魂(ここ)が震えたら僕だから 〜双子の魂の物語〜
八幡翠
第1話 占い師の家
スカイブルーの家を見つけた。
西洋風の外観、白い窓、アンティーク風ロイヤルブルーに楕円形のガラスがついた玄関扉。
教えてもらったお家の目の前まで来た……がなかなかインターホンを押せず、家の周りをウロウロしてしまった。
大きく深呼吸をして意を決し、玄関まで行く。インターホンを押そうとするが、やはり躊躇してしまう。
「僕が代わりに押そうか?」とユウが言う。
「ちょっと待ってよ」
「押してあげるよ」
「いや、いいって、ちょっとまってよ」
心を落ち着かせてからじゃないと!と押し問答してるうちに、インターホンが押ささってしまった。
ピンポーンと響く乾いた音。
でるな、でるな、いや、やっぱり出て欲しい。でも帰りたい。いや、でも……
「はーい」と扉の向こうから声がする。
ロイヤルブルーの扉を開けたジェーンさんは背の高いロングヘアの女性だった。カジュアルテイストなのか、ジーンズに白いカーディガンという出立ちで、占い師のイメージとはかけ離れた爽やかさを醸し出している。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
ジェーンさんが家の中へ促した。
「こちらこそ、よろしくお願いします。お邪魔します」
丁寧に隅々まで掃除されている玄関。家の中は空気が変わったように感じる。
「左の部屋へ」と言われ、入っていくと不思議な1枚の絵が目に止まった。何故か目が釘付けになった。
光沢のある画材を使って描かれているその絵は、クリオネの形をした双子の兄弟、或いは男女が手を繋いで泳いでいるみたいに見える。
「この絵が気になりますか?」
「ええ、はい…」
なんとなく惹きつけられるというか、引き寄せられるような不思議な絵なのだ。
「願いが叶う絵なんですよ」とジェーンさんが言う。
「願いが叶うんですか?」そんなまさか。
「強く思えば叶えてくれる不思議な絵なんです。双子の魂が手を繋いでいる様子なんですよ」
ジェーンさんは和かに笑うと、「紅茶を淹れてきますので、好きなところに座っていてください」と言い残してその場を離れた。ユウが綺麗な絵だねと言った。
部屋には植物と木製のテーブルと三脚の椅子があった。私はコートを脱ぎ、手前の空いている椅子に恐る恐る座った。テーブルの上には水晶とタロットカード、天使の絵のカードやメモ用紙等が置いてある。
「きっと彼女は本物だから大丈夫。落ち着いて」とユウが穏やかな声で言う。そう言われても落ち着かない。
ユウはいつも飄々としていて、落ち着いている。真似出来たらどんなに楽か……。私は手が震えて怖くてたまらないのに。
ジェーンさんが紅茶を持って戻ってきた。ハーブの良い香りが部屋に漂う。
テーブルに紅茶を一つ置くと、
「では、そろそろ始めましょうか」と言った。
名前、生年月日を渡された紙に記入して手渡した。ジェーンさんは口コミのみでしか占いは受付ていない人だ。
知り合いの話によると前世が見える人だという。だから来たと話すと、普段はタロットカードを使った占いしかしないが、必要なら見てくれるということになった。
「どのような事を占って欲しいですか」
「知りたいことがあって……夢の中で会う男の子がいるんですが、誰なのか、何の目的があって同じ男の子の夢を何度も見るのか知りたいです」と話した。
そう話すと、ジェーンさんは私の目をじっと覗き込んだ。数秒、吸い込まれそうな大きな瞳から目が離せなかった。
「では前世も見てみましょうか」と言うと、深呼吸をして水晶を覗くように言われた。
何秒か沈黙が続いた後、ジェーンさんが話しはじめた。
「中世ヨーロッパのどこかで小さな女の子が男の子と遊んでいます。双子の兄弟でしょうか。かくれんぼをして遊んでいるようです」
男の子は井戸に隠れようとしたが、誤って井戸に落ちてしまい亡くなってしまったらしい。彼女は兄弟が死んだのは自分のせいだと思い、話せなくなってしまったのだと言う。
その話を聞いた途端、涙がポロポロと溢れてきた。滝のように流れてきて止まらない。自分も何故泣いてるのかわからないが、悲しくて仕方がなかった。
「1年か2年ほど話せない時期があったようですが、突然声が出せるようになっています。心配した兄弟が会いに来てくれたからです」
何故か……ああそうだったと心の中にストンと落ちた。
ジェーンさんは続ける。
彼女は兄弟が来てくれたことが嬉しくて、また会いたくて神秘の世界を勉強していったと……。そして、それが今でも続いていませんかと聞かれた。
––––––心臓が飛び上がりそうなくらい驚いた。
「男の子とお話していますよね……今でも。あなたと同じくらいの年齢の男の子。小さな頃からずっとお話していましたよね。その男の子は、あなたと一緒に成長していて……大丈夫、いつも一緒だよと言われていませんか?」
私は驚きを通り越して鳥肌が立っていて、何も話すことができない。
ジェーンさんは水晶を覗き込みながら続ける。
「今日も一緒に来たんですよね。その男の子にここにくるように言われて。あなたは来たくなくて駄々をこねていたんですね……あぁそうか!彼にに連れてこられたんですね」といって笑った。
「あなた、とても嫌がってたんですね」
「はい…こ、怖くて」
「怖かったですか?」
本当にいるわけない。ただの夢、想像力がありすぎるのか、妄想なのかもと思ってきた、ずっと。
そう思わなければ気が狂いそうだったから。
ジェーンさんは再び私の瞳を捉えると、目を離さなかった。何か、もっと奥のものを見ているようだ。
「あなたが感じていること、見えていることは全て真実です。間違ってないですよ。彼もそう教えてくれているでしょう?」
「ええ……はい……」
「ずっと疑ってきてましたよね。怖かったから……あなたはここに確かめに来たのですね」
「だから彼女は本物だって言ったろう?」とユウの声が頭に響いた。
「彼は、今ここにいますか?」
「……声はするので……どこかにいると思います。いつもは私の左側にいるんですが……」
「私には見えないみたい」と言ってジェーンさんは笑う。
ジェーンさんには水晶を通してなら私達の様子がわかるのだと言う。しかし実際に目に見えたり声が聞こえたりはしないと言った。
「この先どうなりますかね?」と聞くと、カードを使って占うことになった。
カードを3つの山に分けて好きなカードを引いていく。ジェーンさんはうーんと唸りながらカードを読んでいく。
私にはそのタロットカードの意味は全くわからない。
「必ずどこかで会うと出ていますよ」
「彼は何なんですかね?」
「守護霊のような…あなたにとっては光そのもの」と出ていますね。
「他に聞いておきたいことは?」
「他に前世はみえますか?他にも言われてる事がありまして、何が見えるかなと」
「他は見えないですね」
関係のないことや、まだ知らなくて良いことなどは見えてこないのだとか。
「必要な時に見えてくるんです」
「いつか見えますかね?」
「あなたには見えているんですよね?」
「……」
「見えているならそれが真実ですよ、カードにも間違いはないと出てます」
タロットカードを見ていたジェーンさんは突然「えぇ!?」と大きな声を上げた。
「ん?あれ?すでに見つけているの?もう出会っている?見つけていると出ているんですが!?」
ジェーンさんは驚きと共に私の顔を凝視した。怪訝そうな表情を浮かべている。
「彼は生きているんですか?……守護霊のような存在でもあるけれど……。日本人の男性として今も生きている」何か悩みながらジェーンさんは呟いていた。
「不思議な存在ですよね……生きていながらどうやって…うーん…彼は何なのか……わかりませんね……」
「私も分からなくて、彼のことを信じていいのかもわからなくて、でも見つけたけど会ってはいないといいますか……詳しいことは長くて」
「なるほど、事情があるんですね」
私はコクンと頷いた。
ジェーンさんはその後も何でそんなことまで知っているの?どう見えているの?と不思議でたまらないほど的確に言い当てていくので、驚愕した。日々の暮らしをこっそり覗き見していないとわからないはずことまで。
ユウから伝えられていた事も、そのまま言われている。少し怖いくらいだ。
『あなたにとって彼は光そのもの』
帰り道、その言葉が反復していた。
そうだったかもしれない。まっ暗闇を照らしてくれる光だったかも。
ユウは爽やかな顔をして、軽快な足取りで隣を歩いている。氷点下で寒いというのに、いつものトレンチコートを風で靡かせながら。
私はというと、本当にいたとなるとそれはそれで嬉しいのだが、どうゆう型で折り合いつけていけばいいのか……まだ聞けてないことも分からないことも山積みなのだ。
きっとこれからが大変そうだなぁと、ふとため息をついた。
「僕は本当にいたでしょう?」
ユウは幸せそうな笑顔で囁いた。
そうだね……。
そしてこれからどうしようか。
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