第36話 闇取引
「荷物は見てもらった方が早い」
タイヴァーは重そうに木箱のひとつを降ろした。
そして蓋を開けるが、そこにはギチギチに食材が詰まっているだけだった。
「は? ふざけるなよ」
「落ち着けって! ──ほらよ」
干し肉とソーセージを掻き分けると、中からは更に小さな木箱が出てきた。
そしてその蓋を開けると、中からは白金貨かバラバラとこぼれ落ちた。
「これだけじゃねえ」
タイヴァーは別の木箱を同様に開いて見せる。
今度は巧妙に隠された中から書類の束が飛び出した。内容はワッフェ共和国の元老院などで秘密裏に交わされた会議の内容が記されていた。
「貴族間の裏金から国の侵攻計画まで……。これをどこへ持っていくつもりだ」
「──帝国だよ」
「帝国?」
「ああ! ワッフェ共和国南方に位置するシュテルクスト帝国さ! 共和国も必死に領土を拡張しているが、それは帝国を睨んでのことだ! それでも大陸最強とよばれるシュテルクスト帝国には遠く及ばない!」
「聞いたことはあるが……」
先進的な科学技術、積極的な魔法研究を元に圧倒的な軍事力を誇るシュテルクスト帝国。もちろんジェイも将来的な商売相手として軽く調査はしていた。
「だがしかし……。つまりこれは帝国への賄賂ということだろう……? 何故そんなことを?」
「……そうだ。上の連中の噂では、共和国がいつ帝国と戦争になるか分からないそうだ。だから万が一を見越してエスタマイルの連中は賄賂を送っているのさ。戦後の自分たちの地位を約束してもらうためにな」
「そんなことが……」
ジェイがこの世界に来て失った最も大きなもの、それは人脈だった。今まで築いてきた多種多様な人材との繋がりは一朝一夕で成るものではない。
ゼロからのスタートとなった彼はそうした裏事情に対して疎い部分があった。
「ちなみに、賄賂の総額はこんなものではないぞ! 俺以外にも別ルートから運んでいる奴がいる! この焦り具合から見るに、共和国と帝国の戦争も近いな……」
タイヴァーからの情報を得て、ジェイの中で点と点が繋がった。
「それであんな強引に鉱山を奪ったのか。どうせ無くなる国なら多少揉めても構わない、と。そして奪った鉱山からの収入で帝国に賄賂を……。はは! 通りで俺に仕事を回さないはずだ! 今更ぽっと出の傭兵なんか頼りにはならないからな!」
「ジェイ様、血が……! あまり興奮なさらないでください……。どこかで治癒魔法を受けないと……」
「ん、ああ……」
アインに諭され、ジェイは頭を振って冷静になる。
「共和国と帝国が戦争になるのは一向に構わん。俺たちにとってはただのビジネスチャンスだ。やはりそれまでに武器の製造と販路の確保をしたいが──販路は頼まれてくれるな、タイヴァー?」
「え、俺が?」
「おいおい! 窮地を救って、更にはこんなベラベラ喋っておいてそりゃないだろう! 俺たちは一蓮托生だ、な?」
「へへへ……。ジェイの旦那には適わねぇや……」
こうしてジェイはこの世界でひとつ、新たな人脈を得ることができた。
「──よし、負傷者は全員荷馬車に乗せたな! 出発するぞ!」
それから、国有軍の検問のような障害もなく、むしろジェイたちはそれぞれの馬を確保したことで楽に任務を進めることができた。そしてそれは日程の短縮にも繋がった。
六日目、遂に一行は目的地シュテルクスト帝国に到着した。
「ここが帝国か……!」
「ジェイ様、嬉しそうですね」
「ああ! 地方都市にもかかわらず、見るからに先進的な街並み! 練度の高そうな兵士! まさに俺の求めていたものがここにある!」
事実、ジェイがそう興奮するほど、帝国は栄えていた。
道路は豪勢にも煉瓦で作られ、その脇には魔導具と思われる街灯が存在する。さらに大きな街道では馬車鉄道すら走っているほどの具合だった。
「ですがジェイ様、まだ仕事の途中ですよ。そして仕事が終わったらまずは治療施設を探さないと」
「ああ、そうだったな。失敬」
ジェイはゴホン! と咳払いをして外套のフードを深く被り直した。
「ジェイの旦那、ここからは俺に任せてくれ。手筈通りに進める」
「任せたぞタイヴァー」
タイヴァーの荷馬車が帝国の都市を守る守衛に近づく。
「……ふむ。書類は確認した。ようこそ、帝国領ヴィヒテヒへ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
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次話2024/05/10 07:30頃更新予定!
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