残像

双葉紫明

第1話

たのしい たのしい お引越し

とうちゃん かあちゃん 頑張って

次の街へと 荷物を運ぶ

要らないものは 置いていけ


残された。

大量のゴミと僕。

こないだまで家族だったものたちにとって、僕こそがいちばん厄介な粗大ごみだったのであろう。

諸事情あり、期日ぎりぎり追い詰められ、繁忙期の仕事とともに片付けなければならない10月末日。

気が遠くなるような、ゴミの搬出をあらかた終えて、ひどい汚れを清掃していると役場の職員。

そう、ここは世帯向けの村営住宅。

僕ひとり、一刻も早く出ていかねばならない。

ただでさえ、色んな事に猶予をもらってるうえ、ひと月引き延ばした期限。

休む間もない作業、しかし晩秋の日は短い。

不合格。

庭や玄関まわりに散乱したゴミを片付けて、また明日。

14年間の暮らしの精算の、その最後の作業。

それは、とてもひとりで背負い切れるものではなかった。

それでもやらなきゃならない。

だって、誰も居ないから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る