第42話 鉄砲伝来

「本当にここは凄いな……」


 共和国が中世ならドワーフの国は産業時代ぐらい上の技術レベルに位置していた。帝国もまた近代的な軍隊や法制度を備えていたが、単純な技術力はドワーフの国が遥かに上だった。


「中まで入った人間は極わずかだ。誇りに思っていい」


「そうだろうな。魔法ですら破れない門に加え、内側はあらゆる機械仕掛けの防衛設備が各所に隠されている。そして街ゆく人々の一人一人に至るまでが戦士と呼べる強さを持っているとは」


「ほう、アンタはさっき戦って来なかったが、ちゃんと強いらしいな」


 ジェイはアクストの言葉を鼻で笑い飛ばし、それからは黙って街の様子を伺いながら首領の元へ向かった。







「──さあ、ここだ」


 案内された場所は空を埋め尽くさんばかりの鉄の摩天楼であった。


「谷間の奥にこんな高層建築物があったのか」


「おい……、これを一番上まで登れっていう言うのか……?」


「もう馬車から降りないとねお姉ちゃん」

「うん、歩いて登らないとだね」


 ツヴァイたちがそう敬遠する様子を見てアクストは笑った。


「安心しろ! エレベーターで一番上まで一気に行ける! 足の短い俺たちドワーフが階段を登っていたら上に着くまで一日が終わるわ!」


「えれべーたー……?」


 アクストが錆び付いたレバーを下ろすと、エレベーターと言うより工場にあるような巨大なリフトがガラガラと降りてきた。

 それは見るからに長年物資の運搬やこの建物の建築に使われてきたであろう古めかしいものだったが、昇降装置自体初めて見るアインとツヴァイは目を丸くして感動していた。


「こ、これに乗って上がれるのか……!?」


「ああ! だがそっちの馬車は悪いが下で待機だな。人は全員乗れるぞ」


「それは凄い……」


 アクストに促されるままジェイたちはリフトに乗り込む。


 全員が乗ったことを確認したアクストが内側のハンドルを操作すると、リフトはギシギシ軋みながらもゆっくり全員を乗せて上昇し始めた。


「おい、これ荷重制限は何キロなんだ」


「それは分からないが鋼鉄の建材を満載でもイケるぞ。人間なんて誤差みたいなもんだ! 安心しろ!」


 いまいち信頼し切れていないジェイは不気味な音に冷や汗をかいた。アインも高所は苦手らしくジェイの腰に掴まっている。

 この状況を心から楽しんでいたのはツヴァイ一人だった。






 アクストの宣言通り、リフトは無事に最上階に到着した。


「首領! ドワーフと取り引きがしたいという人間を連れてきました! 話を聞いてみる価値はあるかと!」


 扉の向こうから「……入れ」と低い声が応える。


「──じゃあ、俺はここまでだ。幸運を祈る」


「ありがとうアクスト」


 ジェイたちはアクストと別れ首領の部屋へと足を踏み入れた。


「……よく来た人間。俺の名はハマー。ここドワーフの国の首領ということになっている」


 立派な髭を蓄えたドワーフが椅子の上から挨拶する。


「俺たちは民間軍事会社ヴァルカン。そして俺は代表のジェイだ」


 ジェイはそう言って手を差し出したが、ハマーがその手を取ることはなかった。


「アクストが認めたということは、それなりの人間であることは理解する。だが時は金なり、だ。こうしている間にも天下に並びなき名剣を作れたはずだった。要件を端的に言え」


「フハハハ! 話が早くて助かる! 俺も似たような考えの持ち主なのでな! ……では交渉といこうか──」


 ジェイは先程アクストに話した内容をより簡潔にまとめてハマーに伝える。

 その間ハマーはただ黙って目を瞑り、腕を組んだまま微動だにせず聞いていた。


「……話は分かった。実力もアクストの折り紙付きだというのは分かるが、実際に見て見ないことには何とも言えないなあ?」


「はあ……。アイン、風通しを良くしてやれ」


「はい」


 アインはMP5で次々に窓ガラスを撃ち抜いていく。


「な、何をやっているんだ!?」


「ツヴァイ、あの重そうな鎧はもっと軽い方が良いと思わないか?」


「……同意だ」


 ツヴァイはAK-12で飾られていた鎧を蜂の巣にした。


「なんて事を!」


「ドライ、あの盾は使い物になるのか試してみたいところだな」


「そうだね」


 ドライは立ったままバレットM82を一発撃つ。反動でドライの髪がぶわっと舞い上がり、身体も大きく後ろへふらついた。

 しかし盾は中央を見事に撃ち抜かれ、その役目を果たせなかったことを示していた。


「大丈夫、お姉ちゃん」

「うん、大丈夫」


「これが俺たちの“銃”という武器だ」


「分かった! 分かったからもうやめてくれ!」


「そうか?」


 ジェイはつまらなそうにハマーへ向けていたアンダーバレルグレネードランチャーを下ろした。


「しっちゃかめっちゃかにしやがって! お前たちは本当に取り引きがしたくて来たのか!?」


「時間がもったいないからな。これが一番早いだろう? 時は金なり、だからな」


 澄まし顔でそう言い放つジェイに、ハマーは脱力して椅子にボスんと身を投げ出した。


「降参だ……」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


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次話2024/05/16 07:30頃更新予定!

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