死の商人、異世界にて暗躍す〜銃火の王は覇道を歩む〜

駄作ハル

第一章

第1話 プロローグ:死の配達

 20××年9月5日。アゼルバイジャン紛争地帯某所。


「アルファチームは正体不明の敵と交戦中。ブラボーチームからは連絡が完全に途絶えました」


 戦火によって廃村となった地域を丸ごと要塞化したこの基地は、現在何者かによる襲撃を受けていた。


「社長、このままでは全滅です!」


「分かっている! ……分かっているさ」


 そう言いながら煙草に火をつける「社長」と呼ばれた男。彼の名はジェームズ・リュウザキ、或いはアイアンズ、または単に武器商人。誰も彼の本当の名前は知らない。


「これは……ブラックホークのローター音……? ナイトストーカーズにブラックオプスが出されたのか……。大統領特命の非合法任務に堂々と特殊部隊を使う辺り、俺も随分と恨まれたもんだな。先月からシリアの駐留部隊で変な動きがあったが、全てこのためだったか」


 戸籍を含むあらゆる過去の履歴が抹消されたこの男の正体は、世界のあらゆる戦争・紛争地域に武器を売り捌く武器商人。死の商人と恐れられる世界一の武器商人だった。


 彼の運営する会社、フロント企業を含む年商は凡そ二千億ドル。裏社会の住人はもちろん、中小国の軍隊すら恐れる軍事力を有する民間軍事会社ヴァルカンは存亡の危機に瀕していた。


「社長、我が社の衛星が全て遮断されています……! これでは核ミサイルの発射は不可能です!」


「ソ連崩壊時のどさくさにウクライナからパクったあの核爆弾なんぞ、ハナから使う気はなかった。こうなりゃお終いだからな。ただのお守りみたいなもんさ」


 パソコンの前で震える秘書の肩に手を乗せ、男は窓からの景色を眺めていた。

 鳴り響く爆発音。炎上する装甲車。闇夜にまるでゲームの光線の様な軌道を描く弾丸。そのどれもが今まで自分が売ってきた商品の一部であると知る男は、ただ漫然とその運命を受け入れるように深く煙草をふかす。


「ロシアに逃げますか?」


「それは無理だな。俺はCIAだけでなくFSBにも恨みを買ってる。KGBの血を引く奴らに拷問されるぐらいならここで死んだ方がマシだ」


「では場所は何処でもいいです! 今すぐヘリで戦線を離脱しましょう!」


「あの武器が満載のチヌークでか? ……まあ、最後にでかい花火を打ち上げるのも悪くは無いか」


 男は秘書と共に地下通路を抜けて飛行場まで歩いた。


 戦闘機パイロットは全て出払い、残っているのはヘリパイロットと飛行場の守衛だけだった。


「危険ですよ社長! バンカーまでお戻りください! ──うぉ!」


 飛行場では地対空ミサイルが米軍のドローンを叩き落とした一方で、対レーダーミサイルと思われるミサイルが上空から降り注ぎ対空レーダーが次々に破壊されていく。

 完全に制空権を失えば戦闘機や戦闘ヘリの近接航空攻撃が加わり、間もなく基地は火の海と瓦礫の山に変わり果てるだろう。


「ヘリを出せ。今すぐにだ」


「米軍から逃げられるとでも!?」


「武装もないこのヘリで飛んでも七面鳥撃ちですよ!」


 ヘリパイロット二人は命令を受けて素早く装備を整えるが、口では男に対して反論する。


「はは! そんなつもりはない。どうせ死ぬなら少しでも天国に近い場所じゃないとな……」


 無宗教の男であっても、死ぬ時は地獄行きだろうと思っていた。ろくな死に方はしないと覚悟もしていた。

 だからこそ、自ら選んだ死に方で死にたいと考えていた。


 そんな思いを察したのか、それとも自らの未来を察し命運を託すことに決めたのか、ヘリパイロットはそれ以上口答えすることなくインカムとヘルメットを装着し操縦席に乗り込んだ。


「どうしたサーシャ。君はここに残るか?」


「……はい。申し訳ございません社長……」


「……いいだろう。では米軍に投降しろ。無抵抗の女までは殺すまい」


 入念に計画された米軍の攻撃。社内に裏切り者が存在するのは確かだが、それを探す時間は残されていなかった。


「出せ」


「は!」


 男と大量の武器弾薬を載せたヘリが徐々に高度を上げ、速度を稼ぎつつ飛行場から脱する。


 しかし離陸から僅か数十秒後、ヘリ内にアラームが鳴り響いた。


「レーダー警報受信機に反応あり! 地対空ミサイルにロックオンされています! FIM-92!」

「回避だ! 急旋回しろ!」


「回避行動は無駄だ。スティンガーは世界一の命中率を誇る地対空ミサイルだからな。……まあ、お前たちも長旅ご苦労だったな」


 二十年以上掛けて積み上げてきた莫大な富と共に、男は空に散っていった。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


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次話2024/04/06 20:00頃更新予定です!

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