第8話 移動
そして翌日。私たちは今日も両手足を拘束されて暮らす。ただ、彼女の風邪が治ったのは良かったところだが。いい加減この生活もいつまで続くのだろうか。警察は何をもたついているのか。
とりあえず、彼女が今日もしんどそうな顔を見せているのを何とかしたいところだ。
「しんどいよう」
今日も私に泣きついている。風邪が治ったからとは言え、私たちの暇、苦しさ、しんどさが解消されたわけではない。
「大丈夫あと少しの辛抱だから」
そう言って彼女を慰めるが、私も正直しんどい。流石に今日はしんどすぎて叫びたいくらいだ。でも、弱いところは見せられない。もし私が不安なそぶりを見せてしまったら彼女はより心配になっていくだろう。
「ねえ、あと少しってどれくらい?」
……その言葉に私は返す言葉がない。前にそう言った時から一週間は経ってしまっている。もうその言葉には根拠が伴っていない。
「大丈夫。私たちでこの状況を何とかして打破しよ? とりあえず悪口を言おう:
「それ前も言ったじゃん」
「ふふ、そうだね」
「ばーか」
「あーほ」
ガチャ
音がして家の扉が開いた。そして彼が家の中に入ってくる。
「どうしたの? こんなに早く」
そう、悪口を言っていたという事実をもみ消すように言う。
「悪口言ってただろ。それはともかく、移動するぞ」
「え?」
「ここにいるのは少しやばい。この近くの倉庫に移動するぞ」
「倉庫って、え?」
「いいから。ここに入れ!!」
そして猿轡を付けられ、さらに拘束をきつくされたままトランクに詰め込まれる。
その直前優香が泣きそうな顔をしていたが、残念ながら私には何もできなかった。
そして状況がつかめないまま体感で長い時間が経過した。 今暗闇で口も体も全てが動かせないのだ。
今、この瞬間に彼が逮捕されていろと思うが、現実に今どういう状況下は、全く分からない。
そして、永遠と思える時間トランクにいたが、ようやく視界が開かれた。
そこは古びた倉庫だった。
「これからここで暮らしてもらう。いいな」
「ここで!?」
そこは古びた廃墟のような場所だった。見るに田舎なのだろう。ということは、警察の目から逃れるために田舎に移動したという事なのか。
「……ちょっと馬鹿なの? こんなところで生活できると思ってるの? 無理よ。こんなところ」
「……おとなしくここにいるんだ。お前はどうせ俺には抵抗できないんだからな」
「……」
「もし本当に抵抗するとしたらこうだからな」
と、首をつかまれ、思い切り腹を殴られた。痛い、痛すぎる。
「抵抗しない方が身のためた」
そう言って、彼は出ていった。
何か考えが変わったのだろうか、今の彼はものすごく凶暴だ。
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