーゼは馬車に乗って、ユリウスの居住する城へと向かっている。


 ティアリーゼがレイヴンをユリウスからの使者だと確信した次の日、早速宿を出立することになった。


「馬車もこちらでご用意させて頂いております」とレイヴンに案内され、馬車へと乗り込んで今現在に至る。


 レイヴンがユリウスの使者だと確信するに至ったもう一つの理由。

 それはレイヴンの一言によって決定付けられた。


「馬車には魔法を掛けておりますので、城へは一日あれば着きます」


 ユリウスは自身の城に引き篭もり、魔法の研究に没頭していると聞いている。

 この国にも魔法使いはいるが、隣国にある魔法大国ソレイユほど発達はしていない。


 魔法でどのようなことが出来るのか詳しくは分からないが、魔法で自分達の動向を探っていたのかもしれない。

 それに、もしかしたらレイヴンも魔法を使える可能性も大いにある。


 馬車にはターニャも反対側の席に同乗し、ティアリーゼの話し相手となってくれた。


 魔法がかけてあると言っていた馬車から窓の外を目にすると、信じられない速度で進んでいるのが分かった。

 それなのに、微塵も身体に負担が感じられない。


「お、お、お嬢様!窓の外を見ていると何だか不安になりますね!?」

「そう?じゃあカーテンで閉じて置きましょうね」


 持ってきた軽食を摘んだりして、しばらく馬車の中で過ごしていると、ふと気になったティアリーゼはもう一度こっそりカーテンを捲って外を確認してみた。

 流れていく景色から、馬車が通常の速度になったことが分かると、カーテンを開け放った。


「見てターニャ、普通の速さで走っているわ」

「本当ですね!ここはどの辺りでしょうか?……あ、お城が見えます!」


 ターニャの指差す方を見ると、遠くに古城が確認出来る。

 近づく古城を眺めていると、お伽話の世界に迷い込んだような錯覚に陥る。馬車は森の入り口へと差し掛かった。

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