再会

「ミヤ!」


リンクを出ようとした時、突然後ろから声をかけられた。


聞き覚えのある、懐かしい声。


一番会いたかった人の声。


「蒼にぃちゃん!」


振り向くとそこには、蒼にぃちゃんがいた。


「お疲れ様!相変わらずいい根性してんな!最後のシュート、ああいうプレー好きだよ!」


蒼にぃちゃんはいつも必ずプレーを褒めてくれる。


ただそれがただなんとなくではなく、的確で自信にも繋がる。


「ってかなんでいるんだよ!?いつ日本に帰ってきたの?」


帰国するなど一言もなく、もちろん試合を観に来るなんて考えても見なかった。


すると蒼にぃちゃんはイタズラが成功した小学生のような顔で言った。


「サプライズ成功って感じだな!」


まんまとはめられた。


「帰国してリンクに直行したんだよ。この試合だけ見にな!いい試合見せてもらったよ!」


いい試合・・・


0-13のどこがいい試合なのだろう。


せっかくアメリカから試合を見にだけ来てくれて、あんな歯が立たない試合を見せてしまって、再び涙が出そうになった。


すると蒼にぃちゃんは俺を抱きしめて言った。


「ミヤ、そんな顔するなよ!この試合で得たものは大きかったはずだぞ?」


確かにこの試合でレベルの違いを痛いほど知った。


「でも・・・」


すると蒼にぃちゃんは俺の肩を掴んで目をまっすぐ見ながら話した。


「実は俺も中学の全道で痛いほどレベルの違いを知ったんだよ。今回対戦相手を知った瞬間、ミヤにとって絶対に大切な試合になると思って見にきたんだ。」


知らなかった。


蒼にぃちゃんはずっと上手くて今に至っているとばかり思っていた。


蒼にぃちゃんは続けた。


「俺たちの地区は他の地区と違って夏場にリンクが休みになるからオフシーズンがある。他の地区は年中リンクが使える。さらに実業団のジュニアチームがあって指導者も元プロ。この差は思う以上に大きいんだよ。」


確かに、毎年4月から7月までのオフシーズンは陸トレしかできていなかった。


指導者についてはうちの中学で見ても分かる通り、ホッケーを教えられる顧問はいない。


「けど小学校の選抜ではここまで差はなかったよ・・・」


この試合の前まで思っていたことが口から出た。


すると蒼にぃちゃんは言った。


「小学校の頃に通用しても中学から一気に差が出てくる。これは何も北海道の中だけの話じゃない。日本と海外の差も同じくらい開いているんだ。」


海外・・・


日本は現状、アイスホッケー種目でオリンピックすら出ていない。


世界との差は大きいことは分かりきっていた。


「中学の親善試合、高校のユースで国際試合をやって痛感したよ。年齢が上がれば上がるほど、日本と海外の差は開いていくんだ。」


蒼にぃちゃんは寂しそうな顔をして言った。


「けど海外は単純に体格や筋力の差な気がするけど・・・」


客観的なイメージで俺は言葉を発してしまった。


すると、少し厳しい目をして蒼にぃちゃんは言った。


「ミヤ、それは違うぞ。確かに海外の選手は体格も大きいし筋力もすごい。けど海外の選手はめちゃくちゃ基本を大切にする。NHL選手でさえ、スケーティングの練習をしているくらいだからな。」


NHL・・・


アメリカのアイスホッケーリーグで、世界で最もハイレベルなリーグ・・・


「身体が小さいとかは関係ない。要するにホッケーがうまけりゃいいんだよ。な?」


そう蒼にぃちゃんは俺の肩を叩きながら言った。


「ありがとう。俺ももっとホッケーうまくなるよ!」


俺がそう言った瞬間、蒼にぃちゃんがニッコリ笑って言った。


「小学校の初試合で負けた時とおんなじセリフたな!」


確かにそうだ・・・


しかし、そんな昔のことを覚えていてくれていることも嬉しかった。


「ホッケーが好きなのは今も昔も一緒だからね!」


なんだか色々な気持ちが吹っ切れて、俺はそう言った。


「ってことはまだホッケー続けるってことか。当たり前か!高校、どこ行くんだ?」


そう聞かれた俺は即座に答えた。


「大上高校・・・を・・・受けるよ。」


北海道立大上高校。


公立でありながらインターハイ出場経験もあり、何より蒼にぃちゃんの母校だ。


「大上・・・!!!大上受けんのか!おぉぉ・・・!受かるのか?」


蒼にぃちゃんからのド直球の質問。


大上高校は市でも2番目に偏差値が高く、確実に受かるとは言い難い。


「受かるよ・・・!多分・・・。」


改めて聞かれると自信がなくなってきた。


「ミヤなら大丈夫だ。今日から入試まであと2ヶ月だな。やってみ?」


蒼にぃちゃんに言われるとできそうな気がしてくる。


「うん!絶対受かってやる!」


「期待してるぞ?未来の後輩!」


蒼にぃちゃんはそう言うと、グータッチをしてきた。


「ミヤ、それじゃそろそろ行かなきゃだ。飛行機の時間あんだ。」


本当に試合だけ見に来てくれたことに頭下がる。


「うん!ありがとう蒼にぃちゃん!次会うときは高校の後輩になってるから!」


「期待してるぞ!」


そう言うと、蒼にぃちゃんは小走りでリンクを出ていった。


蒼にぃちゃんがアメリカのリーグでも活躍していることは雑誌で知っている。


それでも見に来てくれて、さらには声もかけてくれて、元気づけてくれた。


今度は嬉しさで涙が出てきた。


「よし、まずは大上高校合格だ!」


目標を全道から受験へと切り替えも済んだ。


あとは勉強するのみだ。

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