第14話 『はてを知るもの』
あるところに大変賢い若者がいた。
生来より賢い頭を持ち、貪欲に智を吸収した。人々が百年以上をかけて蓄えた智を己のものとし、その使い道を理解した。十人の学者に異なる問いを受け、よどみなく答えることもした。請われれば己が持てる智を惜しみなく示し、人々の抱える問題を解決した。
全知なるものと人々は若者を敬った。
だが若者にとっては、日々の瑣末事に悩む人々が理解できなかった。
「生きるための指標、悩みへの回答は全て蓄えられた智に存在する」
何故それがわかろうとしないのだ。
人々はあまりにも愚かで哀れだと、若者は嘆いた。国々の争いも、飢えも、恋愛も。全ての答えは若者の智にあった。王様でさえ、若者の言葉に耳を傾けた。
しかし世界は若者が思い描く形になろうとはしなかった。若者は、蓄えた智の素晴らしさを王に説いた。自分の言葉に従えば、世界は今よりも素晴らしくなるのだと。
「つまり、今の政治は間違っていると」
「ええ」
「君が王になれば、今よりも素晴らしい国を造れると?」
「まあ」
王は、では南端の町をくれてやるからそこで己の理想を試すと良いと言う。
賢き若者は喜び勇んで南端の町に赴き、こう宣言した。
「聞け、町の民よ! 私の言葉に従えば、諸君達は現在の三倍は豊かに暮らせるであろう!」
『あんぎゃ』
直後。
空の彼方よりやってきた巨大な竜が若者をぺろりと飲み込んで、そのまま空の彼方へと姿を消したという。
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