氷球部!

ねこまた

高い空

小学校最初の冬休み


空は雲ひとつなく晴れていたけど、すごく寒い日だったことは覚えている。


冬休みが退屈だったので俺は近所を散歩することにした。


無意識に学校へ足が向いていたことが、今では運命だったんじゃないかって思う。


あの日、学校に行っていなければ今みたいな人生にはなってなかったはずだから。


何を考えるのでもなく、歩き続けていると学校に着いた。


しかし、学校へ着いたはいいが特に決めていることもなかったので校門の前でしばらく立ち止まっていた。


不思議と車も通らず、雪が余計な音を吸収してくれるので、昼間なのに音のない世界が広がった。


そこにいると異世界にいるような感覚に囚われて、不思議な気分の中大きく息を吸い込んだ。


すると、遠くのほうでなにか音がするのが聞こえてきた。


せっかく違う世界にいる感じだったのに、一体なんなのかと少し腹立たしかった。


けど、なんの音なのか気になって耳をすましてみた。


『パーン』

『ドン』

『ピーーーーッ』


一瞬異世界へ迷い込んだかとも思ったが、笛の音が聞こえたのでどうやらそうではないことに気づく。


しかしどうしても音の正体が気になり、その正体を確かめるために音の鳴る方へと足を進めた。


グラウンドに近づくにつれて、その音は大きくなっていく。


グラウンドには見慣れない壁がそびえ立っていて、何か動いているようにも見える。


その音の正体が気になり、僕はその壁に近づいた。


壁に手をかけようとしたその瞬間


『ドゴッ』


壁のすぐ向こうで大きな音がした。


驚いた僕は後ろに倒れ込んでしまった。


壁の向こうではきっとケンカが始まっているに違いない、とんでもないところへ来てしまった、

学校なんて来なければよかった。


そんな思いが頭の中を駆け巡る。


倒れたまま動けずにいると、壁の向こうから影がこちらを覗き込んだ。


「ひっっっっ!!!」


影の正体を見ようと目を凝らすと、アニメに出てくるロボットのようなものがこちらを睨んだ。


今にも大声で泣き出しそうなそのとき・・・


「あら?ミヤちゃん?どうしたの?ホッケー見に来たの?」


後ろから聞き覚えのある声がした。


近所のおばさんだった。


「ここじゃ見えないでしょ?ほら」


そう言うと、壁の向こうが見えるようにおばさんは俺を後ろから抱きかかえた。


次の瞬間


『スパーーーーーン』


さっき見たロボットが撃ち抜かれ、ロボットが膝をついている。


いや、撃ち抜かれたのではない。


正確には、誰かが打ち込んだ黒い物体がロボットの横を掠めた。


まるで悪役をヒーローが倒したみたいに。


「あれ?ミヤじゃん!何してるの?ホッケーに興味あんの?」


突然そのヒーローが自分に話しかけてきた。


そのヒーローが被っていたマスクを取ると、見覚えのある顔があった。


「え?あ・・・蒼にぃちゃん・・・・?」


マスクを取ったヒーローは、家が近くてたまに遊んでくれる蒼にいちゃんだった。


小学校に上がる前、近所に友達もいなかった俺が公園で出会い、そこから今でもたまに遊んでくれる蒼にいちゃん。


今目の前にいるヒーローの正体が、蒼にいちゃんだった。


遊んでいる時にもたまに「用事があるからごめんね?」と言って帰ってしまうことがあった。


帰る理由はヒーローだったからなんだ・・・!


するとおばさんが


「あら、蒼が誘ったんじゃなかったの?初めて見てびっくりしちゃったかしら?」


と、一言も発せず動きもしない俺を見て言った。


もちろんびっくりしていたんじゃない。


蒼にぃちゃんがかっこよくて目が離せなかっただけだった。


「今日の夜、少しうちに来いよ。」


そう蒼にいちゃんが言葉を発すると、再びマスクを被って向こうへ戻って行った。


「じゃあミヤちゃん、今日の夜はうちにいらっしゃい?お母さんには連絡しておくから」


そう言われて、俺はとりあえず家に一度帰るように言われた。


それがアイスホッケーとの出会いだった。


ただ、あの頃はヒーローがいるとしか思っていなかったが・・・

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