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「ゆずきの好きは本当に恋人としての好きなの?」いおりは言った。
「そうだと思う」ゆずきは言う。
「勘違いじゃなくて?」
「たぶん」柚木は言う。
「ゆずきはさ。その、私のどこが好きなの?」
「えっと顔かな?」
いおりの顔を見ながらゆずきは言う。
「顔以外にもなにかあるでしょ?」少し怒りながらいおりは言う。
「いおりは特別なの。だから好きなの」ゆずきは言う。
「私のどこが特別なの?」
「誰かの世界を救ってる。すごいと思う」ゆずきは言う。
「誰かって、誰?」
そんないおりの言葉にゆずきはじっと自分の顔を指さした。
文化祭のだしものとして、演劇をすることになった。演劇の題名は『折れた木の枝』。その台本を書いたのはゆずきだった。
その主役をいおりとゆずきが演じることになる。
王子様(いおり)とお姫様(ゆずき)の役だ。
いおりはあまり乗り気ではなかったのだけど、(満場一致で)決まってしまった。ゆずきはすごくうれしそうだった。
舞台には大きなお屋敷と二階にあるバルコニーがセットとして作られている。(結構本格的だった)
「あなたは特別」
「私の憧れ」
お姫様の衣装をきているゆずきはそんな風に舞台の台詞を練習している。
真剣な顔をして、練習している。
いおりは王子様の衣装を着ている。
することもないので、自分もちゃんと演劇の台詞の練習をすることにした。いおりは台本に目を向ける。
いろんなことを忘れちゃう。
私たちは変わっていく。
忘れないと思う今の気持ちもきっといつか忘れてしまう。
なくなってしまうのだ。
それを忘れたくない。
そのためにキスして欲しい。
愛して欲しい。
私だけを見ていて欲しい。
今だけは。
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