折れた木の枝

雨世界

1 ほら。こっちだよ。早く早く。

 折れた木の枝


 ほら。こっちだよ。早く早く。


「きゃ!」という声と一緒に大きな木の上から(折れた木の枝と一緒に)立花いおりが大葉ゆずきの上に落っこちてきた。

 いおりは木登りがしたくなって、急に木に登りだして、女学園の校庭にある大きな木に咲いている綺麗な花をすぐ近くから、一人でじっと眺めていたらしい。

「ごめんなさい。大丈夫?」といおりはいった。

「……うん。たぶん、大丈夫だと思う」とゆずきは自分のお尻を撫でながらいおりにいった。

 それがゆずきといおりの初めての出会いだった。

 二人の年齢は十四歳。

 この出会いをきっかけにして二人は大の仲良しの友達になった。

 いおりとゆずきは名門美里女学園中等部に通っている女学生で同じ二年桜組の生徒だった。

 立花いおりはとても美しい女の子だった。(学園内でも有名だった)

 初等部のころから綺麗だったけど、いおりは中等部になってもっともっと綺麗になった。ゆずきも成長した。二人は子供から少しだけ大人になった。さなぎが蝶になるように、自然と体が変化し初めていた。

 だけど、心はどうだろう? 私たちはちゃんとだんだんと(先生たちが言うような立派な)大人になれているんだろうか? ちゃんとした成熟した心を持った大人になれているんだろうか? (そもそも、成熟した心ってなんだろう? そんなことも今のゆずきにはよくわからなかった)

 木の下で、尻もちをついているゆずきを見ていおりはとても楽しそうに笑っていた。ゆずきがいおりに恋をしたのは、思わず木に登ってしまうような、ずっと笑顔で幸せそうな、自由な心を持ったいおりが、(その美しい見た目だけではなくて)本当に心から綺麗だと思ったからだった。

「どうかしたの?」

 五月の風の強い青空の下で、美里女学園の制服姿のいおりは同じ格好をしているゆずきを見てそういった。

「実は、いおりに言いたいことがあるんだ。とても大切な話なんだけど……」と顔を真っ赤にしたゆずきは少し照れながらいおりにいった。

「どんな話?」

 いつも通りの自信満々の笑顔をしながらいおりはいった。

「私、いおりのこと好きみたいなの」といおりの手をそっと握ってゆずきは言った。

「え?」

 思わず顔を赤く染めて、動きを止めて、目を大きくして、いおりはゆずきにそういった。(その一瞬のすきをゆずきは見逃さなかった)

 その瞬間、ゆずきはいおりにキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る