第10章
大好きな音楽の授業は第二音楽室で行われる。初回の授業に行くと黒板に座席表が貼られていた。私は窓側の一番後ろの席。隣を見ると"遊佐藍"の文字。どくんどくんと全身を揺らす心臓の音はまだ止まない。飛び上がりそうになるほど嬉しかった。あなたの隣に居られるのは音楽の授業だけの特権だから、毎週音楽の時間が待ち遠しくてたまらなかった。
「よろしくね、遊佐くん!」
私から話しかけたことに少し驚いた様子で
「おぉ桜さんが隣か、よろしくな!」
と返事をしてくれた。
隣の席を上手く利用してもっと近づかなきゃ。
「遊佐くんは好きな作曲家とかいるの?」
「んー作曲家か。俺はやっぱりモーツァルトかな。」
代表曲の一つのである"アイネ・クライネ・ナハトムジーク"が頭の中で再生される。いつもこの曲を聴くとワクワクしてたまらない気持ちになるのだった。
「いいね!私"夢を見るから人生は輝く"って名言好きだよ。」
"夢を見るから人生は輝く"これはモーツァルトの言葉だ。
「俺も。自己紹介シートの座右の銘に書いたよ笑」
私とあなたにはピアニストになりたい、という共通の夢がある。
音楽に染まってきた人生。
ピアノに向かう度いつも不安を覺えてきた。けれど奏でた音楽を聴いた家族や友達は満面の笑みを浮かべてめいいっぱいに拍手してくれた。
音楽は私たちにたくさんの愛をくれたのだ。
「俺もこの言葉好きだから。」
もっと一緒にいたいと思ってしまった。
「その好きが私宛だったら良いのに。」
無意識に願望が口から出てしまう。
「え?」
また止められそうにない。
「藍って好きな人とかいるの?」
私は一つ仕掛ける。好きな人がいるか聞くのも、あなたを名前で呼ぶのもこれが初めて。
「いないよ。」
じわじわと安堵に包まれる。
まだ私にもチャンスはあるんだ。
あとはあなたに好きになってもらうだけ。そう思った。
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